秋の季語「蜻蛉(トンボ)」(季節を味わう#0075)
世界で一番短い詩、俳句。
「季節を味わう」では、毎月第2水曜日に季語を一つピックアップ。
その季語が使われている俳句も紹介します。あくまでも私の好みで。
【蜻蛉(トンボ)】
9月に紹介しますが、蜻蛉は9月だけではなく三秋(初秋・中秋・晩秋)の季語です。他にも、とんばう・あきつ・やんま・赤蜻蛉・秋茜・麦藁とんぼ・塩辛とんぼ・精霊蜻蛉などが秋の季語、糸蜻蛉、川蜻蛉は夏の季語です。
トンボはトンボ目に属する昆虫の総称で、夏から秋遅くまで色々な種類が見られます。成虫、幼虫共に肉食で、他の昆虫を補足します。大きな複眼が特徴です。
竹竿のさきに夕日の蜻蛉かな 正岡子規
1896年(明治29年)に発表された俳句です。
”夕日の蜻蛉”という表現から推測すると、竹竿の先に止まっているのは赤とんぼでしょうか。夕日の色と相まって、一層赤く見えたのかもしれません。
童謡「赤とんぼ」の四番の歌詞でも、ほぼ同じ景色が歌われています。
夕焼け小焼けの赤とんぼ とまっているよ 竿の先
(童謡『赤とんぼ』 作詞:三木露風)
三木露風がこの詩を書いたのは1921年(大正10年)、つまり正岡子規の句よりも25年ほど後のことになります。三木露風が正岡子規の俳句を意識していたかどうかは分かりません。正岡子規の俳句と三木露風の詩がそっくりなのは、盗作や引用というよりも、明治大正時代には今より赤とんぼが多く飛んでいて、秋になればどこででも見られた光景だったからではないかと推測します。
水田の減少などの影響で、都市部では蜻蛉の数は減っていますが、多くの日本人は今でも、竿の先に蜻蛉が止まっている風景に、秋を感じるのではないでしょうか。実際に目の前に赤とんぼがいなくても、心象風景として思い浮かべ、秋を感じる人は多いと思います。
できれば後の世にも、引き継ぎたい景色です。
(2024年9月11日)
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