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ハビエル・ミレイは、リバタリアンか?

〝アルゼンチンのトランプ〟ことハビエル・ミレイが、アルゼンチンの大統領選にて勝利した。

https://x.com/SkyNews/status/1726512130604634399?s=20

Sky Newsによれば彼はアナルコキャピタリズム=無政府資本主義の支持者を自認しているそうだが、報道ではしばしば「リバタリアン=自由至上主義者」とも扱われる。

極右リバタリアンの大統領が誕生したアルゼンチン、何が起きているのか? 自国通貨を捨て米ドルを法定通貨にする「公式なドル化」を掲げるミレイ氏とは(1/4) | JBpress (ジェイビープレス) (ismedia.jp)
アルゼンチン大統領選、自由至上主義者ミレイ氏が勝利 (msn.com)
【アルゼンチン大統領選】自由至上主義、中国と距離 内政・外交で迎える転換点|あなたの静岡新聞 (at-s.com)

ここで、リバタリアンの定義について確認しておきたい。リバタリアンとは何なのか、そして、ミレイはリバタリアンなのか?

リバタリアンとは端的に言えば自由至上主義者であるが、もう少し詰めて言えば個人的自由=人格的自由と経済的自由の両方を望む人々である。説明によく使われるのがこの図である。

https://books.r4sv.net/libertarianism/

ここから更に右派リバタリアンと左派リバタリアンとで分かれるのだが、その説明はひとまず措く。さて、ひとくちにリバタリアンと言っても、(左右とは別に)様々の種類がある。次の①から③のうちどれを採用するかということ。

①無政府資本主義(アナルコ・キャピタリズム)…政府的なものを全て拒絶
②最小国家主義…司法、治安、国防以外の政府的なものを全て拒絶
③古典的自由主義…司法、治安、国防と最低限の社会保障を容認し、それ以外の政府的なものを全て拒絶

彼らの自由言説は、主に自然権主義、帰結主義、契約主義といった思想によって裏付けられている。

さて、ミレイはどこに属するだろうか? 自身では①と言っているが果たしてそうだろうか。以下の動画は、ミレイを端的に説明するのに適しているかもしれない。 

スポーツ観光省に文化省に科学技術省…様々の省庁を廃止することを訴えているが、国家の廃止を訴えているわけではない。

次にニュース記事からの引用。

Security emerged as a key element in the electoral campaign ahead of the presidential primaries, when an 11-year-old girl was attacked by two delinquents and died in hospital. La Libertad Avanza dedicated the most extensive section of its electoral platform to this issue. Milei intends to investigate the reduction of the minimum age of legal responsibility, the prohibition of entry into the country of “foreigners with criminal records” and the deregulation of the “legal” firearms market, a measure which sparked controversy during the electoral campaign and which he subsequently clarified. In addition, he proposes to equip, train, and provide technology to the security forces to give them back their “professional and moral authority” and to adopt a policy of “zero tolerance” against crime. Milei’s running mate, Victoria Villarruel, promotes the idea that the Argentine Armed Forces should carry out internal security tasks, a task they are currently forbidden from performing, and has promised that the military budget will increase from 0.6% to 2% of GDP.

https://english.elpais.com/international/2023-11-20/javier-mileis-proposals-for-argentina-economy-security-foreign-policy-and-human-rights.html

和訳はこちら。

大統領予備選を控えた選挙戦では、11歳の少女が2人の不良に襲われ、病院で死亡した事件が起き、治安が重要な要素として浮上した。ラ・リベルタッド・アバンザは、選挙綱領の最も広範なセクションをこの問題に捧げました。ミレイは、法的責任の最低年齢の引き下げ、「犯罪歴のある外国人」の入国禁止、選挙運動中に論争を巻き起こし、その後彼が明らかにした措置である「合法的な」銃器市場の規制緩和を調査するつもりです。さらに、治安部隊に装備、訓練、技術を提供し、治安部隊に「専門的・道徳的権威」を返還し、犯罪に対する「ゼロ・トレランス」の政策を採用することを提案している。ミレイの副大統領候補であるヴィクトリア・ビジャリュエルは、アルゼンチン軍が現在禁じられている国内治安任務を遂行すべきだという考えを推進し、軍事予算をGDPの0.6%から2%に増やすと約束した。

治安と国防について、ミレイはむしろ政府による締め付けを厳しくするという主旨のことが書かれている。たとえば民間にすべて任せるというわけではなさそうだ。この時点で彼はアナルコ・キャピタリストとは言い難く、せいぜい最小国家論者ということになる。

インタビューでは、ミレイは自らを「無政府資本主義者」と位置付け、本来、社会における財とサービスはすべて個人の自発的な契約により支配されるべきであり、納税の強制や所得の再配分などを行う政府を犯罪組織と見なすという極端な哲学を信奉している由である。ただし、現実には、財産権を保護するために軍隊、警察、裁判所等最低限の国家機能だけは認める「最小国家主義者」、すなわち極端な「小さな政府」の信奉者のようである。

「無政府資本主義者」ミレイがアルゼンチンを救えるか  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン) (ismedia.jp)

また、彼は福祉については撤廃を求めていると思われる。

“progressively” removing social assistance plans and cutting retirement and pension funds.

Javier Milei’s proposals for Argentina: Economy, security, foreign policy and human rights | International | EL PAÍS English (elpais.com)

In public health, Milei wants a shift towards an insurance system that would stop subsidizing supply — i.e. hospitals — and finance demand — i.e. patients.

Javier Milei’s proposals for Argentina: Economy, security, foreign policy and human rights | International | EL PAÍS English (elpais.com)

和訳すると

(略)社会扶助制度を「漸進的に」廃止し、退職金と年金基金を削減することが含まれている。

公衆衛生の分野では、ミレイは、供給(病院)への助成をやめ、需要(患者)への資金提供をやめる保険制度への移行を望んでいる。

ただ、前述したようにせいぜい最小国家主義者でありながら無政府主義者を名乗るミレイには、どこか「ほら吹き」というか、誇張癖のようなものがあるのだろう。ゆえに、彼は結果としては「過激な経済右派」で収まるように思われる。そうなると、リバタリアンというよりコンサバである。

リバタリアニズムの波は、やがて日本にも来る。反サロ運動というのは、その一つの形なのかもしれない。
反サロ運動の輪郭|西端 外春 (note.com)

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