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HPVワクチンの情報提供のすすめ

追記. 積極的勧奨が再開されました!

2021年11月に積極的勧奨が再開されることが決定しました!

追記.キャッチアップ接種が始まりました!

2022年3月にキャッチアップ接種が決定されました!

HPVワクチンのキャッチアップ接種に関するリーフレット 厚生労働省

平成9年度~平成17年度生まれまで(誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日・およそ17歳〜25歳)の女性のうち、HPVワクチンの接種を逃した方には、2022年4月から2025年7月までキャッチアップ接種を無料で受けられます。ぜひ、このことを職域でも情報提供しましょう!


はじめに

HPVワクチン(Human papillomavirus vaccinne:HPVV)は、個人的には産業保健職として積極的に職域現場でも情報提供するべきものだと考えています。しかし、働き世代においては、HPVの話題はあまり関連がないと捉えられがちで、産業保健職の中でもあまりHPVが話題になることは多くありません。HPVワクチンは、がんを防ぐことが証明されている希少なワクチンです。であるにも関わらず、日本ではHPVワクチンの接種が非常に遅れている現状があります。そこで、今こそ産業保健職の皆さまにもHPVワクチンを各現場で情報提供をしていただきたいと思い、本記事を作成いたします。

1. 前提となる知識

1.1 子宮頸がんとHPVワクチンの関連とは

以下、日本産婦人科学会の「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」より引用です。

子宮頸がんの95%以上は、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスの感染が原因です。子宮頸部に感染するHPVの感染経路は、性的接触と考えられます。HPVはごくありふれたウイルスで、性交渉の経験がある女性のうち50%~80%は、HPVに感染していると推計されています。性交渉を経験する年頃になれば、男女を問わず、多くの人々がHPVに感染します。そして、そのうち一部の女性が将来高度前がん病変や子宮頸がんを発症することになります。
 HPVに感染してから子宮頸がんに進行するまでの期間は、数年~数十年と考えられます。HPVに感染した女性の一部は、感染細胞が異常な形に変化して、前がん病変を発症します。HPVの作用による細胞の異常は、軽い異常(軽度前がん病変)が起こり、その中の一部は、さらに強い異常(高度前がん病変)に進行します。
 これらの異形成は、一般的に症状が出現しないため、「子宮頸がん検診」で見つけられます。しかし、がん検診を受診しないと、気づかれないまま、前がん病変から子宮頸がん(浸潤がん)に進行することがあります。
 発がん性HPVの中で、とくに、HPV16型、HPV18型は特に前がん病変や子宮頸がんへ進行する頻度が高く、スピードも速いと言われています。しかし、HPV16型、HPV18型の感染は、HPVワクチンによって防ぐことができます。このように、子宮頸がんでは、原因であるHPVに感染しないことによってがんにならないようにすること(1次予防)と、がん検診によるスクリーニングでがんを早期発見・早期治療し、結果的に子宮頸がんによる死亡を予防すること(2次予防)ができます。このように子宮頸がんは、最も予防しやすいがんであり、がん予防の知識が大切となる病気です。

こちらは「みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト」より「そもそも・・・子宮頸がんって?

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1.2 HPVワクチンとは

子宮頸がんの原因になるのは200種類以上あるHPVの型うち、十数種類あると言われています。HPVワクチンのうち2価と4価は、十数種類のうち特に悪性度の高い2種類(16,18)を防ぐことができます。4価では、これに加えて性感染症の1つである「尖圭コンジローマ」の原因のとなる2種類(6,11)を防ぐことができます。9価では更に5種類のがんになる頻度が多い型のHPVを防ぐことができます。17歳になるまでに HPVワクチンを打つと、30歳までにかかる子宮頸がんの88%を防ぐことができるということがわかっています(N Engl J Med 2020; 383:1340-1348.)。
*2 価 HPVワクチンはHPV16,18 、 4 価 HPVワクチンは HPV6,11,16,18 、9 価 HPVワクチンはHPV6,11,16,18,31,33,45,52,58 を標的としています。

