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18.健康は個人の問題という落とし穴

健診結果の項目は生活習慣によって悪化するものもあり、食事や運動、喫煙、飲酒、睡眠といった生活習慣の改善を促すことが多くなります。しかし、その際にその生活習慣を個人の問題・個人の責任であると捉えることには注意が必要です。生活習慣は個人がコントロールできないものもあり、働く環境に決定されることもあるからです。労働者の困りごとの主要な原因が職場にあるのに、それを個人の責任として対応することは、労働者を追いつめることや、解決の遠回りになりかねませんのでご注意ください。これはいわゆる「犠牲者非難 (victim blaming)」と言えるでしょう。産業保健活動では、個人の視点だけではなく、組織・集団・職場の視点も持つ必要があり、さらには、地域・社会・文化という視点もときに必要です。労働者の健康問題の改善の切り口がそうした俯瞰的な視点によることも生じてきます。個人の健康の問題から、集団の健康の問題の解決を模索することは、産業保健の醍醐味とも言えるかもしれません。

この落とし穴の背景・参考になる情報をご紹介します。

健康診断の歴史

職域の健診の目的は健康のためではなく、「働けるかどうかを判断するため」という記事を過去に作成しましたが、実際には以下のように健診項目は変遷しており、いくつかの目的が包含されています。(画像引用元URL

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職域の健診は1911年の工場法より始まり、その目的は感染症から成人病予防(生活習慣病)へと変化しました。2008年には「作業関連疾患」として脳・心臓疾患やメタボリックシンドロームの早期発見・予防が考慮されて現在に至っています。そのため、健診の目的には「働けるかどうかを判断するため」だけではなく、作業関連疾患(特に脳・心血管疾患)の早期発見・予防も含まれています。

Work related Diseases

作業関連疾患**

WHOは1982年に作業関連疾患を次のように定義しました。
「認定された職業病以外で作業環境と作業遂行が疾病の要因として著しく寄与するが、その程度が種々である健康障害で明確な職業病とは区別され、一般の人にも出現するが、作業環境のなかで遭遇する危険因子から惹起され、あるいはそれが関与するもの」
これを言い換えたのが次のようなものです。
「完全な業務上の因子により発症する職業病とは違って、一般疾病(私病)のうち、過酷な条件や作業環境によって、その疾病の自然経過より急速に発症がみられたり、病勢が増悪する疾患」

作業関連疾患は以下のようなものがあります。

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現代の職場で問題になっている疾病は、職業病は減少し、生活習慣病やメタボリックシンドロームおよびメンタルヘルス不調など、かつては私傷病(いわば個人の問題)とされた疾病が多くなっています(もちろん職業病も未だ重要です)。そしてそれらは作業関連疾患であるとも言えますし、その予防は事業者の安全配慮義務の範疇となりえますし、産業保健職として対応するべきものになります。つまり、保健指導などの場面でも作業関連疾患の予防や早期発見に注力する必要が出てきます。その際には職業性因子についても注目しなければなりません。なお、この作業関連疾患として最も防ぐべきは過労死・過労自死であると言えるでしょう。

SDH (Social Determinants of Health)

健康の社会的決定要因**

「健康」は、所得や学歴、仕事、居住地、性別、国籍、人種など、様々な健康に影響を及ぼす社会的要因によって形成されます。これを「健康の社会的決定要因:, SDH social determinants of health」と呼びます。(下図参照:参考資料4より引用)そして、職場環境もその要因に1つと言えます。産業保健職として、関与・介入できるのは、SDHの一部分に過ぎないかもしれませんが、対象者の「健康」「病気」がどのように形成されているのかを探り解決を模索する姿勢が求められます。

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生活習慣病という表現は海外では用いられておりません。海外ではNCDsと呼びます。

非感染性疾患(Non-Communicable Diseases, NCDs)世界の死因第1位のNCDs(循環器疾患・がん・糖尿病・慢性呼吸器疾患)対策には、予防と管理の活動を体系的に進めていく必要があります。WHOの定義では、不健康な食事や運動不足、喫煙、過度の飲酒などの原因が共通しており、生活習慣の改善により予防可能な疾患をまとめて「非感染性疾患(NCDs)」として位置づけています。(製薬協HPより)

生活習慣病は怠けている、サボっている、堕落しているからなるんだ、という誤った認識に陥らないように注意してください。以下の記事もおすすめです。
生活習慣病という用語は廃止すべきだ」 東大教授がそう訴えるわけ
糖尿病を生活習慣病と呼ぶの、もうやめませんか ~決して怠け者の病気ではありません~

参考資料

1.産業医の職務Q&A(第10版)増補改訂版 p443-448
2.労災疾病臨床研究事業補助金 作業関連疾患の予防等に資する一般定期健康診断を通じた効果的な健康管理に関する研究
3.労働安全衛生法に基づく健康診断
4.日本プライマリ・ケア連合学会の健康格差に対する見解と行動指針

病気の上流を診る医療(TED talk)

貧困は「人格の欠如」ではなく、「金銭の欠如」である(TED talk)


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