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定番野菜の差別化は出荷時期で行うものだ - 農業・新規就農

まず、簡単にまとめます。

定番野菜を販売するうえで、最も確実な差別化は「無いときに有る」だ。

それはつまり出荷時期のことで、他が出荷できない時期に出荷することで確実に売れる。出荷時期をずらすには温度差を作る必要がある。高原野菜は標高差で、ビニールハウスは加温して温度差を作っている。
このような出荷時期の調整の結果、旬はどこかに消えて、今では定番野菜は通年でスーパーに並んでいる。
でも、よく考えてみよう。旬でない時期を独占的に生産している産地が見つかるはずだ。

では、解説に入ります。


ひとまず、ここでの定番野菜の定義を指定14品目あたりにしたいので、簡単に解説を引用しておく。

指定野菜とは、消費量が多い野菜や多くなることが見込まれる野菜です。
野菜の値段を安定させて、みんながいつでも野菜を食べられるように指定しています。指定野菜は、キャベツ、きゅうり、さといも、だいこん、トマト、なす、にんじん、ねぎ、はくさい、ピーマン、レタス、たまねぎ、ジャガイモ、ほうれんそうの14品目です。

農林水産省 こどもそうだん 令和6年

物が無いときに有るが最強の差別化

定番野菜において最強の差別化は「無いときに有る」の一言に尽きる。
出荷時期(期間)の差別化である。
正直、これ以外の差別化は不可能ではないが、確実性が低すぎる。この点については別の機会に譲るとして、定番野菜が「無いときに有る」と確実に売れる。これは100%である。
産地とは何か?市場・仲卸から考える】でも紹介しているが、これは小売店の性質上の問題で、消費者が買うとか買わないではない。

小売店において、定番野菜の欠品などあってはならない。仮にとんでもなく高い値段でも、無いよりはマシなのである。なので、市場から仲卸、小売りの段階までは100%売れる。

直売所などで販売経験がある人だと、この出荷時期の差別化の強さを実感しているはずだ。

直売所というのは基本的に周辺地域の生産者が産物を持ち寄るので、旬が競合しやすい。旬が競合して同一品目が過剰供給されると、すぐ値崩れを起こす。一週間前まで飛ぶように売れていたものが、品が棚にあふれかえり突然売れなくなる。
なので、直売所出品者は旬に先んじることのメリットをよく知っている。

過剰供給の値崩れは、品種や生産方法で多少差別化していてもあまり意味がない。完全な別作物か、販路が異なっていないかぎり影響を受ける。
隣に並ぶ同一作物との価格差が大きすぎれば、買い控えが起こるのは当たり前だ。何より、出荷時期以外で差別化しても、消費者がそれを好むかどうかわからない。

既に好まれることが分かっている差別化であれば、競合がいることになる。この場合は物量や品揃えの幅広さで競合をはじき出す作戦になるので、普通の産地化戦略とほとんど変わらない。

「無いときに有る」という出荷時期の差別化が最強であるならば、それが可能な産地が強いことは言うまでもない。


例えば高原野菜とか加温施設とか

出荷時期の差別化の具体的と言えば、高原野菜や加温施設ということになる。

高原野菜はその呼び名が既にブランド化しているが、そもそもは標高差による温度差を利用して、暑さに弱い作物を暑い時期に栽培したのが始まりだ。
わかりやすいのがレタスで、真夏に収穫できるのは長野の高冷地などのごく一部しかない。

出荷時期をずらすということは、栽培時の温度をずらすということだ。

農業で使われるビニールハウスも温度をずらすことが主な目的だ。ハウス内の温度を上げることで、栽培をより早い時期から行うことができる。さらに、暖房を炊いて冬に栽培するということもできる。

雪が少なく温暖な地域は暑い時期に栽培せず、あえて寒い冬に加温施設を使い栽培することで、寒くて栽培できない地域に出荷できるようになる。例えば九州は冬場の加温施設での栽培が盛んで、関東まで出荷・販売している。

このように、出荷時期の差別化はもっとも確実な方法だけに、日本中のあらゆる場所で行われている。全国のスーパーで定番野菜を見ない日はない。

出荷時期の差別化は「やりつくされている」といってもいいかもしれない。

もしあなたが、今、住んでいる地域で就農しないといけないと決まっていれば、出荷時期の差別化に関わることは容易ではないかもしれない。
でも、あなたが地域を選べる立場にあるのであれば、こういった地理的有利が存在することを知っておくべきだ。


とはいえ、今は物が無いときがない時代

出荷時期の差別化をもう少し説明する。分かりやすい例だけでは、選択する地域が限定されすぎてしまう。

この出荷時期の差別化の現在というのは、もう少し細かい。
現在の日本では、定番野菜は通年でどこかしらで栽培している。その強みをきっかけに栽培期間の前後を延ばし、ほとんど一年中、同一作物を栽培しているような地域もある。そんなとんでもない産地が相手でも、出荷時期を差別化することは不可能ではない。

おおよそどんな産地でも、生産や品質に山谷がある。
生産量が多い時期、少ない時期、品質が良い時期、悪い時期がある。一見ずっと栽培しているようでも、一年の中に栽培の始まりと終わりのような区切りがある。

このような相手の栽培の弱い時期にうまくピークを持ってくる。できれば競合より早くピークを作る形がよい。
産地とは何か?市場・仲卸から考える】でも解説したが、彼らの仕事の性質上、先に販路を抑えればある程度は取引が固定化されるからだ。

また、地理的優位にある産地でも消費地との距離が離れてくると、輸送コストの問題が出てくる。
輸送はコスト面だけではなく、日数も関わってくるので、鮮度が重要な野菜だと一つの産地で全国を網羅するということは難しい。そういったわけで、どんなに強い産地でも日本全土を独占するには至らない。

例えば、北海道でも雪が比較的少ない地域がある。こういった地域は主に道内消費用のハウス栽培を行っていたりする。他の産地から北海道に輸送するよりも優位性があったからだろう。このように近隣にそれなりの消費地があれば成立する産地もある。
その北海道の現在は、温暖化のながれで生産が増えて関東まで出荷することもある。北海道は何でもおいしいイメージがあるから、それが後押ししているところもあるのだろう。

日本は国土が縦に長く山がちなので、地域の気候差が大きい。
この気候差をどうやって農業に利用しているか。就農先を検討するのに、こういった情報は欠かせない。

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