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台本「則子ちゃんのキャラ弁①」

登場人物
みっちゃん(里山美津子)
谷則子
新島聡美
コウジ

第一場
初秋。11時。
行徳中学校、2年4組の教室内。                       
担任:新島聡美が、生徒:谷則子を立たせ、他の生徒の 前で叱責している。

新島「谷田さん、もっと他人の心を思いやらないと…」
則子「……」
新島「あなたが頑張らないと、うちのクラス、平均点で野田先生や本間先生のクラスに負けてるの」
則子「……」
新島「あなた一人のせいでみんな迷惑してるんだから……わかる?」
則子「……」
新島「日本語わかる? 先生の言ってること」
則子「(頷く)」
新島「え? 勉強したくないの? 勉強、嫌いなの?」
則子「(首を横に振る)」
新島「勉強したいの? やる気「は」あるの?」
則子「(頷く)」
新島「えーそれでこれって……逆にわかんない。なんで意欲があるのにこの点数なのか…先生昔からすぐ勉強出来たからホント谷田さんの気持わかんなくてごめんね」
則子「……」
新島「え~皆さん。今回は、谷田さんの頑張りが足らなかったせいで、野田先生のクラスや本間先生のクラスに勝てませんでした。でも、皆さんは良く頑張りました。今回残念な結果に終わってしまったのは、谷田さんの頑張りが足りなかっただけです。そうなんですよ。先生は、決して差別しているんじゃありません。出来なかった子と出来た子を区別しているだけです。皆さん、わかりますね?」
全員「……」
新島「(則子に)とにかく、明日の頑張って下さい」

チャイムが鳴る。

新島「では、授業を終わります。谷田さん、反省しなさい」

新島、教室から出て行く。途端にガヤガヤと騒ぎ出す生徒達。
ぼんやりと椅子に座る則子。そんな則子の側にやって来るみっちゃんや友人らの姿。

みっちゃん「気にする事ないよ、則子ちゃん、」
則子「うん……」
みっちゃん「則子ちゃん、私達と10点も差が無かったのにさぁ、ホント酷くない?」
友人1「酷い酷いマジ酷い」
友人2「ニージマ性格悪いよ」
友人1「あれ絶対自分のムカムカしてるの則子ちゃんにぶつけてるだけなんだよ、きっと」
友人2「そーそー」
みっちゃん「いじめいじめ」
友人1「差別じゃなくて区別って……めっちゃくちゃ差別してるよねー」
みっちゃん「してるー」
友人2「区別もあんま良い事じゃ無いよね、きっと」
みっちゃん「ホント。マジあれなに、」  
則子「有難う……」
友人2「大丈夫だからね、ニージマがやばいだけ(なんだから)」
みっちゃん「そーそー」
友人1「あ~家庭訪問マジ嫌だ……」
みっちゃん「あ、来週からだよね……」
友人2「そうー……てかなんで中学なのに家庭訪問あんだろ……」
友人1「あーもーやだ……来るよ、来るよニージマ、家来るよ、差別ババア来るよ家に、」
友人2「マジやだー……」
則子「最初……私の家からなんだ……」
みっちゃん「あ……」
4人「…………」

気まずい間。

みっちゃん「則子ちゃんそんな落ち込まないで……お弁当食べよう、」
友人1「そうしよそうしよ!」  

みっちゃんは自分の机へお弁当を取りに行く。
則子もお弁当を取り出す。

則子「………」
みっちゃん「則子ちゃん、則子ちゃんあのね、あのぉ……昨日、お兄ちゃんがね乃木坂の握手会に行ったの、握手券あったからさ」
則子「……へー」
みっちゃん「でもそれ、」
友人1「私達パン買って来るねー先食べててー」

友人1・2、教室から出て行く。

みっちゃん「うん~食べてる~。(則子に)私の握手券だったんだよ。なのに勝手に持ってってさぁー、「今度アイス買ってやるから~」って、握手会行っちゃったんだよ、酷くない? アイスじゃ釣り合わないっつーの……(自分のお弁当を開け)わ、のり弁か~地味~……」
則子「美味しそうじゃん」
みっちゃん「海苔が唇くっ付くんだよね……。則子ちゃんのお弁当は?」
則子「あ、私はね……」

則子がお弁当の蓋を開けると、そこにはご飯や海苔でとても上手に作られた、キャラ弁であった。
御飯や海苔、ウィンナーや卵で綺麗に作られた、誰かの顔がある。
ただ、一目では誰の顔かは判別することの出来ぬ顔だった。

