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副業詐欺に引っかかって全財産を失ってしまった話2

鬱はかくも判断を鈍らせる。


はじめに

 私は鬱病で働くことができなくなり、今月いっぱいで退職となる身である。何とかして稼ぎを得られないか模索していたところ、SNSで知り合った人に無在庫販売のオンラインショップの開設を薦められる。入金システムや客の注文の不明瞭さに疑問を覚えながらも、オンラインショップの売り上げは順調に進んでいく。

ショップ撤退の検討

 9,000ドル相当のパソコンの注文に対して、さすがに処理しきれないと判断した私は、それまでの売上金5,000ドルを引き落として店じまいを検討した。カスタマーサービスにも注文のキャンセルを申請したところ、注文を処理しなければ売上金の引き落としはできない、注文のキャンセルもできないの一点張りだった。そして、今すぐ現金を送金して注文を処理するよう迫られていた。私は改めて注文を確認し、何とか対応ができないものか模索する。

不自然な注文

 改めて注文の内容を確認すると、オールインワンタイプのPCが2台、ゲーミングPC2台選択されていた。高額の注文が入ったことを嬉しく思うところだが、それぞれのPCは同じメーカーでスペックが異なる機種のもので、不自然極まりなかった。まるで、リストに並んでいるものを適当に選択したかのような状態だった。そこで、私はカスタマーサービスに、購入者の支払い履歴等の証明できる情報の提示を依頼したが断られた。60万円相当の現金を支払いたくなかった私は、他の注文を処理してポイントをため、その後に対応することにした。

ショップ凍結処置

 他の注文を処理して高額な注文のポイントを補填する作戦は気味が悪いほどにうまくいった。手元のポイントを着実に増やせるように高額の注文が入っていくのである。私は10日程度で30,000ドルの商品を売り上げ、保留していた9,000ドル相当の注文を処理できるほどになった。注文の処理に一週間ほどの時間をかけてしまったが、現金を振り込まずに対応ができたのだから一安心だった。しかし、それ以降の注文は一切来なくなってしまった。カスタマーサービスに確認すると、注文を保留したため客からのクレームが来てしまい、ペナルティとしてショップを凍結したとのことだった。こちらの都合で注文を保留したため反論の余地もなかった。そして、契約を解除するために、売上金を全額を引き落とすよう命じられた。この時点での打ち上げは18,000ドル、当時のレートにして約280万円。なかなかの売り上げである。

売上金の引き落とし

 いろいろあったものの、ようやくオンラインショップに振り込んだ33万円の回収の目途が立ち、それが約10倍になって返ってくる。このころは、プラットフォームに対する不信感が薄くなっており、一番油断していた時だと感じている。私はプラットフォームに振込先を入力したところ、カスタマーサービスは5%の違約金を提示してきた。注文を即時処理しなかったことに対する支払いとのことだ。さらに、オンラインショップを構える州の税率に基づく10%の個人所得税の支払いを請求してきた。私はこれらが必要な経費と考え、カスタマーサービスが指定した個人の銀行口座に入金をした。所得税の半分は払い戻され、約300万を得られる…これで全てが終わる、そう思った時だった。

手数料地獄の始まり

 30分以内にすべての資金を受け取ることができる予定です。手続きを終えてカスタマーサービスがそう返答してきた。私は自身の口座に入金されるのをのんびりと待っていた。しかし、30分どころか1時間が経過しても入金はされなかった。何かがおかしいと思い、プラットフォームに入力した銀行口座番号を見ると、一か所だけ数字が入れ替わっていることに気が付いた。これはやらかした…私は口座番号を入力し間違えた!そう思いすぐさまカスタマーサービスに連絡をした。
 プラットフォームの財務担当はすぐに送金を凍結し、銀行が提示した送金総額の保証金20%を支払うよう要請してきた。保証金の納付が完了すると、元本の300万円と一緒に振り込まれるとのことだった。少し不自然に感じたが、気が動転していたのもあり、アメリカの銀行制度はそのようになっているのだと思い送金をした。保証金の支払い後、改めて正しい銀行口座を伝えた。これで高額な資金の誤送金を解決できる、そう安堵して翌日を迎えると、カスタマーサービスから以下のような要請が来ていた。