なお、HPVワクチンの安全性については厚生労働省の資料をご参照ください。
厚生労働省 HPVワクチンの安全性・有効性に関する最新のエビデンス

また、みんパピ!のリーフレットもご紹介します。

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参照)
9価ヒトパピローマウイルス( HPV )ワクチンファクトシート(令和3(2021)年1⽉31⽇ 国⽴感染症研究所)

1.3 HPVワクチンの積極的受診勧奨中止の経緯

2009年 HPVワクチン承認
2013年 4月定期接種開始
     疼痛又は運動障害など多様な症状が報告、マスコミ等で多く報道
     6月積極的勧奨中止(現在も継続中)
2016年 厚生労働省:接種していない人でも同様の症状ありと報告
2020年 厚生労働省:対象者や保護者に対して個別に情報提供の徹底を
     HPVワクチン9価承認
     HPVワクチン4価の接種対象に男性追加(定期接種は未対象)
追記
2021年11月 HPVワクチンの積極的勧奨の再開
2022年3月 HPVワクチンのキャッチアップ接種

現在もHPVワクチンは定期予防接種の一つですが、積極的勧奨は差し控えられているという現状で、一時は7割に達した接種率は2014年度以降、1%未満に低下してしまいました(最近は微増傾向)。HPVワクチンの接種率が低下することによって、本来HPVワクチンを接種することで予防できたはずの子宮頸がんが発生し続けるという、公衆衛生上の未曾有の危機が起き続けていると言えます。

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参照)
HPVワクチン接種、じわり増加 がん予防効果示す調査も―勧奨再開へ議論進む(上図はこちらの記事から)
HPVワクチンに関するこれまでの経緯及び対応(厚生労働省)
「HPVワクチン」大量廃棄…世界から批判を浴びる日本の実情

2. 産業保健職の果たせる役割とは

2.1 産業保健職にとっても無関係ではない

理由1:産業保健は公衆衛生の一翼
医師法第一条にある通り、医療職たる産業保健職は、公衆衛生の向上・国民全体の健康な生活に責任があります。そして、産業保健職は、公衆衛生の一翼として、産業領域・働き世代を担う専門家です。これは、母子保健・学校保健や、老人保健を担う地域保健との橋渡しとなる領域です。母子保健・学校保健から引き継がれた働き世代の方々の健康を支援して、その先の地域保健・老人保健に引き継いでいきます。健康は途切れるものではなくつながっており、医療・保健もまた途切れずに存在していく必要があります。このように、公衆衛生全体の視点でも、私たち産業保健職の役割を考える必要があり、公衆衛生上の大問題となっているHPVワクチン問題は決して他人事・専門外ではないと捉えていただきたいのです。

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理由2:家族の健康問題もまた産業保健のカバー範囲
産業保健職のカバーする範囲は、担当する企業の従業員の健康問題だけではなく、その家族(両親、パートナー、子供)の健康問題も含まれると思います。家族の健康問題は、その従業員の就労に大きな影響を及ぼしうるからです。例えば、両親の介護、パートナーの病気、子供の育児・病気のようなものです。その健康問題に対して、必要な情報を予防的に提供することも非常に重要だと思います。HPVワクチンだけではなく、肺炎球菌ワクチンや、パートナーの健診・検診受診などの健康管理、子供の感染症・ケガ・応急処置などの情報提供が挙げられます。仮に、直接的に従業員自体がHPVワクチンの対象じゃないとしても、優先順位は低いとしても、産業保健職としてHPVワクチンに関しては、情報提供をする事項の一つであると私は考えます。

理由3:働き世代も接種が検討される
現在、
HPVワクチンの定期予防接種は、小学校6年~高校1年相当の女子が対象です。しかし、HPVワクチンは必ずしもその世代だけが予防接種の対象であり、その世代だけに恩恵があるわけではありません。HPVワクチンは基本的に初めての性交渉の前に接種することが推奨されていますが、性交渉を経験したあともワクチンは有効であると考えられています。そのため、働き世代であってもHPVワクチンの情報提供をすることにも意義があると言えます。若年女性が多い企業では、特にHPVワクチンの情報提供の意義は、より高くなると言えるでしょう。

追記
2022年時点で16歳〜25歳を対象にしたキャッチアップ接種(HPVワクチンの接種機会提供)が始まりました。産業保健職のターゲットである働き世代についても、HPVワクチンの対象になります。
参照)
パピローマウイルス(HPV)ワクチンの接種を逃した方へ~キャッチアップ接種のご案内~(厚生労働省)
性交渉の経験があってもHPVワクチンの効果はありますか?

