見出し画像

本格的に産業医活動を行うための12の障壁

この記事の背景と狙い

ちゃんとやっている産業医を増やしたい

私がnoteのガチ産業医ブログや書籍(産業医のピットフォール)を出したり、Twitterで情報発信をしているのは、産業医をちゃんとやる人を増やしたいからです。テキトーに、片手間に、産業医をやって欲しくはないのです。だからこそ、産業医活動のピットフォール(落とし穴)という切り口で産業医活動をより上手にやるための秘訣を出したり、情報戦である産業保健活動を効率的に行えるように記事を書いています。

顧客企業に向き合って産業医活動をしている産業医を増やしたい

産業医有資格者は10万人いますが、産業医を、いわば片手間にやっている方が多いのが現状です。日本の全ての産業医全員が、本気でやるべきである、とは言いませんが、少しでも多くの産業医が、産業医活動をちゃんとやっている状態になって欲しいというのが私の思いです。「ちゃんとやっている」という言葉のニュアンスは非常に難しいのですが、🦍先生の言葉を借りれば、「自分の顧客企業に向き合って仕事してるか」「顧客企業の労働者に向き合って仕事をしてるか」ということが近いのかなと思っています。

産業医という職業へのマッチング率を上げたい

最近では、産業医科大学の基本講座を受ける学外の先生方(産業医科大学卒業生じゃない方)も増えてきていますし、産業医を本格的にやりたい人が増えてきている印象です。とは言え、その人たちと話していても、実際には受講後にいくつもの障壁があって、本格的に産業医をやっていくのは簡単ではないようです。せっかく産業医をやりたいと思ってくださり、産業医活動を始めたのに、撤退してしまってはもったいないと思うんですよね。また、そのミスマッチは、企業にとっても労働者にとっても不利益をもたらしてしまいます。
 なので、この記事では本格的に産業医業務をやれるようになるまでの障壁を整理することで、少しでも撤退者を減らしたいと思っています。「思っていたことと違う」「こんなはずじゃなかった」「そんなことなら最初に言って欲しい」という状況に陥ることを減らしたいのです。本記事を通して、産業医という職業へのマッチング率を増やしたいなと思っています。これから本格的に産業医をやりたいと思っている方にとっても、少しでも参考になれば幸いです。

産業医としての知識および能力の維持向上に努める

労働安全衛生規則第14条第7項には、以下のような規定があります。

産業医は、労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識及び能力の維持向上に努めなければならない。

(法律で書いてあるんだからやるべきだと正論をかざすのは嫌われてしまうかもしれませんが・・・)

産業医活動は、臨床活動のように結果が分かりくいのですが、それでも企業や労働者、社会に対して不利益をもたらしうることはあります(参照:「産業保健活動の侵襲性を考える」)。そのため「自分の顧客企業に向き合って仕事すること」や「顧客企業の労働者に向き合って仕事をすること」のためには、まさに「労働者の健康管理等を行うために必要な医学に関する知識・能力の維持向上に努めること」は欠かせないと思います。産業医活動に割く時間の多寡に限らず、そのことには真摯に向き合って欲しいと思っています。なにをもってちゃんと産業医活動をやっているかどうかを判断することは非常に難しいと思うのですが、少なくとも、「自分はちゃんと産業医活動をやっている」と胸を張って言える方が増えればいいなと私は考えています。

障壁の越え方について

障壁を可視化したところで、簡単には越えられないじゃないか、というお声もいただきました。それぞれの障壁に越え方は示してはいますが、確かに容易ではありません。特に産業医科大学卒業生以外にとっては困難さが大きいことも承知しています。しかし、それでも私はまずは可視化することに意義があると思っています。可視化されて直面することが予測できるからこそ対策がとれるものだと思っています。

