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初夏の食べ物の俳句(季節を味わう#0060)
「季節を味わう」では、第5水曜日にその季節の食材を詠んだ俳句をご紹介します。あくまでも素人の好みで選んでおります。
【粽(ちまき)】
うるち米や餅米などの粉を練ったものを笹の葉や竹の皮などで包んで蒸したもの。端午の節句に作って食べます。もとは茅の葉で巻いて食べたことから粽(ちまき)という名前になっています。
粽結うかた手にはさむ額髪 松尾芭蕉
ちまきを笹の葉でくるむ作業をしている女性が、ふと前髪をかた手に挟んで撫で付けた一瞬を切り取ったものでしょうか。
私などは粽と言えば食べることしか考えられませんが、作り手がいるのだなと気付かされる一句でした。
【柏餅】
うるち米の粉で作った皮で餡をくるみ、柏の葉で包んで蒸したもの。五月五日の端午の節句に粽と共に供えます。
柏餅と聞くと、思い出すエピソード。
元宮内庁勤務、昭和天皇や浩宮様(当時)のお食事を作っていらした渡辺誠さんのご著書『昭和天皇 日々の食』に書かれていた逸話です。
昭和天皇が召し上がっている間、渡辺さんはいつも控えの間で待機しているそうなのですが、ある年のこどもの日に柏餅をお出ししたところ、昭和天皇が「おいしくない」とおっしゃっるのが聞こえてきました。
昭和天皇は「おいしいね」とおっしゃることはあっても、「おいしくない」とおっしゃることはまずないそうで、渡辺さんは真っ青。下がってきたお皿を見ると、柏の葉の葉脈だけが残されていたそうです。
つまり、昭和天皇はお餅だけではなく、固い葉ごと食べてしまわれたのでした。
元々宮中の食事では「お皿の上に乗っているものはすべて食べられるもの」というルールがあるんだそうで、渡辺さんは「どうして柏餅の葉をひらかずにそのままお出ししたのか!」と大目玉をくらったそうです。
渡辺さんは内心「そばについている女官さんたちが一言注意して差し上げればいいのに」と思ったそうですが、ここにも宮中ルールが。
天皇陛下にはこちらから注意してはいけないんですって。
「これはどうやって食べるものか?」と聞かれればもちろんお話できるそうですけど。
私はこのエピソードを読んで以来、五月に柏餅を見るにつけ、葉脈だけを残して全部食べてしまわれた昭和天皇のことを推察して、笑みが浮かんでしまいまいます。
てのひらにのせてくださる柏餅 後藤夜半
粽も柏餅も、しっかりとした葉っぱに包まれていますから手渡しできるのですね。他の和菓子とはちょっと違う、いかにもこどもの日にふさわしい、元気な食べ物だと感じます。
(2024年5月29日)
「季節を味わう」は大阪府箕面市のラジオ局 みのおエフエムの毎週水曜日午前11:30と午後8:40から放送しています。
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