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忍びの食卓

絶対にばれてはいけない食事がある。

お昼ご飯を選んでいた。スーパーにて。
寿司がおいしいと有名なそのスーパー。しかし出費の多いこの頃。ひとりランチに1000円以上を払うのは躊躇われる。泣く泣く寿司コーナーをスルーし、次に食べたいものを探す。

本能に従って、陳列した食材を舐め回すように見る。
こんな時、私はきっとハンターの目をしている。
自分の身体が欲しているものを見逃すまいと、五感を解放しながら、しかし見た目はしゃなりしゃなりと歩く。

そして目に入ったのは豚足だった。
食べやすそうに一口サイズにぶつ切りにされたそれは、コラーゲンの色香を惜しげもなく漂わせている。魅力的。そういえば、久しく味わっていない。
というのも、うちの夫の性質のためだ。
彼は骨付きチキンなど、生き物の質感を強く思わせるものを食べられない。豚足に至ってはその最たるもので、家の冷蔵庫に存在することすら嫌う。
対してゲテモノ好きの私。おやつにミミガー(豚の耳)をポリポリ食べていたら、「今日はあまり近づかないで」と控えめに宣告されたことがある。
そんなわけで豚足を買う機会がしばらくなく、食べたいと思うことすら減っていたが、今日はやけに食べたい。そうか、ひとりで食べる分には構わないではないか。私は周囲を確認しながら、300円の豚足をカゴへと招き入れた。

帰宅後すぐ、急いた様子でラップを引きちぎり、露わになったソレを手掴みに口へと運ぶ。弾力のある食感。酢味噌の味。骨が歯にあたる煩わしさすらも懐かしい。う、うまい。
夫に見られたら、という背徳感も混ざっているのかもしれない。こんな姿を見られたら、2、3日は根に持たれ、近寄られないことだろう。
中国茶と共に、あっという間に平げてしまった。マラソン後の爽快感すら感じる。
そして大事なのはこれからだ。骨もパッケージもすぐに捨て、手も石鹸で洗う。証拠隠滅は徹底しなければ。洗って乾かしたトレーについて、万が一聞かれたら「ホタルイカ」と答えればいい。完全犯罪だ。ふはは。

このミッションを時々遂行することにしよう。ターゲットにはぜひ、ご内密に。

サポートありがとうございます! いつか、どこかでお会いできたら嬉しいです。