産業医に興味のある医学生・医師向けQ and A
Q. 産業医資格の取得方法は?
端的に言えば、50単位取得してください。「産業医学新興財団 産業医になるには」もご参照ください。まとめて単位が取れる講習会は「産業医資格取得・研修会まとめ」ににまとめています。
Q. 産業医のための勉強方法は?
本を読む、社会を知る、学会・研修会に参加する、産業保健職のネットワークを構築することを勧めます。
おすすめの学会は「産業保健職が検討するべき学会集」
おすすめの書籍は「産業医を始めたら購入を検討する書籍」、「産業保健をちゃんとやりたい人が検討する書籍」
医学生・研修医中から勉強したいという方は、以下の方法をおすすめいたします。
・社会情勢を知る、新聞やニュースを読んでみる
・Twitterで産業保健アカウントをフォローしてみる
・Facebookの産業保健オンラインカフェに入る
・自分の病院の安全衛生活動(産業保健活動)を調べてみる
・産業医・産業保健の研修会に参加してみる
まずは産業保健総合支援センターが無難です。
・産業医の記事を読んでみる
・産業保健職とのネットワークやコミュニティに参加する
元産業医のカステラ女王先生の「医者の逃げ手段として産業医はアリ? その理由4つ」にある通り産業医とつながっていくことがとても重要だと思います。これだと思う産業医がいれば、名刺を渡したりFacebookでつながっていくことをおすすめいたします。皆さんとても優しいので無下にはされないはずです。産業医がどんなことしているかは知りたい場合は、産業医の記事を「医学生向け:産業医のキャリア記事集」にまとめていますのでご参照ください。
Q. 産業医の研修会とは?
こちらがオススメです。
・日本産業衛生学会
・産業医アドバンスト研修会
・産業医大プレミアムセミナー
・産業医プロフェッショナルコース
・産業医学実践研修会
・産業医学基本講座
・TOMH(東大精神保健学分野主催)
・さんぽ会
その他にも、各地域の医師会や産業保健総合支援センターでも研修会は行っていますのでご確認ください。
Q. 労働衛生コンサルタントのための勉強法は?
労働衛生のしおり、産業医の職務QA、過去問が3種の神器です。過去問は公開されているものもありますのでご確認ください(リンク)。また、産業医経験がある程度ないと合格はかなり厳しいと思います。「労働衛生コンサルタント受験準備講習会」はぜひ受けましょう。
Q. 産業医は臨床研修医中でも取得可能か?
初期臨床研修医でも取得可能です。医学生は不可です。
Q. 産業医の臨床の知識や専門性との関連は?
産業医活動はある程度の臨床の知識(初期臨床研修程度)があれば十分に行うことができます。臨床の専門があることは産業医活動の強みにすることもできるでしょう。また、精神科じゃないとメンタルヘルスができないということも一切ありません(こちらのnote参照(有料))。ただし、臨床マインドが強すぎることには注意が必要ですし、自分の専門の臨床領域のことばかり産業医活動で行うことは望ましくないでしょう(「臨床マインドによる落とし穴」参照)。産業医は臨床医のように診断と治療を行う立場ではありませんのでご注意ください(「診断と治療の落とし穴」参照)。しっかりと企業のニーズを見極めて産業医活動を行ってください。
(「臨床マインドからの脱却」(有料)・「産業保健マインドとは」(有料)も参照)
Q. 産業医に向いている人は?
なお、私見ですが、産業医は企業において主役ではないため、主役的な診療科よりも裏方的な診療科の方が親和性は高いかもしれません。また、求められるのは会話力と調整力、質問力、想像力だと思っています。そのため、特に、調整力が問われる診療科は親和性が高いかもしれません。が、これもやってみなければ分かりませんし、色々な産業医と喋ることで、自分にあったキャリアモデルを見つけることが良いかもしれません。
こちらのPOP先生のブログもご参照ください。
「産業医の仕事をより楽しめる、産業医に向いている人の8つの特徴」
Q. 企業が求める産業医とは?
当たり前かもしれませんが、ちゃんと企業に来てくれる、メールを返してくれる、服装がちゃんとしている、ちゃんと話を聞いてくれる、企業を理解してくれる、押し付けてこない、情報を共有してくれる産業医を求めている、という話はよく聞きます(逆に言えば企業側はこのようなことができない産業医で困っているという話です)。また、メンタルヘルス事例で困っているという企業は多いため、精神科医の方が求められやすい傾向は一部でありますが、精神科の守備範囲と、企業におけるメンタルヘルス活動は違いますので注意してください(「メンタルヘルスは精神科が専門の産業医じゃなければ対応できないのか」(有料記事)もご参照ください)。なお、企業側は、専門医や労働衛生コンサルタント資格はほとんど全く求めていません。(企業側は求めていませんが、産業医が採用面談に関わる場合には、信頼性が高まります)
以下のK先生のツイートもご参考まで!
