【レビュー】2020.07.08 J1リーグ第3節 名古屋グランパス×ガンバ大阪
前節、自分たちの狙い通りの形で清水を前半のうちに逆転して今シーズン初勝利を上げた名古屋。
対するは初のリモート大阪ダービーであまりいいところを見せることができなかったG大阪。過密日程で選手のやりくりはもちろん、対戦相手の準備にも時間がない中で各チームどのような対策をしてきたのか見ていきたいと思います。
スタメン
前節からの変更は名古屋は3枚。
前田→金崎、相馬→シャビエル、シミッチ→米本。
中盤はシャビエルが中央、阿部が左。
G大阪は4枚。
遠藤はベンチからのスタートとなります。
【前半】
G大阪の前線からの守備
C大阪との大阪ダービーでは試合開始直後からあまり前線からのプレッシャーにいかなかったG大阪。この試合では開始数分は名古屋のビルドアップを担当する2CB&2CHに強いプレッシャーを与えます。
G大阪は最終ラインから長いボールで宇佐美を走らせて深さを取り、そこから回収した名古屋に対して強いプレッシャーを与えることを狙っているようです。
この流れから6分、セットプレーを獲得しG大阪が早い時間に先制。
前節同様、名古屋は早い時間で先制点を許します。
しかし、16分には名古屋もG大阪同様、セットプレーのこぼれ球を押し込み似たような形で追いつきます。
名古屋のビルドアップの狙い
この試合、名古屋のボール保持時の狙いは3CHの脇を使うことでした。
左サイドの阿部と対照的にマテウスはこの試合の前半、右サイド高い位置にいることが目立ちました。狙いはG大阪左WBの福田です。
マテウスが右サイドの高い位置にいることで福田はマテウスを監視せざるを得ず、成瀬がフリーでボールを持つケースが目立ちました。
名古屋2CB&2CHの4枚に対しG大阪のFW2枚とIHが牽制したいのですが、成瀬がフリーでボールを持つことにより左IHの小野が対応せざるを得ません。
これによりG大阪の3CHは左に1枚ずつスライドし右IH井手口の脇には大きなスペースができます。
このスペースを阿部が活用するのがこの試合の名古屋の狙いだったのではないでしょうか。
実際に前節、C大阪はG大阪に対して同じような戦い方をしていました。
C大阪右SHの坂元が右サイド高い位置に張り出してG大阪左WB藤春をピン止めし、その前方のスペースを右SBの松田が活用していました。
C大阪の場合、さらにCHのデサバトが右サイド縦のラインをランニングすることで、より3CHを左にスライドさせていたことが印象的でした。
名古屋はこの形を活用し、成瀬の位置で時間と空間を確保することに成功しましたが、その先阿部を活用して決定機を作るシーンまではいたりませんでした。
この試合ハーフタイム時点の活用プレーエリアを見ると、名古屋の攻撃は右58%、左22%と右からの攻撃が極端に多いことがわかります。
チームとして上記の狙いを持っていたこともありますし、この試合に限ってはCHの2枚が右利きだったことも影響を与えていたのではと予測します。
逆に言えば、名古屋が最終的に使いたかったG大阪の3CHの右脇のスペースについてはシミッチがいればより活用できる頻度は高かったかもしれません。
名古屋の前線からの守備
名古屋の前線からのプレスも狙いが明確に見えました。
3CBとアンカーの4人で前進を図ろうとするG大阪に対し、名古屋は前線4枚がプレッシャーをかけます。シャビエルがアンカーの矢島を離さないようにしていたことが印象的でした。
G大阪の選手が列を降りたりするケースもなかったため、そこまで強度が高いプレスではありませんでしたが、出しどころがなくここから何度か名古屋のショートカウンターが生まれます。
31分、G大阪は同様の形で前線へ出しどころがなくGK東口が左サイドへロングフィード。このボールを成瀬が奪い、そこからショートカウンターでマテウス、金崎、シャビエルと繋ぎ見事逆転します。
G大阪のビルドアップがミドルゾーンを越えると、基本的には4-4-2で低い位置まで撤退する今シーズンの名古屋ですが、このシーンのように高い位置で奪ってショートカウンターを発動するのも今シーズンの名古屋の特徴です。
G大阪のビルドアップの狙い
上記のようにボールを前進させる方法があまり上手くいっていないG大阪でしたが、いくつかチームとして狙いたいポイントも見えました。
CBから高い位置のWBを活用できた場合、ハーフスペースをIHがランニングし名古屋のCB-SB間を狙うケースは2度ほど見受けられました。
名古屋CBを引きずり出すことが狙いだったと思いますが、ここは稲垣や米本が予測し、得意のカバーリングでスペースを埋めることによりG大阪の大きなチャンスにはなりませんでした。