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画像はこちらのツイートより

理由4:子宮頸がん以外のがんの原因になる
ヒトパピローマウイルス(HPV)は、皮膚や粘膜に感染するウイルスで、200以上の種類(型)があります。粘膜に感染するHPVのうち少なくとも十数種類が子宮頸がんの患者さんから検出され、「高リスク型HPV」と呼ばれています。これら高リスク型HPVは性行為によって感染しますが、子宮頸がん以外に、中咽頭がん、肛門がん、腟がん、外陰がん、陰茎がんなどにも関わっていると考えられています。性感染症である尖圭コンジローマもHPVの感染が原因の一つです。子宮頸がんワクチンとも言われるHPVワクチンですが、それ以外の多くの病気を予防することができるのです。このような情報は知らない方が多いと考えられ、HPVの情報提供は職域も含めて幅広く行なっていく必要があるでしょう。特に、男性にもHPVワクチンは接種可能であり、その恩恵があることは、情報提供に織り込んでもよいのではないかと思われます(HPVワクチンによる集団免疫効果も期待されるところです)。
参照)
「子宮頸がんワクチン」男も打つべき2つの理由

2.2 なぜ今なのか

これまでは重要じゃなかったか、と言うとそうではありません。これまでもHPVワクチンは非常に重要でした。HPVワクチン未接種の若者が性行為で感染し続けている現状があるわけですから、少しでも早く少しでも多くの方がHPVワクチンを打って欲しいという状況はこれまでと同様です。しかし、特に今がHPVワクチンの接種を積極的に推進する正念場である、という事情があります。

それは、キャッチアップ接種(定期接種で接種機会を逃した方が、接種する)のための時間とお金が関係することや、世界的にも貴重なHPVワクチンの需要・供給の状況など、そのためのターニングポイントが今であるという点からです。詳細は、以下の参照リンクもご確認ください。

参照)
パピスペvol.1(10月26日みんパピTwitter spacesまとめ)
・木下喬弘先生のVoicy「#16. なぜHPVワクチンは今年が勝負なのか
田村厚労相のHPVワクチン積極的勧奨再開「先送り」発言に 製薬会社MSDが遺憾の意を表明
・Amamino氏の以下のツイートも参照

2.3 医療職全体の一貫性

HPVワクチンの積極的勧奨が中止になってから、今にいたるまでに、一部の医療職のスタンスとして無関心があったように思います(かく言う自分も2018年頃まではその一人でした)。しかし、このような問題で大事なことは、医療界・医療職全体の一貫性であると思うのです。そして、後述のように両論併記はかえって危険であると思っています。
 例えば、喫煙習慣については、どの医療職に聞いても概ね同じような回答が返ってくるという状況が、集団全体が禁煙に向かうために大事ですよね(さらには友人・同僚や、メディアも含めた一貫性もあるとさらによいです)。もしここに、「喫煙の害はよく分かりません」、「喫煙は専門外だから」、「喫煙が身体に良いと言っている医者もいる」という方がいるほど、「なんだ喫煙も賛否両論あるんだな」と捉えられてしまい禁煙に向けた意志が妨げられるでしょう。医療界・医療職たちがそろって一貫性を持つことで、社会・集団全体の禁煙推進を推進していくと言えます。
 HPVワクチンについても同様のことが言え、医療界・医療職全体での一貫性が重要だと私は考えます。例えば、従業員から尋ねられたときに、「HPVワクチンの効果はよく分かりません」、「HPVワクチンは専門外です」、「HPVワクチンは副反応が重篤になりうることもあるようです」、「HPVワクチンの有効性はまだはっきりしないらしいです」といった回答が一部でされてしまい、医療界・医療職全体での一貫性が乱れてしまうことで、HPVワクチンに対して躊躇してしまう人が増えてしまう懸念がありうると思うのです。あえて強調しますが、予防医学の専門家である産業保健職としては、HPVワクチンのことに無関心でいるのではなく、絶対に必修するべきものだ、という認識を持つ必要があると思います(コロナワクチンや風疹・麻疹ワクチンも同様に)。そして、産業保健職全体としても一貫してHPVワクチンの効果を肯定するスタンスが必要であると思います