Q. 専属産業医と嘱託産業医とは?
専属産業医とは、事業場の従業員が1,000人(夜勤などの特定業務が500人以上)を超えている場合には、常勤する専属産業医の選任が法的義務づけられています。勤務頻度・訪問頻度はまちまちですが、週3〜5日です。
嘱託産業医とは、事業場の従業員数が50~999人の事業場は、嘱託産業医の選任が法的義務づけらています。訪問頻度は月1回が多いです。※本社、支店、工場、営業所などはそれぞれが1つの「事業場」とみなされます。また、産業医のうちおよそ9割程度が嘱託産業医です。
Q. 産業医をどう始めたらいいか?
いわゆる「一社目の壁」問題と言われるものです。つまり、産業医資格を取っても1社目の産業医案件の取り方がわからない産業医業務をすることなく、資格を眠らせてしまうことです。
一社目の壁を越える方法の例としては、以下のようなものがあります。
・エージェントに複数登録して産業医案件に応募する
・地域産業保健総合支援センター(地域医師会)からの紹介
・知り合いの開業医から産業医案件を引き継ぐ
・地域の公衆衛生・衛生・産業医学系の大学教室を訪ねる
・産業医の勉強会に参加する
→この部分は「一社目の壁の超え方」として記事化しました。100円の有料記事にしていますがご興味があればご一読ください。
Q. 産業医の求人はどこで確認できる?
A.複数のエージェントに登録してみてください。産業医の求人が多く掲載されています。以下のエージェントがお勧めということではありません。またエージェント経由が産業医になるためにお勧めということでもありません。求人情報を複数見ることで、相場感がわかると思いますよ。
Q. 産業医の収入は?
専属産業医で言えば、ざっくり言えば、800ー1600万円程度です。専属産業医の雇用形態(正社員・契約社員)は様々ですし、昇給やボーナス、有給・産休・育休、退職金、定年なども様々です。研究日のあるなしも募集によって違います。
嘱託産業医で言えば、ざっくり言えば、時給1万円〜5万円ですが、これも案件次第です。
カステラ女王先生の「【勝手に産業医入門マニュアル(4)】産業医料金の決め方」もご参照ください。
Q. 産業医に定年はあるのか
専属産業医として雇用されている場合は定年がありますし雇用延長もあるでしょう。雇用条件にもよりますが、企業側から要請され続ければ、60歳以降も産業医として選任され続けられるでしょう。65歳までは働けると思っていていいのではないでしょうか。
Q. 産業医に産休・育休はあるのか
雇用条件次第と言えますが、専属産業医として正社員雇用されている場合には産休・育休などが取得可能な場合が多いでしょう。
Q. 産業医に有給はあるのか?
法律通りに取得可能です。「年次年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています(厚生労働省)」も参照してください。
Q. 産業医に賞与はあるのか?
雇用条件次第と言えますが、専属産業医でとして正規雇用されている場合には賞与があるでしょう。
Q. 産業医のその他の福利厚生は?
専属産業医として正規雇用されている場合には、他の従業員と同様の福利厚生を利用できます。例えば、家賃補助、社員寮、社員食堂、資格取得支援、保養所、社員旅行、クラブ活動、企業年金、持株制度などを利用できる場合があります。
Q. 研究日とはなにか?
産業医の募集事項に「研究日」が設定されているものがあります。産業医も産業保健や臨床保健などに関する専門的な知識をアップデートしたり研鑽を積むことが非常に重要です。そのため、研究日を活用して、大学などで研究活動や論文執筆を行っている方もいますし、臨床医として外来や手術などをされている方もいます。また、研修会の受講や、講演活動をされている方もいます。研究日の取り扱いは企業によって様々で、勤務日扱いの有無や、研究日の中身に縛りの有無も変わってきます。応募時に研究日の取り扱いについては各企業の担当者などにご確認ください。