また、この試合の前半に限ってはG大阪のサイドからのクロスが全てファーサイドへ向けての高いクロスだったため、名古屋の両SBの伸長が低いことも試合前から狙いとしてあったと思われます。
このまま2-1、名古屋がリードして前半を終了します。
【後半】
G大阪の前線からの守備
後半開始早々からG大阪は名古屋に自由を与えないよう前線から強いプレッシャーをかけます。
前半のポイントとなっていたG大阪左サイドもマテウスをキムヨングォンが見ることで、福田が成瀬に対してプレスをかけられるようになっていました。
選手交代後のG大阪の動き
後半、選手交代のタイミングから流れが大きく変わります。
名古屋は金崎に代えて山崎を投入。
G大阪は前線2枚とIHの小野を交代します。
G大阪はボール保持時に髙尾が右に張り出し、IHが降りてボールを引き出す等前半にはなかった動きが見られました。
この時間帯から名古屋の疲労もあり、守備の基準がズレはじめ名古屋のプレスがはまらなくなります。この試合でも何度かあった高い位置で奪ってショートカウンターの機会はなくなり、奪えても低い位置からのロングカウンターとなるため中盤より前の選手の疲労の色が見えるようになりました。
71分、G大阪は矢島に代えて遠藤を投入し、システムを4-4-2に変更します。
遠藤は投入直後から要所に顔を出しボールを引き出しては展開し、流れは瞬く間にG大阪に傾きます。
名古屋は直前にシャビエルに変えて前田を投入しましたが、右SHのマテウスのブロックへの帰陣が遅いため、このスペースを使われるケースも目立ちました。
戦術パトリックと名古屋の対応
85分、両チームとも最後の選手交代を終え、名古屋はゲームを終わらせるためにシミッチと秋山を投入します。名古屋はシミッチを中盤中央に置き4-5-1の布陣でG大阪の猛攻を受ける形となりました。
最終盤、G大阪はパトリックへのロングボールを多用し、完全なパワープレーでゴールに迫りますが、名古屋ディフェンスの集中力も素晴らしく身体を張ってシュートブロックします。
しかし、92分最後方福田からのロングボールをパトリックが秋山に競り勝ち、こぼれたボールを渡邉一真に決められてしまいます。
このまま試合は終了し結果は2-2のドロー、痛み分けとなりました。
総括
名古屋としては勝点2を失った非常にもったいないゲームだったのではないでしょうか。
前半から攻守両面でゲームをコントロールし、後半には追加点を決めるチャンスもありました。
課題は当然ですが最後のゲームコントロールです。
名古屋は終盤シミッチを入れて中盤を厚くするという選択をしましたが、ボールは虚しくもその中盤の頭上を何度も通過していました。
結果論ですが、シミッチを投入するのであればCH稲垣か米本を1枚前に出し遠藤を監視するか、シミッチをパトリックにマンマークさせ簡単にヘディングさせないように対応するかはっきりとした役割を与えるべきだったような気がします。
もちろん、SBとのミスマッチを狙ってきていたことは明白だったので秋山ではなく藤井を投入するという選択肢もあったと思います。
しかし本当の問題は、選手交代が正しかったかどうかよりも、ピッチ内の選手たちそれぞれが残り時間でやるべきことが統一されていなかったことです。
途中交代で入った前田は2度カウンターでサイドを抜け出すシーンがありました。1度目は左サイドをドリブルで仕掛け相手に奪われ、2度目は右サイドを抜け出しシュートで終わりました。
ゲームを終わらすという意図が選手交代にあったのであれば、無理にシュートに行くのではなく時間を進めるためのキープという選択肢もあったと思います。この辺りの意思統一がなされていなかったことがこの試合の一番の課題だったのではないでしょうか。
途中交代で入った選手は体力的にも余裕があり、さらに結果を残して次はスタメンという気持ちがあることもわかります。
しかし、過密日程が続く中では選手一人ひとりがチームの勝利のための最善策を取れるかどうかが非常に重要になってきます。
イタリア人指揮官のフィッカデンティですから、会見でも既に述べていたように最後の失点は防ぐことができましたし、今回は高い授業料を払ったと思い、また次の試合に期待したいと思います。
“どちらかと言えば、最初の失点よりも、二失点目の方が明らかに防ぐ方法があったと思いますし、偶然あそこにというより、狙われた通り、こちらとしても予測できた通りの形で決められていますし、そこに関しては修正ができる部分だと思っていますし、作業をしなければいけません。“
引用:Coach Interview
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