なお、私も30歳を超えてからHPVワクチンを3回接種しました。これは自身とパートナーのためということもありますが、情報提供する側としての姿勢、という意味合いも含みます。自分が接種したことで、誰か一人でも接種に興味関心を持ってくれれば大変嬉しい限りです。これはもちろん全く強制する意図はありませんが、この記事の読者の方で、HPVワクチンの恩恵がある場合については、自身がHPVワクチンを接種した上で、情報提供することも選択肢としても「あり」ではないかと思います。

2.4 子宮頸がん検診のすすめ

ワクチン接種を受けたとしても、定期的に子宮頸がん検診を受けることが大切です。職域がん検診においては以下の子宮頸がん検診の実施が科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」で示されていますので、部分的に抜粋します。職域のがん検診は、有効性の確立していない方法や、精度管理などが実施されていない場合が非常に多いですので、産業保健職が適切に軌道修正していくことが非常に大切だと思います。

1. 細胞診単独法<従来法・液状検体法>(推奨グレードA):
30から64歳での浸潤がん罹患率減少効果の確実なエビデンスがあり、65から69歳でのエビデンスも担保できる。20代についてのエビデンスは乏しいが効果を否定できない。検診対象は20から69歳、検診間隔は2年が望ましい。

参照)
HPVワクチンを接種しても検診が必要なのはなぜ?【ワクチンと検診を組み合わせた方が良い理由】
科学的根拠に基づくわが国の子宮頸がん検診を提言する「有効性評価に基づく子宮頸がん検診ガイドライン」
子宮頸がん検診は具体的に何をするのか【検査がスムーズに終わるポイントを解説します】
婦人科検診に超音波って必要ですか?(産業保健師のきりんさんのnote記事)
『子宮頸がん検診の運用を考えるフォーラム資料「HPV検査と子宮頸がん検診(藤井多久磨)」』

2.5 3月4日は「国際HPV啓発デー」!

だそうです。ぜひ3月4日にはHPVワクチンの情報提供をしていきましょう!

3. 情報提供の際の注意点

3.1 犠牲者非難

HPVワクチンを接種しなかった従業員もしくは、従業員の家族が不幸ながらに子宮頸がんに罹患してしまったとしても、決して過去の行動(HPVワクチン未接種)を非難することは、苦しんでいる人をさらに追い込むだけで、なんら救済にはなりませんので、決してするべきではないでしょう。また同様に、仮に従業員さんが亡くなったとしても、HPVワクチンを接種していればあの人は亡くならずに済んだ、というような表現も控えるべきだと思います。
 HPVワクチンを接種しなかった「選択」は、本人の積極的な「選択」の結果ではなく、その方の環境に左右されるところもとても大きいと言えます。また、HPVワクチンを打ったからといって必ず子宮頸がんにならない、というわけでもありません。当該者から、「HPVワクチンを打っていれば、子宮頸がんにかからなかったのか?」と尋ねられたとしても、「確実にそうだとは言い切れない」という回答になろうかと思います。
 なお、従業員の中には、すでに子宮頸がんによって子宮を失ってしまった方がいる場合もありますので、情報提供の際には、そのような方への配慮も大切です。また、子宮頸がんはマザーキラーとも言われますが、妊娠・出産を希望しない方もいますので、女性は母として妊娠・出産をするべきであるというニュアンスにならないような配慮も必要かと思われます。

