5.文脈のない就業上の措置という落とし穴
はじめに
前回は、就業上の措置のための医師の意見は、どうやったら労働者が健康に働けるか、の視点で考える必要がある、という内容を配信しました。今回はさらにその就業上の措置というものに文脈についての落とし穴です。参考にするべき文献が「藤野善久ら(2012).産業医が実施する就業措置の文脈に関する質的調査.産衛誌 ; 54 (6): 267–275」です。
就業上の措置の文脈
こちらの文献では就業上の措置の文脈は主に、以下の4類型が示されています
本文献の通り、就業上の措置は、医学的見解のみでなく、作業内容、労働環境、職場の理解、安全配慮、企業リスクにかかる経営判断、社会的責任などさまざまな視点からの利害調整のもとで実施される必要があります。このような文脈なしでの就業上の措置は、労働者や事業者からの合意が得られにくく、また軋轢が生じる可能性があるのでご注意ください。なお、就業上の措置は主語が事業者であり、産業医が出しているのは、「就業上の措置に関する意見」や、「就業上の措置に係る意見」ですので、間違わないようにしてください。
就業上の措置の文脈(ガチ産業医意訳)
4類型を私なりに解釈したものがこちらです。就業上の措置は、「労働者が安全・健康に働けるために必要な事項」であり、なぜその就業上の措置が必要か説明するときには、それぞれこのような感じで説明しています。※安全配慮義務(予見可能性+結果回避性+相当因果関係性)については別途説明予定
おまけ
2016年の「第2回労働安全衛生法に基づく定期健康診断等のあり方に関する検討会」の中では、類型3の就業上の措置によって、労働者の糖尿病の重症者数が減ったという事例も紹介されています(論文化された知見ではないことにも注意)。ただし、こちらについても就業上の措置をかければいいというものではなく、そこにいたる文脈が必要であり、乱発することで形骸化したり(乱発の落とし穴)、労働者の疾病利得(疾病利得の落とし穴)につながる懸念もありますのでご注意ください。
上の画像は健診のあり方検討会の資料から引用しています。
参考資料
藤野善久ら(2012).産業医が実施する就業措置の文脈に関する質的調査.産衛誌 ; 54 (6): 267–275