また、個人的には、障壁を越えるためのリソースとして、一助となるように、ガチ産業医ブログを書いていたり、X(Twitter)で発信をしています。また、産業保健オンラインコミュニティ(COEDOH)をつくっています。一部有料化していますが、作成側のボランティア性にも限界がありますので、その点はご理解くださいませ。記事を書くことにも少なくない工数をかけておりますので投げ銭いただけると幸いです。


本格的に産業医活動を行うための12の障壁

0 産業医を知らない

あえて0番を振っています。産業医が周りにいないと、そもそも産業医ってなにもの?なにそれ?という人がちらほらいます。産業医に初めて会いましたって人にたまに会いますしね。ちなみに産業医を養成する大学でも、その医学生さんが、初めてちゃんと産業医と話しましたって人がいたりします(講義には来るのですが、会話はしたことない人もちょこちょこいるみたいですね)。産業医過疎地域では、産業医が生まれにくい、増えにくいという循環に陥りやすいんですよね。

1 産業医資格

当たり前ですが、まずは産業医資格を取得するところが入り口となる障壁です。ざっと言えば、毎年3,000人くらいが産業医資格を取得しているので、この障壁を超えている人はそれなりにいます。が、1週間で資格が取れる集中講座は毎回大人気で即完売の状況のようで、資格取得すること自体はできるはずなのですが、このチケット争奪戦という障壁は確かに存在しています。北海道・北陸・関西・四国では集中講座がないため、資格取得の障壁が大きく効いていると思います。かといって、50単位をコツコツ集めるのもけっこう大変でしょうしね。

この障壁の越え方
上記サイトも活用しつつ、現在所属している職場と交渉して1週間の休みを確保してチケット争奪戦に勝って集中講座を受けるか、1.5ヶ月の休みを確保して産業医基本講座を受けるか、猛勉強して労働衛生コンサルタントに受かるか、といったところでしょうか。

2 一社目の壁

この壁は、こちらでも説明している通りです。多くの産業医資格を取得した医師は、その後1社目の産業医案件をどうやって得てよいかわからず、資格をそのまま放置することになります。

この障壁の越え方
有料記事設定ですが、以下のような記事も書いていますので参照ください。


3 産業医活動との相性

産業医活動は、臨床医のように、症状を訴える患者がいて、それを診断して治して、感謝されるという仕事ではありません。企業によっても活動内容は変わるし、自分から積極的に企業や労働者のニーズを探しにいき、それを予防、解決することが求められ、感謝されないことも多いです。そのため、やりがい感や醍醐味感が得られにくい仕事です。産業医の仕事の多くは地味で地道な仕事なことが多いです。予防活動というものはそういうものなのですが、いわば「医者っぽくない仕事」なんですよね。医者っぽい仕事というのは、えてして白衣を着て、聴診器をつけて、メスを握って、といったドラマに出てくるようなイメージを指すことが多いと思いますが、医者のかなり多くは、そういう医者っぽい仕事の方がやりたいんですよね。産業医活動は医者じゃなくてもできることばかりじゃないか、といって嫌になる人もいるようです。
臨床のようにガイドラインがあるわけではないため、答えがない産業医活動に戸惑うという声もよく聞かれます。なにをどこまでやればいいのか分からないんですよね。法律に書いているから、厚生労働省の資料にはこう書いてあるから、といって正論をかざしたところで、事業所では相手にはしてもらえないですし、むしろ厄介者扱いされてしまいます。
なので、これらの産業医活動との相性で撤退する人はけっこう多いように思います。
有料記事設定ですが、以下のような記事も書いていますので参照ください。

この障壁の越え方
相性とか適性の問題も大きいと思います。事前に情報を収集して、自分が産業医に合うかどうかをがんばって見極めてください。とはいえ、最終的には「やってみるしかない」ところではあると思います。