3.2 誤解・レッテル

子宮頸がんは、誤解と偏見の多い病気です。「子宮頸がんと HPV ワクチンに関する最新の知識と正しい理解のために」(日本産科婦人科学会)には以下のように説明されています。

一般の方の中には「性的な活動が高くなければ HPV に感染しない」、「結婚まで性交渉をしなければ子宮頸がんにならない」と誤解されている方も見受けられます。しかし性交渉の機会やパートナーが限られている方でも、16 型・18 型などの高リスク型のHPV に一度でも感染してしまうと子宮頸がんを発症する可能性があると言えます。男女共に HPV 感染は遠い世界の他人事ではないという認識を持っていただくことが大切です。

子宮頸がんは「誤解と偏見の病気」 空白の世代にも無料でワクチン打てる“バックアップ”を」という記事の木下喬弘先生の言葉も引用します。

「子宮頸がんは、性交渉におけるHPVの感染がきっかけで起こるがんです。よって『性交渉が多い人の病気』といった患者への偏見、誹謗中傷も多い。『性交渉が多い人の病気』はまったくの誤解で、性交渉を経験した8割以上が一度はHPVに感染します。みなさんの8割以上が感染して、その中の一部の人が、数年~数十年後にがんになります。

職場で、HPVワクチンや子宮頸がんの情報提供を行う際には、この誤解と偏見がうまれないように、注意して説明する必要があると思います。そして、産業保健職自身が、この誤解をしたまま説明してしまうことは、誤解と偏見を助長してしまう恐れがありますので、特に気をつけるべきでしょう。

3.3 両論併記

両論併記とは、賛成意見と反対意見などの相対する意見をどちらも排除せずに両方を記載・紹介することです。HPVワクチンをめぐる問題について肯定・否定の両論があるような報道が非常に多いというのは、この問題を非常にややこしくさせています。しかし、HPVワクチンの安全性・有効性に関して、現在まで蓄積された科学的知見からは、両論併記は不適切である、と私は考えます。つまり、企業・従業員へのHPVワクチンの情報提供において、産業保健職が「効果があると言ってる専門家もいますが、効果がないと言ってる専門家もいます」という両論併記で説明してしまうことは不適切であると考えます。このような情報提供は、された側の悩み・迷いを助長させてしまう懸念がありますので避けるべきだと考えます。
 このような両論併記は、一見バランスのよい情報提供のように見えるかもしれませんが、これは専門家として「勉強不足」であり、専門家として判断することからの「逃げ」だとすら言えるのかもしれません。産業保健専門職として、必要な医学知識の習得やアップデートを行うことは専門職としての務めだと思います。
参考)
子宮頸がんワクチンのメディア報道、安易な「両論併記」はやめよ
マスコミの「両論併記」が、世間に与える「意外な悪影響」

3.4 自己決定権の尊重

これはHPVワクチンに限らずワクチン全てに言えることですし、それ以外の健康施策全てに言えることですが、本人の自己決定権は大切にしなければなりません。「Sexual and Reproductive Health and Rights (SRHR)」リプロダクティブ・ヘルス・ライツ(生殖に関する健康と権利)という概念があり、性と生殖における個人の自由と法的権利のことを指します。

世界保健機関 (WHO) は、次のようにリプロダクティブ・ライツを定義している。生殖に関する権利は、すべてのカップルと個人が、出産する子どもの人数、間隔、時期を、自由に責任を持って決断することができる権利、そしてそのための情報と手段を持つ権利、およびできうるだけ最高水準の性と生殖の健康を手に入れる権利を認めることにかかわっています。それらにはまたすべての人が差別と強制と暴力をうけることなく生殖に関する決定をする権利も含まれる。(wiki)

HPVワクチンはまだまだ知られていないことも多く、正確な情報を知らずに接種機会を逃している方も多くいるでしょう。本来は、得るべき情報を得られずに健康を損なってしまうことは非常にもったいないと言えます。HPVワクチンについても正確な情報を得ることで、接種するかどうかを検討する機会が必要だと思います(知る権利の尊重)。
参照:性と生殖の権利 性と生殖の権利に関するIPP憲章および性の権利(セクシャル・ライツ):IPPF宣言エグゼクティブサマリー