Q. 産業医に転勤はあるのか?
他地域にも事業所がある場合は転勤を命じられる場合があります。ただし、大手企業のごく一部に限られると思います。
Q. 産業医と臨床との両立は可能か?
可能です。臨床専門医をとってからでも産業医を始めることも可能です。産業医はいつからでも始められます。
産業医が臨床というマジョリティからの逃げ道としてもありだと思います。ワークライフバランスを考慮してでもありだと思います。医師の資格を生かした道として、産業医は一つの選択肢です。ただし、産業医は臨床の延長ではありませんので、不勉強で半端に足突っ込むと、企業や従業員を不幸にすることもありますし、産業医自身も訴訟リスクを抱えることになりますのでご注意ください。
なお、個人的な経験としては、若いうちから産業医をした方が、色々と教えてくれる機会は多かったと思います。現場の人事担当者、安全担当者、保健師さんなどに育ててもらったと強く感じています。ただ、これは学ぶ姿勢の問題かもしれません。とはいえ、医者という種族は、プライドが高くなって人から学ぶ姿勢が乏しくなりがちです。臨床専門医をとってから産業医というルートもありますが、自分の臨床経験を忘れて産業医として活動するのは容易ではないと思います。
Q. 臨床をやりつつ産業医も最低限ちゃんと学ぶ方法は?
日々の生活動線上で情報を得る方法として、TwitterやFacebook、メールマガジン、ニュースアプリなどを活用してみてはいかがでしょうか。また、産業医の勉強会やコミュニティに一つは属すことや、イケてる産業医と定期的に話す機会を持つこと、わからないことを相談できる先を持つことが有用だと思います。産業保健のブログ・メルマガなどの情報は「産業保健職が勉強できるサイト集(企業・個人編)」にまとめていますのでご参照ください。
Q. 産業医をやることについて親から反対されている場合は?
特に親が臨床医の場合、産業医に対して偏見を持っている方も少なくありません。つまり、産業医は高齢になってからするものだ、専門性がない、稼げない、臨床こそ医師の本分だ、といったことでしょうか。ある意味では仕方のないことだと思います。そのため、子供が産業医を専門とすることに、反対をすることもあるようです。そこで、その際の効果的な説明としては以下のようなものがあります。
・産業保健に対する社会的ニーズの説明
・医学における予防医学の説明(社会的決定要因と絡めて)
・産業医の専門性の説明(専門医制度と絡めて)
・産業医の収入の説明
本回答は、産業保健活動辞典第二版. 産業医の専門性についての効果的な説明(p48-49)を参考にしています。
Q. 産業医を始めるなら専属?嘱託?
産業医をしっかりやりたいのであれば、専属産業医がオススメです。大企業や労働衛生機関(健診機関)は産業医・保健師も多く体制が整っているため、指導も受けやすいですし、専門医を取得できる環境がある場合もあります。さらに、オフィス系よりも製造現場がある方が産業医活動が多彩になるためオススメです。オフィス系は、どうしても過重労働・メンタルヘルス問題が多くなりがちのため、産業医としての経験がやや偏ります。
臨床医をやりながら、嘱託産業医を少しずつやってみて、そこから案件を増やしていくという方法もあります。産業医が合う合わないもありますので、とりあえずやってみるというのもありかもしれませんが、個人的にはどっぷり浸かってみるという方がおすすめです。なお、最近ですと、嘱託産業医案件を多数もつような独立開業系産業医も増えてきています。
補足:専属産業医経験で得られること
・組織の意思決定を見ることができる(関与しやすい)
・組織のキーパーソンと関係性がつくれる
・マネジメントや仕組みづくりに関わることできる
・現場担当者から学ぶ機会が多く得られる
・社内外の教育の機会が得られる
・他職種*連携で産業保健活動が行える
(*産業看護職や心理職、衛生管理者など)
・腰を据えて産業保健活動を行える
・組織人としてのイロハを学べる
※いずれも企業によって異なります。
(専属をやる意義の一つとしては、「産業保健職に必要な組織力学を知るということ」(有料)も参照ください。嘱託でも学べますが、組織の中に入った方が、この辺りは学べると思います。)
→この部分は、「専属産業医のススメ」として記事化しました。有料記事ですが、専属産業医をやってみたい方はぜひご一読ください。
Q. 専属産業医をやるなら選ぶポイントは?
若手向けです。
1.教育体制がある
2.専門医がとれる
3.幅広く産業医経験が積める
かなり企業が限られるかもしれませんが、専属産業医だからこそ積める経験、資格取得ができるということはあります。給与面、福利厚生、立地などとのバランスでなにをとるかになってきますが、産業医としてのキャリアを考えるのであれば、上記3つがポイントかなと思います。
産業医の1日はどんな感じ?(専属産業医)
産業医の1日は、メールチェック、面談、委員会、職場巡視、打ち合わせ、資料作成あたりがメインになってくると思います。日によっては面談だらけという日もありますし、ひたすら打ち合わせ、資料だけで終わるという日もありますね。K先生のツイートもご参考に