4 オンボーディングの欠如

産業医として事業所に着任しても、産業医に対してオンボーディングはされないことが多いです。手取り足取り産業医業務のレクチャーは受けられません。そのため、なにをしていいかわからず、産業医に与えられた居室でポツーンと一人で手持ち無沙汰にしている、ということも多いみたいなんですよね。専属産業医とは言っても、朝から夕方までびっしり仕事が詰まっていないことはありません。自分からニーズを探りにいくと言われても、そのやり方を教えてくれる人もいません。そうすると、当然ながらつまらないですよね。やりがいなんて感じられにくいですよね。なので、産業医は自分には合わないといって撤退する人もいるんですよね。

この障壁の越え方
産業医が複数いるような企業に所属するか、オンボーディングを積極的に依頼するか、といったところでしょうか。雛みたいに口を開けていても誰も餌はくれないので、自分から積極的に動き、お願いすることが重要だと思います。産業医をどう扱ってよいかわからない企業も多いですからね。


5 ネットワークの欠如

嘱託産業医が二人いることはないでしょうし、専属産業医が二人いるような規模の事業所はほとんどないため産業医は事業所で一人のことが多いです。そのため、産業医は基本的に孤独です。指導を受けられず、相談する先もなく、誰も声をかけてはくれないし、一緒に勉強しようと誘ってはくれません。超孤独です。そして、孤独は、産業医寿命を縮めます。孤独にならないようにネットワークをつくりましょう(とは言っても、そう簡単なものではないのですが)。

この障壁の越え方
学会(特に、懇親会)、研修会、SNSなどを通じて積極的に動いていくことが求められます。既存のコミュニティに参加することも手っ取り早いと思います。オンラインのコミュニティや、地域の地場のコミュニティ、大学の公衆衛生学教室、さんぽセンターによるコミュニティのようなものがすでに形成されていることもあります。なければないで自ら作る!という気概も必要だと思います。また、社会医学系・労働衛生専門医取得を目指す過程で仲間ができるという方も多いと思います。

6 産業医教育の欠如

最近では、産業医アドバンスト研修会や、産業医科大学の基本講座やプレミアムセミナーといったコンテンツも充実してきたと思いますが、それでも世の中には産業医教育といったものはほとんどありません。みな、手探りで産業医活動を行っているのが現状です。そうすると、自分がやっていることが正しいのか、イケているのかどうかが分からないわけで、非常に不安ですよね。かといって産業衛生学会の専門医をとるにはハードルが高く感じてしまう。それらの結果、産業医を長く続けていこうとは思わない、ということになりえてしまいます。

この障壁の越え方
指導体制にある企業に就職する。社会医学系専門医、産業衛生専門医を目指すことで指導体制が得ることもできると思います。まずは、専門医の窓口をノックしてみてください。


7 それまでに培った臨床経験

産業医資格を持った方は、月に数日の産業医業務から始めて、自分に合うようであれば(案件が増やせるようであれば)、少しずつ産業医の比率を増やしていくというパターンが多いようです。その際には、それまでに培った臨床経験は、産業医にガチにハマっていくことの障壁となります。自分の過去の経験をなるべく活かしたいと思うのはある意味当然だと思います(参考:サンクコスト)。産業医業務に活かせる臨床経験も十分ありますが、大きくジョブチェンジまではしない、という方が多いのだと思います。専属産業医になる人が少ないことの背景としても、この要因が大きいと思います。産業医に一気に舵をきるのはややリスキーだと感じる方も多いのだと思います。なお、臨床経験といってもさまざまな要素がありますので、産業保健に活きる部分も多くあります。なので、全ての臨床経験が障壁になるということではありません(産業医活動に臨床経験は必要か論争についてはすでに記事を書いていますので、ご参照ください。有料ですが)。

この障壁の越え方
活かせる部分は活かしつつ、産業医活動に臨床マインドを持ち込みすぎない方がいいと思います。そのため、産業医としてマインドセットを変える、臨床経験で培ったことはこだわりすぎない、一旦リセットする、アンラーニングする、ということも必要なのではないかと思います。