州銀行はあなたの正しい銀行口座に送金しているとき、システムはリスクを提示している。以前の銀行口座番号の入力ミスによる口座リスクのため、銀行は送金の安全を保障するための商業保険の購入を要求している。この保険金額は送金総額の30%で、加入した保険金額も元本に組み込まれる。

カスタマーサービスが提示した商業保険

 私が誤った送金先を指定して送金をキャンセルしたことで、銀行はリスクを提示しているとのことだった。送金を保障するために私は不服ながら30%の資金1,082,727円を送金する。そして、翌日には以下のような要請が届く。

先日の保険購入に失敗しました。州の銀行は口座のリスクが大きすぎると判断している。リスクを解消するために送金総額の40%の強化保険を購入する必要がある。強化保険を購入した金額は元本と一緒にあなたの口座に振り込まれる。

カスタマーサービスが提示した強化保険

 先日の商業保険では送金のリスクが解消されなかったとして、銀行は強力な保険が必要と判断した。これさえ支払えば売上金が得られると信じ、私は再び1,876,728円を送金する。そして、翌日には以下のような要請が届く。

誤った銀行口座に振り込んだためリスク管理が高くなかったが、先日の強化保険を購入したことで資金のリスクは解消された。しかし、あなたが提示した銀行口座に送金をすることはできなかったため、別の銀行口座を選択する必要がある。
幸い、保険会社が送金額を担保するため、賠償金の30%を収める必要がある。支払った賠償金は元本とともにあなたの口座に振り込まれる。

カスタマーサービスが提示した賠償金

 カスタマーサービスに確認すると、正しい銀行口座を提示したが銀行側が怪しい口座と判断して送金することができなかったとのことだった。私は別の銀行口座を提示し、その賠償金を支払うために3,941,128円を送金する。
 この一連の手続き料を支払ったことで、ようやく送金資金と銀行口座のリスクが解消され、お金を受け取ることができると期待していた。しかし、数時間待てども新しく提示した銀行口座に入金はされなかった。私は確認のためカスタマーサービスに連絡を取る。そして、以下のような返答があった。

日本の税関は海外からの送金に対してマネーロンダリングが関与していると疑い、資金は日本の税関に阻止されている。税関は送金総額の35%を支払うよう要請している。それを支払うことで問題が無いことを証明する必要がある。支払った税金は元本とともにあなたの口座に振り込まれる。

カスタマーサービスが提示した税関検査のための保証金

 この時点で財産はほぼ底を尽きかけており、連日の手続き料の支払いもあって精神的に疲弊していた。それに加えて税関からの5,977,378円の請求である。失った額は決して小さくはないが、全てを失う前に諦める旨の返答をした。すると、カスタマーサービスは私に諦めないようしきりに説得を繰り返し、半額は会社が立て替えるとまで言ってくれた。この時点で私はもう判断力が完全に鈍っており、向こうが協力してくれるのならお金を支払っても良いと決断をしてしまう。
 翌日、私はオンラインバンキング経由で残りの300万円の振り込みを申請した。会社側が立て替えてくれる分は、お金が得られたときにまた支払うのだと信じ切っていた。300万円を振り込んでも、やはり銀行口座に今までの資金が振り込まれることは無かった。カスタマーサービスに確認を取ると、私たちも何度も送金を試みたが、税関は本人からの送金でないと受け付けてくれないと返答した。残りの2,977,378円を自分で支払う必要があるとのことだ。私は手持ちの資金が尽き頭が真っ白になった。

ここまで

 読んで、普通の方ならお金の流れが明らかにおかしいことに気が付くはずだろう。支払った諸々の手続き料が元本と一緒に振り込まれることなど考えられないことである。私も怪しいと感じていたものの、お金が取り返せるかもしれない、これを支払えば全て返ってくると信じて支払いを続けてしまった。日に日に増していく高額な請求に対し、辛いと感じながら感覚がおかしくなったのも事実である。また、鬱病の治療のために服用していた薬の作用で、判断力が鈍っていたのも少なからず関係している。一千万円ほどの貯金が残り数十万円になってしまったことで、初めて冷静に現実を見ることができた。

「日本の税関」による資金の阻止は今もまだ続いている。私は48時間以内に、残りの資金を支払うよう要請を受けている。私にはもう打つ手がないのだ。

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