則子「キャラ弁だぁ、すごーい。お母さん頑張ってくれたんだぁ」
みっちゃん「え、それ誰?」
則子「え?」
みっちゃん「なんかのキャラ?」
則子「知らない、お母さんが勝手に作ったから。俳優とかじゃない?」
みっちゃん「あ、俳優? 日本? 韓流?」
則子「さぁ~日本、かなぁ?」 
みっちゃん「俳優の顔のキャラ弁とか、斬新だねー」
則子「(笑う)」
みっちゃん「どこから食べるの?」
則子「(箸でキャラ弁の目に箸を、ほぼ突き刺さんばかりに近づけて)……目?」
みっちゃん「目からいっちゃう?」

教室の扉に、他のクラスの生徒:コウジがやって来る。

コウジ「あ、谷田、あのぉ、」
則子「あ、コウジくん」
コウジ「あの~、ちょっと、」
則子「(みっちゃんの方を気にしつつ)あ、うん……」
みっちゃん「(ニヤニヤし、行ってきなよ、のジェスチャー)」
則子「ちょっと行ってくるね」
みっちゃん「(ニヤニヤし)うん」

則子、呼ばれて扉の方へ。廊下でコウジと立ち話を楽し気に始める。
残されたみっちゃんは、則子とコウジのやり取りをニヤニヤ見ていたが、やがて1人弁当を食べ始める。

暫し教室内は不思議と静かになり、みっちゃんがもっちゃりもっちゃり海苔弁を食べる咀嚼音のみ聞こえる。

すると、
遠くからごにゃごにゃごにゃと、囁き声のようなモノ が、みっちゃんの耳に聞こえて来る様になる。

みっちゃん「(箸を止め、辺りをキョロキョロ見回す)…?」

風の音や、クラスメイトの話し声とも違うごにゃごにゃごにゃ……。
いつの間にか扉の前にいた則子達の姿も消えていた。

聞こえてくる声が気になるみっちゃんは集中して耳を澄ますと、そのごにゃごにゃが次第に言葉として明確に聞こえ始め、「助けてくれー」だの、「うわー」だのと聞こえるようになる。

みっちゃん「(立ち上がり、辺りを見回す)……??」

囁き声が則子の持って来たキャラ弁の口の辺りから漏れ出ている事に気づく、みっちゃん。

みっちゃん「……」

みっちゃん、キャラ弁の口元に、恐る恐る耳を近づける。

キャラ弁「……(キチンとした滑舌で)助けてくれー……」
みっちゃん「うわ――! あ―――!!」

みっちゃんの声に驚くクラスメイト。

クラスメイト「ど、どうしたの?……」
みっちゃん「(キャラ弁を指さし)しゃ、しゃべ……」
クラスメイト「え?」
みっちゃん「お弁当が……」
クラスメイト「お弁当?…え、(キャラ弁を見て)これ?」
みっちゃん「喋った、、、」
クラスメイト「(半笑いで)何言ってんのぉ?……(近くでキャラ弁を見て)あ、なんか不思議なキャラ弁だね……」
みっちゃん「これが喋ったの……」
クラスメイト「え? まだ続ける感じ?」
みっちゃん「たす、けてくれって……」
クラスメイト「もー変なこと、」
みっちゃん「ホントホント言ったんだって!」
クラスメイト「ウインナーの唇が動いて?」
みっちゃん「そこは……ちょっと見てなかったけど、」
クラスメイト「確かにそんな事言いそうな顔だけど……。驚かせないでよねー(立ち去る)」

その場には、みっちゃんとキャラ弁しかいなくなる。

みっちゃん「(じっと横目でキャラ弁を見続ける)」

すると再び、キャラ弁から何かしらの声が聞こえ始める。

キャラ弁「……助けてくれー……」
みっちゃん「!!?」
キャラ弁「……やめてくれー……目にそんな、、箸を近づけるな……」
みっちゃん「(誰かにこの光景を見せたいが、誰もそばにいない)」

