中山間地が施設栽培を勧めるわけ - 農業・新規就農
まず簡単にまとめます。
中山間地の農業には主に二つの問題がある。土地の集約と獣害の対策だ。
施設栽培はこの問題の解決を比較的簡単にしてくれる。
また、ほとんどの新規就農には給付金が伴う。この給付金には経営計画が必要だ。経営計画にとって一番重要なのは売上である。施設栽培に向いている作物は比較的売上が上がりやすい物が多い。これらの問題は中山間だけにとどまらないが、中山間の方が深刻というわけだ。
では、解説に入ります。
国の農業支援策がこの現象に影響している
このように山がちな国土を持つ日本において、中山間地は条件では平地に劣るが、農業において重要度が高い。
この中山間地での新規就農相談だが、私が知る範囲では施設栽培を勧める地域が多い。実際に調査したわけではないが、その背景はおおよそ想像がつく。
日本は地方の予算に余裕がないので、新しい取り組みは国の計画や予算で行われるものがほとんどだ。
食料安全保障が国の重要課題ということもあり、国では農業振興のための様々な予算組が行われている。国レベルで計画や予算が十分に建てられていれば、市町村単位でそこに予算を割く必要もないということで、地域の農業政策は国の計画に従う形になる。
地域農業に独自性があまりないのはそのためだ。
日本の中山間地の農業政策はいくつもあるが、その一つに【中山間地域所得向上支援対策】というのがある。農業所得の向上を目指すもので、高収益作物の生産のための施設の整備が大きな取組に掲げられている。
他にも取組はあるが、こういった取組には補助金がついてくる。
全国の自治体はこの補助金を獲得するために関係各所と具体策を検討することになる。
日本の農業がどこも大体似たようなことをしているのは、この政策に付随する補助金の流れの影響と言える。
良し悪しというのは正直分からないが、日本の農業はこういう性格をしている。
日本の農業をよく知りたければ、農家を知るよりも国の政策を知ったほうがよい。
土地の集約と獣害対策は中山間の重要課題
中山間地における農地の課題は主に二つ。
土地の集約と獣害の対策だ。
土地勘のない新規就農者にとって、農地の確保は困難が伴う。
農地というのは、どこでもよいというわけではない。農地には条件の良しあしがある。
小規模な土地で可能な施設栽培はこの土地の問題を比較的簡単にしてくれる。これは中山間地における大規模栽培の難しさを考えれば一目瞭然だ。
大規模に土地を利用する農業にとって重要なのは、管理する土地の集約だ。小さく分散していては管理が難しく、作業を行うにも何度も移動することになり時間がかかる。
そういった点で中山間地は不利になる。地形が複雑なため、まとまった農地が少なく土地ごとの環境が様々で、同一の管理が難しい。
農耕地というのは自然発生したものではなく、人工的に土地を削って平らに開発したものがほとんどだ。その為、中山間地のように複雑な地形を削って開発すると、その土質(特に排水効率)が同じ畑の中でもばらつきが出る。
単体でもばらつきが出る畑が様々なところに分散していると、それだけ管理が大変になるということだ。
また、害獣被害への対策も土地が分散するほど大変になる。
大前提として、耕作放棄は獣害被害が大きいところから行われる。
開けた土地の少ない中山間では獣害の少ないところに地元農家が集約していき被害の大きい条件不利地が空き地になる。
新規就農で農地を探す場合、けっこうなタイミングと地元の協力がない限り、手近な空き地である条件不利地を選択することになる。
この不利な条件に対して施設栽培はかなり強い。施設で囲っているので獣の侵入を防ぎやすいというわけだ。
通常、きちんとした獣害対策を行うには、かなりの時間か熟練が必要になる。慣れないうちは時間を割くか、獣害にあうかの二択になる。
いずれにしても栽培技術の習得に必要な時間を奪われるか、作物そのものを奪われるので経営リスクにしかならない。
中山間地にとって施設栽培というのは、土地に関するリスクから自分を守る手段にもなっているというわけだ。
経営計画が立てやすい施設栽培
給付金制度をはじめとする農業関連の補助制度は、おおよそ経営計画の提出を要求するか、経営計画に基づいた農業経営を行っている農業者を対象としている。
そのため、ほとんどの新規就農者は就農時に経営計画を立てることになる。
この経営計画が立てやすいの施設栽培というわけだ。
施設栽培は目標とする売上高を狭い面積で達成できる上に、売上自体も上がりやすい。また、経営計画の実現性が他の栽培に比べてたぶん高い。
理由は施設を導入することで温度管理ができるようになり、栽培期間がの長くなること。これによって生産性が向上すると同時に、競争力が強化されるからだ。
【定番野菜の差別化は出荷時期で行うものだ】の過去記事でも解説している。
単位面積当たりの売上をあげる主な方法は、栽培期間の短い作物を繰り返し栽培するか、果菜類を栽培して繰り返し収穫するかだ。
連作傷害の問題があるので、栽培期間の短い作物を連続的に繰り返すとなると栽培できる作物がかなり限定される。
なので、一般的には果菜類(ナス・トマト・ピーマンなど)を育てる。
果菜類は一本の苗から果実を繰り返し収穫するので単位面積当たりの収穫量が多く、売上が上がりやすい。
施設を充実させることで、栽培管理が行いやすくなり、面積も狭くて済むので時間をかけて面倒を見ることができる。チェックが行き届くことで、病害虫リスクにも対処しやすい。
あと、これは余談だが、売上は経営計画における最重要項目だ。
この売上予測にどれだけの信ぴょう性を持たせられるかが重要になる。
次の項では、この売上がなぜ重要なのかを補足しておく。
売上が重要な理由を念のため補足
念のため、売上が重要な理由も説明しておこう。
一般に経営計画の目的は資金調達にある。
簡単に説明すると、起業する目的で銀行から資金調達を行おうとした場合、銀行は相手に事業計画の提出を求めてくる。多くの起業家(経営者)にとって、これが最初の経営計画になる。
ここでいう資金調達というのは借金のことで、貸す側としては金を回収する目途がなければ貸すことができない。
そこで売上が重要になる。
売上というのは一度はその経営体の口座を通り抜けるお金のことだ。それが次の支払先に移る前に差し押さえれば、回収できる可能性があるということを示している。
なので、売上規模が大きければ、それに応じて回収できる金額の可能性も大きくなるというわけだ。
自転車操業という、借金に借金を重ねるような経営が許されるのも、この売上や担保という回収可能性を示す材料があることで成立している。
もちろん差し押さえれば、本来そのお金を受け取るはずだった人たちには損害が出る。しかしそれは事業者当人の問題であって、貸した側の問題ではない。