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【小説】六兵衛part3 #逆噴射大賞2022

「本番始まりまーす」

「酒は世に連れ、世は酒に連れ。
 日本中の酒を身銭をきって呑み歩いてきました。
 お元気ですか、太田猪三イサンです。
 今日は巷で噂の人気居酒屋、六兵衛さんに来ています」

「はい、カット!先生、冒頭の挨拶はオッケーです。次はお店の中でお願いします」

 猪三イサン先生はスタッフと共に、六兵衛に入って行く。
ちなみに、この先生、本名はイノゾウだ。

 「さてと」カウンターに座ると、掌を擦りながらお店が用意した一杯の酒を呑む。
「このお酒はキレがあるねえ。
 まるで女将さんの小股のようだ。50年間、身銭を切って飲み歩いてきたが、こんなに美味い酒は初めてだよ」

雨音ウネが答える。
「このお酒は、名張の而今です。小股が何処かは存じませんが...。
 あ、先生、そんなに見つめるのはやめてください...」

「いやあ、女将さんは僕の初恋の人にそっくりだよ。隣に来て酌をしてくれないか」

「ハイ、カット!女将さん、次はカウンターで先生にお酌をしてもらえませんか」

「おーい」先生がマネージャーを呼んでいる。
「僕が身銭を切って買ってきた胃薬とウコン剤を持ってきてくれ。
 胃も肝臓もボロボロなんだよ」
そう言うと先生は何種類もの薬を一気に飲んだ。

「本番始まりまーす」

 雨音はしぶしぶ先生の横に座り、お酌をする。

「いやあ、女将さんのお酌が最高の酒の肴だね。もっと近くに寄って」

「うっ、先生、呑みながら肘で胸をさするのはやめてください」

「ん?ホントは嬉しいんじゃないの?
 さあ、もっと近くに」

「あっ、先生、太ももを触るのはやめてください...」

「良いじゃないか。減るもんじゃなし。
 僕はねぇ、50年間、身銭を切って日本中を...」

 雨音がキレた。
「やめ、ゆうとろーがーっ!
 しまいにイテこますど、わーれー!」

 そうゆうと雨音は先生のズボンのベルトを掴み、奥の座敷へ放り投げた。

「これからあんたが今までに見た事のない恐怖を味合わせてやんよ!」


(つづく)


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