8 企業とのマッチング

産業医活動は企業によって大きく変わります。そして、産業医としてのやり方が企業とマッチするかどうかも変わります。重厚長大企業や地方の製造業でやっていくことが合う人もいれば、都内のIT系企業でやっていくことが合う人もいます。一人で産業医をやっていた方が輝く人もいれば、複数人とか看護職がいた方が機能する人もいるでしょう。ある企業で大活躍している産業医が、他の企業でも活躍できるかどうかは分かりません。専属産業医でうまくやれる人が、独立してもうまくやれるかどうかも分かりません。産業医を始めたところが、たまたまマッチしなかったので撤退するということもあるあるなのです。運もまた実力のうちなのかもしれませんが・・・

この障壁の越え方
情報収集と、自分の得て不得手を見極めていくしかないでしょうね。サラリーマン金太郎じゃないですが、就職とは会社との恋愛みたいなものなので・・・。嘱託産業医として複数の産業医を持つ場合には、合う合わないがあるからこそのリスクヘッジとはよく言われますよね。

産業医も会社と・・・・・・恋愛をしたい💗

9 親・パートナーブロック

産業医を本格的にやろうとしたが、そんなものは医者の仕事じゃない!と親やパートナーに反対されるケースもちらほら耳にします。医者と結婚したのだから医者っぽくない仕事はして欲しくない、周囲にどう説明すればいいのか、と言われたというケースも聞いたことがあります。

この障壁の越え方
以下について自分で説明して説得するしかないのかな、と思います。もしくは、ブロックを無視して、やりきるか・・・?
・産業保健に対する社会的ニーズの説明
・医学における予防医学の説明(社会的決定要因と絡めて)
・産業医の専門性の説明(専門医制度と絡めて)
・産業医の収入の説明

10 年齢

産業医人口の増加で、首都圏を中心に産業医案件の競争は激化しています。その中で、年齢が高いことを理由に不採用とされるケースも多いようです(首都圏だけの話ではないとも思いますが)。事業所側からすれば、それなりに若い産業医の方が相談はしやすいでしょうしね。ある程度経験を積んでいる百戦錬磨の産業医ガチ勢であれば、ある程度年齢がいっても選任されることはあるでしょうが、経験が少ない高齢産業医は、案件を獲得するのはやや厳しいのかもしれません。また、女性の方が相談しやすいといった声もよく聞かれるので、男性の方がより厳しいのかもしれません。

この障壁の越え方
若いうちから産業医をはじめること
年をとっても、謙虚に他者から学ぶ意識を持つこと
7のように過去の経験にこだわらないこと
あたりでしょうか

11 地方

医師はえてして都会に住みたがる傾向がありますよね(というか医師に限らずそうだと思いますが)。地方に住みたい医師はそう多くはないし、それは産業医でも同様です。自分は地方で働きたいと言ってたとしても、自分の子供は都会でいい教育を受けさせたいと思う方も多い気がします。この流れは止められないと思います。そんなわけで、地方では産業医が少なく、産業医のネットワークもなく、仲間もおらず、相談相手もおらず、指導医も不在で、産業医をガチでやっていくための土壌がないということになります。従業員規模1000人を超える企業がほとんどないような地域は専属産業医が必要ないため、その地域のコアとなる産業医がうまれにくいという状況もあります。ということで、地方の産業医ガチ勢は増えることも期待がなかなかできない、ということになります。地方にも事業所があって、働く人がいるんですけどね。これは本当に解決が難しい問題だと思っています。

以下の記事でも解説しています。

この障壁の越え方
地方はSNS・オンラインが生命線だと思っています。また、学会や研修などの学びのためには、大規模都市に行くことを躊躇わないことも重要だと思います。私はゴルフや飲み会のためだけでも数時間の移動をしていました。

結論

産業医ガチ勢はなかなか増えない

なんとか、この記事を参考にしていただき、少しでもガチ勢が増えますように!



感想ツイートあつめた

フィードバックありがとうございます。

フィードバックありがとうございます。

フィードバックありがとうございます!


いいなと思ったら応援しよう!