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シューマッハ・カレッジ滞在後編|食とかエネルギーとか

イギリスのシューマッハ・カレッジの滞在記後編は、コース以外で印象的だったことを徒然に。

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何が生まれるか、今は分からなくていい

自己紹介で、今はハネムーンを兼ねて来ていてトータルで9ヶ月くらいいろんな国を旅する予定だと話した。それを聞いて、講師のクリスは「rebirthだね」と。
「人間の命が生まれ出るまでに必要な期間が大体それくらいでしょう。そう考えると、旅を通して新たなものを生み出そうとしているのかもしれない。それが何かは今は分からなくていいよね」。そんなことを言ってくれたと思う。多分。
なんていい表現をするんだ。詩を愛する人は言うことが違うな。

出会う人たちからは総じて、旅の期間の長さにまず驚かれ、その次に「帰ったら何をするの?」と聞かれる。その度にウニャウニャと答えるのだけど、大体は正直に「まだ決まってないんだ」と話してきた。本当に決まっていないし、自分の性格上悶々と考えてもあんましいいことないしな、という気持ち。
9ヶ月という長めの宙ぶらりんの時間は、今の私に必要なんだと思う。これが2、3ヶ月だったら、旅の最中にも帰った後のことを常に考えてしまったり、予定をパンパンに詰めちゃってただろう。長すぎるからこそ無理ないスケジュールで、せっかくならあれもやっちゃおう、ここも行ってみよう、と自分の「やりたい」を引っ張り出せてるんだと思う。


ベジ中心生活

カレッジのある広ーい敷地内には農園が何ヶ所かに分かれてある。収穫された野菜の半分ほどは校内の食事に使われ、残りはローカルレストランなどに卸しているらしい。

畑にはアヒルもいる

採れた食材をふんだんに使った野菜中心のメニューで、肉や魚はなし。ビーガン向けのオプションも毎回用意される。
毎日のごはんがおいしくておいしくて。しかも食事時間の合間には手づくりクッキーが欠かさず出てくる。うっかり食べすぎた。

キッチンでインターンしたくなった

この旅でベジタリアンやビーガンなホストの農場に滞在することも多く、ベジ生活にはずいぶんと慣れた。翌朝の身体の調子が明らかにいい。お腹がぺっこりしてる。旅に出る前は普段の生活でついつい肉や魚をメインディッシュにしてしまうけど、帰ってからはベジDAYを増やしたいな。

ベジ・ビーガンの人たちになぜその食の嗜好なのか尋ねたときに返ってきた返答は、「肉の食感が苦手だから」「身体を鍛えたいから」などあくまで個人の体調や嗜好に基づいたものがほとんどだったことが印象に残っている。カナダ人の20代の女性は「いま自分が何を食べたがっているか、自分の身体に聞くといいと思う」とさらりと言っていたのには感動した。
気候変動への危機意識の高まりに合わせてベジ・ビーガンになる人が増えたという話をどこかで聞いたことがある。食の嗜好が変わるきっかけや考え方は一様ではないだろうけど、周囲に罪悪感を抱かせたり、自分を追い詰めたりすることのない答え方はとてもスマートだ。また植物性の代替食材が豊富で、料理を振る舞う側も当然のように代替料理を追加する様子も印象的だった。

ボードにビーガンメニューかグルテンフリーか情報が添えられている


食糧生産と環境負荷をどうバランスさせるか

コースの合間、ボランティアの方と話していた時のこと。どんな流れだったか忘れてしまったけど、地方の人口や農業の話に。「日本の中山間地域では高齢化も伴って離農する人が増えてしまっているんだ」みたいなことを言った時、相手は首をひねりながら「それの何が問題なの?」と聞いてきた。
「耕作されないと鹿や猪がより近隣の畑を荒らすようになるし、畑が荒れると景観も損なわれる」と、たどたどしい英語で説明する。言語的に伝わっていないのか、あまりピンと来ない表情で「それが問題なの?」とさらに尋ねられる。
ちょっと考えて、「自分たちの暮らす土地で食糧生産ができなくなると、輸入に頼らざると得なくなっていく。ただでさえ日本は自給率が低いのに。」と言葉を足すと、「なるほどねぇ」とようやく納得してくれた様子。
イギリス人の彼曰く、「イギリスでは農地縮小を進めるべきという議論が起きている。特に酪農は環境への負荷が高くて、農業をやめて土地を自然に返すべきだと言う人たちもいるんだ」。

ちょうど先日、オランダ政府が温室効果ガスの削減標をクリアできていないことを背景に今後農家の廃業・規模縮小を進めていく方針を打ち出して、それに対し酪農家が激しいデモを繰り広げたというニュースを目にした。
「農業従事者の不足が社会課題で、今ある農地は維持すべき」という考えが、ある種の常識として自分の中にある。けれどもその常識は決して世界共通のものではないと気づかされる。食糧生産と環境負荷をどうバランスさせていくか。二項対立にすべきでない複雑で大きな問いが目の前にある。

車窓から羊、牛、馬たちが見える


差し迫るエネルギー問題

この記事を書いている今はオランダにいる。電気代・ガス代の高騰がものすごいことになっているらしく、オランダの友人宅にお邪魔させてもらった時、彼はひとりのときは暖房をつけないと言い、食卓やバスルームではキャンドルを灯し、食器を洗う時も蛇口のお湯をできるだけ使わないよう気を遣っていた。

オランダに限らず、ヨーロッパ各国の価格高騰は2倍、3倍と容赦がない。ヨーロッパの厳しい冬を乗り越えられるか不安視する声も大きく、市民の抗議デモが各地で起きている。
日本でも価格高騰は起きているけど、補助金の投入により家庭負担は20〜30%程度の価格上昇にとどまるのだとか。もちろん家計は苦しいだろうけど、諸外国と比べるとちょっとレベルが違う。この政策に対し「将来世代にツケを回している」との批判もあるが、この意思決定の違いはどこから来るものなんだろう。

物価上昇に関するイギリスの新聞記事。食用油は65%以上の値上げ


命の危険さえある状況で、日本も他国を見習うべきと簡単に言うつもりはない。けれども確かにちょっと高くなるくらいでは根本的な暮らしの見直しや議論は起きにくいだろう。日本の煙草価格の緩やかな上昇を見ていてもそう思う。

半袖で日本を離れて、連日届く大雨や台風のニュースに気を揉んでいた夏が過ぎ、秋もそろそろ終わろうとしている。日本の暮らしは何か変わっただろうか。


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