見出し画像

副業詐欺に引っかかって全財産を失ってしまった話1

無知が引き起こす疑いの甘さ。


はじめに

 このNoteでは物事を深く疑うことをしない浅薄な筆者が、無在庫販売を利用したオンラインショップの副業詐欺にあい、全財産を失うまでの流れを紹介する。これを読んで、不運にも似たような機会を得てしまうものの、同じ轍を踏まないため教本として役に立てば幸いであるし、かくも愚かな人間がいることに愉悦を感じるための娯楽として楽しんでいただけたら本望である。

お前は誰なのか

 私は鬱病のしがない社会人である。酷いときは一日中寝たきりの状態まで悪化し、仕事どころか人間としての活動すら、ままならなくなってしまった。初めて顔を合わせた精神科の医師からは、いくつか会話をしただけで典型的な鬱病と診断され、なすがままに(なすすべなく?)療養を命じられた。療養のため一年間の期限付きで休職をしていたが、それでも病状はよくならず、来月からは晴れて無職の身となる。

無職無給への道筋

 6月を迎えて日に日に暑くなる頃、私は選択の段階に立たされていた。来月で休職の期間は満了となるため、職場に復帰するため病身に鞭を打つのか、療養中の立場に甘んじて退職するのかのどちらかだった。現時点での生活リズムは治療薬に翻弄され、日常すらまともに送れないこの有様で職場に復帰など到底無理な状態だった。退職に差し当たって一番の心配事は収入である。倹約家な性格が幸いして、ある程度の経済的な蓄えはあった。しかし、受給可能な傷病手当金は残り一ヶ月で満了となり、再就職に向けてすぐに動けそうにないため失業保険の受給も難しい。要は失職して以降のお金を得る手段が無くなってしまうのだ。そのような状況を少しでも打開できないかと模索しているときにあるものと出会う。

無在庫販売ショップとの出会い

 事の始まりはTwitterで知り合った人(以下A)との会話だった。何のきっかけで繋がったのかは覚えていないが、始めは何のこともない世間話から始まり、お互いに性別も国籍も知ることなく交流を続けていた。ある時、私が鬱病で仕事ができないことを話すと、Aは海外市場を対象とした無在庫販売ショップを話題に出してきた。それはお店側が提供するプラットフォームに自分の店を開設し、客の注文を処理すれば30%の利益が得られるという代物だった。私は適当にAの商売の成功を祝っていたが、相手のショップ開設を勧める勢いに圧されたのと、次第に病院代程度でも稼げたら、と軽はずみな気持ちでショップを開設してしまう。ショップの開設には審査が必要であったが難なく通過した。まるで何も見ていないかのような素通りだった。
 オンラインショップは自分の店で扱いたい商品を商品リストから選択する形式であり、家電から美容品、ジュエリーなど多種多様だった。私は、ある程度需要が高そうなBluetoothのイヤホンやヘッドセット、スマートフォンなどを選択した。そして、数時間後にBluetoothのイヤホンの注文が入った。初めての注文に達成感を感じ、どのように対応する必要があるのかをAに尋ねると、注文を処理するためのポイントを購入する必要があると言われた。ポイントは現金をショップに支払うことで追加される形式だったため、私はAに促されるままショップのカスタマーサービスに支払いの申請をした。カスタマーサービスはすぐさま振込先を提示してきた。日本の個人の銀行口座である。この時、法人の銀行口座を所持していないことを疑問に思ったが、注文を処理するために私は30,000円を支払ったのだった。

増える注文と催促

 それからもショップには定期的にBluetoothのイヤホンの注文が入り、小規模ながら売り上げは伸びていった。ショップの開設から数日後には1,800ドルを超えるパソコンの注文が入っていた。正直な気持ちとしては、この注文には悩まされた。この時ショップに追加されているポイントは100程度で、必要なポイントは1,700、日本円にして約30万円である。未だショップに対して半信半疑であったものの、注文を処理した後で払い戻せば良いと考え、30万円の振り込みを申請した。そして、個人の銀行口座が指定された…しかも前回とは異なる口座だった。
 無事に比較的大きな額の注文の処理を終えた私は、正直な気持ちとして生きた心地がしていなかった。今後、大きな額の注文が入ってしまった場合、より多くの現金を振り込む必要があることに強い忌避感を覚えた。儲けを出して引き落とせば良いとはいうものの、当然ながら出せるお金には限度はあるからだ。幸い、しばらくの間は数百~千ドルの注文を手元のポイントで処理できたが、数日後にその嫌な予感は的中してしまう。
 ある日、注文を見ると約9,000ドル分のパソコンの注文が入っていた。流石に喜びよりも愕然とした気持ちのほうが大きかった。手元のポイントは約5,000ポイントで、注文を処理するためには4,000ポイント、約60万円相当の入金をする必要があったためだ。対応が難しいと感じたため、ショップのカスタマーサービスに注文のキャンセル、または分割ができないか交渉を試みた。しかし、カスタマーからは客がすでに現金で支払っているため、注文のキャンセルや変更はできない。そして、注文がタイムアウトした場合は、あなたに法的措置を科すと返された。あまりにも無茶苦茶な言い分で付き合ってられないと考え、売上金を回収してプラットフォームからの撤退を試みたのだった。

ここまで

 読んで、賢い方はこのオンラインショップのプラットフォームが詐欺であると確信しているはずである。まず、金銭のやり取りが絡むショップ運営で審査がほぼ素通りであるはずもなく、何らかの契約を書面で締結するのが一般的である。また、私が利用しているプラットフォームはドロップシッピングと呼ばれ、在庫管理や梱包、配送をプラットフォーム側に委託する運営方式である。これ自体は無在庫販売のプラットフォームで広く用いられている方式だが、私が利用しているショップの注文処理・入金形式は極めて不自然である。一般的な無在庫販売ショップにおける注文から配送までの処理の流れの違いを以下に示す。

客が注文→ショップ側が現金を支払い注文を処理→配送・売り上げの還元

筆者が利用していたプラットフォーム

客が注文し入金→ショップ側が客の入金額をもとに注文を処理→配送・還元

一般的な無在庫販売ショップの処理の流れ

 私が利用しているプラットフォームは、ショップ経営者が現金を入金して客の注文を処理する必要があるため、本当に注文が入っているのかが不明瞭である。悪いように言うならば、プラットフォームの運営が注文をでっち上げてショップ経営者に入金を催促して現金を巻き上げることが可能である。その過程で経営者の売上額が増えた場合、現金の引き落としを妨害すれば、プラットフォーム運営の手元にはたくさんのお金を集められる。実際、オンラインショップに注文が入るものの、客の気配を全く感じられないシステムに非常に強い違和感を覚えていた。
 また、信頼のおける無在庫販売のドロップシッピングサイトは月額料金が設定され、それをテナント料として徴収することで運営を続けられる仕組みになっている。また、経営者がテナント料を多く支払うことで、ショップで扱う商品の数を増やすなどの恩恵を得られるようになっている。一方で、私が利用していたプラットフォームでは月額料金を支払う必要が無ければ、扱うことが可能な商品の数も無制限である。このように、半信半疑のまま運営を続けたことで話はよりややこしくなっていく。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?