”禁酒法”と”ええじゃないか”と緊急事態宣言

3度目の緊急事態宣言が延長されました.
私は酒飲みなので,居酒屋に入れない日々が続くことはとても残念です.
Twitterを見ていると「禁酒法」という言葉も散見されます.
(2回目のときが一番流れてたかな?)
実際は家では飲めるので,禁酒法ではないわけですが...

でも私としては,この禁酒法というやつは面白い着眼点だと思います.
なぜなら禁酒法が生まれた経緯や,そのあとたどった流れを見ていくと,この国の行く先が少し見える気がするからです.

ということで,今回は禁酒法の歴史的な経緯を見ながら,将来の日本について考えてみたいと思います.
ちなみに,禁酒法に関連した情報は大半Wikipediaの当該ページで見ることができるので,詳細が知りたい人は参照下さい.

禁酒法はアメリカ全土で施行された法律で,かつて「高貴な実験」と呼ばれた法律でした.壮大な社会実験であったと語る人がいます.
しかし,実験と言うには,社会に対してあまりにも不可逆なダメージを生んでしまったことが重要です.

禁酒法が社会に与えたダメージとは?
禁酒法が最終的に発生させた問題は以下の2つです.
・犯罪(組織)の増加と地下化
・国民の遵法意識の低下

なぜそうなってしまったのか,歴史的な経緯を追いながら考えていこうと思います.

禁酒法が生まれた経緯
まず当時のアメリカは保守的な国家でした.
これは彼らが「腐敗したヨーロッパから逃れて生まれたプロテスタント国家」として成立させたことが理由です.
だからこそ,宗教の観点から,禁酒・禁煙を一定数の国民が叫んでいました.
この時点では,禁酒派が大勢を占めることはありませんでした.
しかし,第一次世界大戦を契機に新たな問題が噴出します.
ドイツを敵に回したことで,くすぶっていた移民への悪感情が噴出し,その結果,「ドイツ移民(敵)=ビールを販売している」という考え方から禁酒感情が高まっていきます.
このとき酒類業界が協力しなかったことも致命傷になります.
(当時のビール業界は,問題をアルコール度数にずらしてウイスキー業界を攻撃しました.)

そして各地で禁酒法は可決され,国家全体に適応される憲法になりました.

このとき禁酒派にはいろいろな派閥があり,各々異なる形で禁酒法を望んでいました.
・アルコールを悪であるとするもの
・ドイツ憎しでビールを禁止したいもの
・度数の高いアルコールが悪であるとするもの

結果的に生まれたルールはなんと0.5%以上の度数を持つアルコールはすべて禁止するものでした.
0.5%であると発酵食品やお菓子でも引っかかってしまいます.
そして,禁酒法は「望まれて生まれたにもかかわらず,誰にも愛されない存在」となりました.

国民のマインドセットが変化
禁酒法が成立するまであった,宗教的なモラルによって「守れるようにルールを作って守る」という考え方だったのに,「守れないルール」がモラルによって生まれたことにって,国民が根幹であるモラルを疑い始めます.

ここから滑り落ちていくことは簡単で,
・モラルの低下とともに増えていく闇酒場(NYだけで3万店)
・薬用アルコールを飲み始める労働者
・なぜか飲酒量は禁酒前より10%増える
そして,アルコール流通に犯罪組織が咬むことによって更にモラルが低回し,カオスが生まれました.
もともとの国家成立からの性格も相まって,モラルが回復する日は未だ来ていません.

ここまでのまとめ.
禁酒法(守れないルールの成立)において最も大きな問題は,国民の信託を受けているはずの為政者と国民の一体感,そして倫理観の喪失です.

では翻って日本はどうなのでしょうか.
「感染防止のための緊急事態宣言」に疑問を持つ人はいないでしょう.
しかし,それによって「被害を考慮している=守れるルール」として成立しているでしょうか.

例えば単純に,飲食店は大変です.
ただでさえ開店時間やメニューに制限を受け,
応じても協力金の支払いは遅れています.

若者の状況も深刻です.
確かに宣言の本来の趣旨を理解せず,路上飲みをしていることは残念です.
しかし今の若者の立場も決して楽ではないはずです.
まず,部屋が狭い.在宅勤務の机も置けない部屋もあるそうです.
冷蔵庫やコンロが据え付けの部屋も多くあります.料理も作れないし保管ができません.
ネットも携帯だけで,固定回線がない場合も多いようです.
外に出ることが前提の部屋では,彼らは働くためにも外に出て,外食せねばなりません.
選択肢はコンビニか外食しかありませんが,残業すれば20時に店が閉まるから,外食はできません.仕事のために外に出ることを求められながら,食事もコミュニケーションも禁止されるわけです.

確かに,禁酒法と同じで全く守れないルールではないでしょう.
酒はなくても人は生きられる.話さなくても人は生きられる.
しかし,かたや家庭を持ってある程度生活の安定した世代と,上記の若者が同じ気持ちで「守れるルール」でしょうか.
少なくとも若者のほうが守りにくいことは間違いないでしょう.
それを若者が「守れない」と思ってしまえば禁酒法と同じ「望まれて生まれた,誰にも愛されない法律」となり,モラル低下が始まります.(路上のみを肯定しているわけではありません.)

私には彼らの行動は今風の「ええじゃないか」に見えます.
コロナに対する行動は,彼らが明確な政治的抗議ではない形で為政者の行動を変えうるかなり有効な手段でしょう.(意図的に行なっているかはわかりませんが.)
今ならまだ間に合うと思いますから,ぜひ若者にも苦もなく守れるような制度を設計し,モラルが完全に崩壊が防がれれればよいと思います.

最後におふざけですが,このままモラルが崩壊したら次に何が起こるか考えてみました.

簡単に起きそうなところ
・時短営業を拒否する(≠無視)する飲食店の発生←最近出てる
・五輪を理由にした集団密集
・酒は設置してあるが提供はしておらず,飲むと罰金になる店←もう出た?

もう少ししたら起きそうなこと
・駅前で椅子とテーブルを貸し出すサービス
・罰金を払って24時間営業して利益を出す店舗
・飲食点に酒の行商人が入ってくるようになる(タバコの販売みたいに)

じゃあ逆にモラルが低下しないようにする方法は?
・ネット予約が優先されるワクチン接種会場
・若者の生活の質を向上する補助(ネット回線とか家電とかの設置補助)
・感染対策の質でランク割りして,飲食店の閉店時間を延長する
こういった努力や行動にインセンティブを与えるやり方だろうか.

「若者が問題であるから拘束せよ」と「守れないルールを作る」と誰も幸せにならないので,「鍵を握る若者のために何ができるか」というマインドセットにしたらもっと平和にみんなで幸せになれるかもしれない.

最後になりますが,これはタイムリーな話題ですが特定の団体や世代の批判を目的としたものではありません.
歴史的に似た現象をもとに,一つの可能性を予測してみる,自分ならどうするかという思考実験です.
同じようなことを考えている方がいれば,アイディアを聞かせてもらえれば嬉しいです.

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