みっちゃん、キャラ弁の視覚に入らない様に隠れつつ様子を窺っている。

キャラ弁「……嫌がる相手の眼球に箸突き刺そうとかそんな事するな、どう いうつもりだ……」
みっちゃん「……」
キャラ弁「……おい!……ん?……誰もいないのか?
みっちゃん「……」
キャラ弁「もしもーし……え、…俺は今1人でしゃべり続けているの?……ねぇ、ちょっと……誰もいないのかい?」
みっちゃん「(話しかけて良いかどうしたものかわからずもじもじするがやがて意を決して)……あの……」
キャラ弁「あ、いた。良かった1人かと思った……」
みっちゃん「……(声をかけたもののどうしたものかと)」
キャラ弁「……ちょっと顔見せて、」
みっちゃん「え……」
キャラ弁「良いから、ちょっと顔見せな、オジサン平面だから横いられっと全然見えねぇんだわ。ちょっと正面、正面おいで。ZOOM会議とかとノリは一緒だから。ほら、」
みっちゃん「は、はい……(恐る恐る、キャラ弁に顔を見せる)」
キャラ弁「……なんだ随分若いな。中学生?」
みっちゃん「あんま……言いたくないです……」
キャラ弁「なんでよ?」 
みっちゃん「個人情報なんで……」
キャラ弁「恐ろしいガキだな……まぁ良いわ。あんな、ちょっと説教しやる。正座しろ」
みっちゃん「……え……」
キャラ弁「正座しろ、説教だ」
みっちゃん「はい……(キャラ弁の隣で正座をする)」
キャラ弁「(机の上のキャラ弁は、正座をしたみっちゃんを見る事が出来ず)したか?」
みっちゃん「(以降正座をしたまま)しました…」
キャラ弁「いるんだな?」
みっちゃん「います……」
キャラ弁「度が過ぎるぞ」
みっちゃん「え?」
キャラ弁「度が過ぎる」
みっちゃん「(分らぬまま)……はい………」
キャラ弁「嫌がるキャラ弁の気持も考えないと。いきなり目を箸で突こうとするなんて、それはもう犯罪だからな。するか? 寝てるお父さんの目とか箸で突くとか、するか?」
みっちゃん「しません」
キャラ弁「だろう? これは一緒だから……おい、いるのか?」
みっちゃん「はい、隣います……」
キャラ弁「そうか。もう止めろよ。レーシックしたてなんだから、そーいう衝撃はご法度なんだよ」
みっちゃん「え?」
キャラ弁「なに?」
みっちゃん「……するんですか? レーシック……」
キャラ弁「ん? あ」
みっちゃん「目、ゆで卵ですよね……」

何とも言えぬ、不思議な間。

キャラ弁「いやまぁ……きっとしたんだよレーシック。そんな気がするから。とにかく、目に箸は刺すなよ」
みっちゃん「……あの、キャラ弁さん、」
キャラ弁「なんだ?」
みっちゃん「……私に言われても……困るんですけど……」
キャラ弁「なにが?」
みっちゃん「……」 
キャラ弁「なによ?」
みっちゃん「……私のじゃないんで、違うんで……あなたは私のお弁当じゃないんで、止めろと言われても、ちょっと困ります……」
キャラ弁「え。あ、違うの?」 

そこに則子が漫画を手に戻って来る。
いつの間にか他のクラスメイトや友人たちも教室に戻ってきており、教室内は昼休み特有のざわつきに満ちている。

則子「お待たせー。(嬉しそうに漫画を見せて)借りちゃった~♡」
みっちゃん「……」
則子「コウジくんのイチオシなんだって、知ってる?」
みっちゃん「……」
則子「……え、なんで正座してるの?」
みっちゃん「今、(キャラ弁を指さし)それが喋って、」
則子「なにが?」
みっちゃん「だから(キャラ弁を指さし)それが、」
則子「え、これ? お弁当?」 
みっちゃん「そう、それが喋って……説教されたの、」
則子「説教?」
みっちゃん「目を突くなって、」
則子「え?」
みっちゃん「正座しろって言われて、説教されたの、お弁当に! でお箸で目突くなって言われたの、お弁当に!喋るから、ほら!」

キャラ弁、黙したまま。

則子「(笑い)もー待たせてごめん怒んないでよぉ」
みっちゃん「(立ち上がりながら)違う違う! 本当にそれが喋っ、」
則子「はーいはい」
みっちゃん「違うよ、そう言うんじゃないよ。ホントに言ったんだって、嫌がるキャラ弁の気持考えろって言われて、」
則子「ごめんってー、そんな事言われたら食べ辛いよ~」
みっちゃん「でも本当に、」

すると再び、キャラ弁が「助けてくれー」やら「先端恐怖症なんだよー」とか「降ろせ~降ろしてくれ~」だとかを、風がそよぐ位のボリュームで喋り始める。

みっちゃん「ほら!言ってる言ってる!」
則子「え、なに?」
みっちゃん「今、喋ってるよ、」
則子「これが~?」
みっちゃん「き、聞こえないの?」
則子「うん」
みっちゃん「キャラ弁さん! キャラ弁さーん聞こえますかー? もっと大きな声で言って下さい!」
則子「やめてやめてみんなこっち見てる……」
みっちゃん「ホント聞こえないの?」
則子「もーみっちゃん、なにそのオカルトドッキリ、」
みっちゃん「ドッキリじゃないって……」
キャラ弁「目は、目は止めて……」
みっちゃん「ほら目は止めてって、言ってるもん!」
則子  (箸を手に持ち)もー。早く食べよ? ね?」

則子、キャラ弁の目に何の躊躇もなくブスリ!と箸を入れる。
息をのむみっちゃん。

キャラ弁の口から「ギャ――」という声が、どこか他人事のような感じで響き渡る。

暗転。

続く。

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gake
老若男女問わず笑顔で楽しむ事が出来る惨劇をモットーに、短編小説を書いています。