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画文の人、太田三郎(3) コマ絵のサイン
申し込んだ資料がまだ届かないので、待っているうちに小さな話題を取り上げよう。コマ絵(活版印刷の紙誌面の空白を埋める本文と関わりのない絵)やスケッチ画、絵葉書には描き手のサインが入ることが多い。
今回は太田のサインの意味について考えたい。ブログ(《表現急行》)に思いつきを記したのだが、それを補足してここに掲げたい。ブログの元記事(「太田三郎のサイン」)は非表示にした。
太田の鳥マーク
太田三郎のサインは鳥の形をしていて見分けやすい。見つけると「あっ、太田の鳥マークだ」といつも思っていたが、サインの由来については考えたことがなかった。
まず例を見ていただこう。
『スケッチ画集 第二集』(明治43年5月23日、日本葉書会編纂、博文館・精美堂)から、《お伽噺》という絵を引用する。
コマ絵として使われたときは、題名も作者名も記されていなかったと思われる。
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文字の説明はなくても、少女が『舌きり雀』の絵本を読んでいることはすぐ分かる。
読んでいる本の内容を示した右上の枠の左にサインがある。
もう一枚見てみよう。《女学生》という作品である。
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やはり、鳥のかたちのサインがある。このサインを拡大してみよう。
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はじめの推理
ある時、この鳥マークを見ていて、「OTA」と書いてあるのではないかと気がついた。
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「S」に気づく
眺めているうちに、鳥の輪郭がS字形であることに気がつく。
「OTA S」 という意味ではないかと考えた。
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これで意味がわかったと思ったが、なんとなく足りないような気もする。
「O」に重ねられた「H」
資料が届くまでに、準備をしておこうと、『太田三郎作品集 第一輯』(昭和12年11月15日、美術工芸会)の表紙を見ると、太田の洋画のサインが拡大してある。
「Ohta S.」 とあるのだ。
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そうか、「O」ではなく「Oh」と表記しているのか。
サインをもう一度見ると、あるある、「H」が「O」に隠れているではないか。
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「OHTA S」 が完成した。
夢二のサイン
同じ『スケッチ画集 第二集』から竹久夢二の《少女》という作品を紹介しておこう。
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サインは、「夢二」の文字からデザイン化されている。
竹久夢二のようにコマ絵の世界でスターになった人、太田三郎のようにコマ絵作家として活躍し、かつ「本絵(本画)」(展覧会に出品する絵画)でも活躍した人は名が残り、サインも知られている。
しかし、投稿家から身を起こしたコマ絵作家は、サインがあっても誰かわからない場合がある。