Q. 産業医のやりがいは?
個人的な思いとしては、ざっくりですが以下の通りです。
・マネジメント感・仕組みづくり
「産業医がいなくても回る仕組みづくり・マニュアルづくり」
・予防医学感
「予防はとことん貴い」
「たとえ感謝されないことでもやりがいがある」
・幅広感+奥深さ感
「終わりなき探求」
・社会医学感、公衆衛生感
「産業医学は常に社会変化とともにあり」
・社会使命感・社会貢献感
「社会の課題の解決にこそ仕事の価値がある」
・ワークライフバランス感
「 好きなとき好きな場所で仕事ができる 」
Q. 産業医も自身の健康管理はどうするのか?
産業医自身も労働者として働くことがあります。産業保健部門(健康管理部門)が大所帯であれば、産業医にも上司がいますので、一般的なその方からの支援を受けることになります。しかし、産業医はかなり裁量権が高い立場にあるということもあり、基本的には自身による健康管理(セルフケア)ということになると思います。「産業保健職自身のセルフケア」(有料記事)という記事も作成しましたので、そちらもご参照ください。
Q. 日本産業衛生学会の専門医取得は必要か?
前述の通り、現状では企業側としては専門医の有無はほとんど全く関係ありません。また、専門医があっても収入には大きく影響はないでしょう。しかし、産業医学は深く広い学問ですので、その深め方として専門医取得する過程はとても勉強になります。体系的に学ことができ、専門家同士の交流も貴重でした。学会発表や、論文執筆などの学術的活動にも有効です。企業において産業保健体制を構築する際には、指導医・専門医を持っていることは産業保健職のリクルートの点でも有用でしょう。若手の先生からすれば専門医・指導医資格を持った産業医がいる企業の方が働いてみたいと思う可能性が高いでしょう。私が産業医就職先を紹介するときにも、ちゃんと指導体制があるところを勧めます。
なお、個人的には専門医を取得することで初めて専門家としてのスタート地点に立つことができ、専門家としての覚悟が固まったように思います。
ただし、専門医取得できる環境も限られていますし、ライフイベントや産業医ポストのタイミングもありますので、専門医取得にはこだわりすぎなくてもよいかもしれません。なお、産業衛生学会には必ず参加しましょう!専門職として学会に所属することで得られるアイディンティがありますし、学会を通じ専門的知識をアップデートしていくことは専門家としての務めだと思います。
Q. 社会医学系協会の専門医取得は必要か?
私が移行期間で取得できてしまったため、現在の取得方法に関しては説明できるほど詳細がわかっていません。ハードルは高いかもしれませんが、社会医学系専門医についても可能であれば取得を勧めます。
おまけ:ガチンコで産業医を目指すためのタクティクス👑
・初期臨床研修中に産業医資格取得
・研修会の講師でこれだと思う先生に名刺持って突撃!
・大手企業の産業医に見学申し込み
・東京開催の産業医基本講座を受講する
・onlineで学べる産業医アドバンスト研修会に入る
・Facebook産業保健オンラインカフェ(無料)
・Twitter産業医アカウントフォロー&DM(無料)
・産業医大の大学院へ進学(産業衛生学修士・産業衛生学博士)
・産業保健系の大学の門を叩く・新聞など社会の情報を収集する
なお、千葉労災病院は、研修プログラムで、産業医研修があるのでおすすめできそうです(詳しくは知らないのですが・・・)。
こちらもどうぞ
産業保健を研究テーマとしている大学の例(随時追加予定)
情報募集しています。
・筑波大学 産業精神医学・宇宙医学グループ
・信州大学 衛生学公衆衛生学教室
・東北大学 産業医学分野
・東京大学 精神保健学
・東京大学 環境安全本部
・千葉大学 環境労働衛生学
・東邦大学 社会医学講座
・帝京大学 大学院公衆衛生学研究科
・東海大学 医学部基盤診療学系衛生学公衆衛生学
・北里大学 産業精神学
・慶應大学 衛生学公衆衛生学教室
・名古屋大学 環境労働衛生学(衛生学)
・順天堂大学 公衆衛生学講座
・金沢医科大学 衛生学
・三重大学 公衆衛生・産業医学分野
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・岡山大学 疫学衛生学分野
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