3.5 必要に応じて事前の根回しを

今でこそ、HPVワクチンの風評は改善されてきていますが、やはり積極的勧奨が中止になった頃のセンセーショナルな報道の影響は未だに根強く残っているようです。またワクチン自体を忌避する方がいる可能性もあります。そのため、HPVワクチンの情報提供を行うことで、社内から強い反発が出てしまう可能性もあるかもしれません。産業保健職が社内でHPVワクチンを情報提供する際には、このような関係者に根回しをしたり、情報収集するなどしてから行うことも場合によっては必要になるでしょう(企業として大々的にキャンペーンをするわけではなければ大ごとになる可能性は非常に低いとは思いますが)。
 新型コロナウイルスワクチンを経験することで、社会全体のワクチンに対する忌避感や躊躇感が減っていればいいのですが・・・

3.6 力入れすぎの注意

HPVワクチンの情報提供を皆さんには強く勧めるところではありますが、一方で情報提供に力を入れすぎたり、こだわりすぎることには注意が必要だと思っています。それはHPVワクチンに関する情報提供は、産業保健の本質的なところ(適正配置や安全配慮義務)にはないからです。そして、わずかではあると思いますが、ワクチン忌避や反ワクチンの方も企業にはいますので、HPVワクチンの情報提供をやりすぎることで、企業内に対立構造をつくってしまったり、産業医の敵をつくってしまう懸念があります。これは企業における喫煙対策の同じような構図だと思います。企業の禁煙を推進しすぎることで産業医に対する反感を招きすぎるのもあまり望ましいものではないでしょうし、そのことで、本来やりたい産業保健活動が滞ってしまうのは避けたいですよね。情報提供は非常に大切だと思う一方で、やりすぎにも注意が必要だと思います。
(参照:「喫煙対策の落とし穴」)

4. 情報収集のすすめ

HPVワクチンの積極勧奨が再開される見通しの中で(機会を逃した方々へのキャッチアップ接種も検討中とのこと)、これからますますHPVワクチンについては、産業保健職にも情報提供が求められる場面が増えると推測しています。そして、HPVワクチンに関する知見も日々更新されていくでしょう。そのため、産業保健職として、情報収集を行うことは必須だと思います。以下におすすめの情報源をご紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
参照)
HPVワクチン「積極的勧奨の再開を妨げる要素はない」
機会逃した女性に無料接種 子宮頸がんワクチンで厚労省検討

4.1 参考になる情報源(ホームページ)

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1.ヒトパピローマウイルス感染症~子宮頸がん(子宮けいがん)とHPVワクチン~(厚生労働省)
2. みんパピ!みんなで知ろうHPVプロジェクト
3. 「子宮頸がんとHPVワクチンに関する正しい理解のために」(日本産科婦人科学会)
4. ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチン(子宮頸がん予防ワクチン)接種推進に向けた関連学術団体の見解(予防接種推進専門協議会)について(小児科学会)
5. こどもとおとなのワクチンサイト
6. HPV9価ワクチン 医療機関リスト(一般社団法人 予防医療普及協会)
7. 国立がん研究センター 子宮頸がん

4.2 参考になる情報源(Twitterアカウント)

Amamino Kurousagi

稲葉可奈子産婦人科医
手を洗う救急医Taka(木下喬弘)
Daisuke Shigemi@産婦人科医

4.3 参考になる情報源(ニュース・記事)

Buzzfeed
1週間限定公開!『コウノドリ』で知る、子宮頸がんとHPVワクチンの「現実」

記事:水原希子の選択 自分と未来の子供を守るため、HPVワクチンを接種する

おまけ

「がん」を予防するワクチンをみんなの当たり前に!(第2回)クラウドファンディング
以下のクラウドファンディングでも2021年11月末まで支援が募集されていますので、もしよろしければご協力ください(筆者は企画・運営には関わっていません)。

謝辞

本記事は、重見大介先生にもご確認・ご意見をいただいております。この場を借りて深く御礼申し上げます。


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