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才能
私は何かやる人間だ、という自負があった。12歳。群馬の田舎で育ち、特にスポーツに打ち込むでもなく、秀でた学力があったわけでもない。平々凡々な小学生である。それなのに、将来自分は凡人ならざる才能を発揮する気がしていた。確信と言っていいかもしれない。あの、根拠のない自信はなんだったんだろう。
当時の私のアイデンティティとして、絵が得意、というものがあった。クラスにひとりふたりいる、休み時間にいつも絵を描いているような、学級新聞を率先して作るタイプの生徒だった。だけど、別に絵を描くことで成功しよう、みたいな気持ちではなく、ただ漠然と、人とは違う何かをするのだろう、と思っていた。それが一体、何においてなのかは分からない。
幼い頃の、誰にも折られていない、ぴかぴかの自己肯定感。根拠のない自信。それから、自分は人とは違ったことをするんだという期待。それらが合わさり、私はなにかやるやつだ、という思考に辿りついたのだろう。
大人になると、自分が思ったよりも秀でていない存在であることを知る。狭かった世界がぐんと広がるからである。こどもだった私は、緩やかな絶望と、客観的視点を得る。
今、32歳になって、絵を描く仕事に就けた。泣かず飛ばずながらも心が折れずにやれているのは、「人と違うこと」に価値を置いてきたからだと思う。絵の世界においては、上手い下手よりも、「唯一無二」であることが何より大事だ。だから、めちゃくちゃに良い絵を描いている人を見て、羨ましい!と思うことはあるけど、だからって「自分の絵はダメだ」とは思わない。私は私の、絵が好きだ。
とはいえ、幼い頃から思い描いてきた「何者かである自分」とはまだ出会えそうにない。宇宙飛行士でも探偵でもない、絵を描いたり散歩しているだけの、なんでもない人間だ。でもさ、なんかその、ちっちゃななんでもない集合体が、私の名前を形成してるのかな、ってちょっと思った。
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