老いらくの恋

いつものバーに飲みに行こうと和歌山駅前の通りを歩いていたら、すれ違った女性から呼び止められた。地味なセーターを着た若い女性で道でも聞かれるのかと思ったら「すいません、私とラインの交換をしていただけませんか?」とスマホを差し出された。あまりにも唐突な言葉に私は彼女の涼やかな目をじっと見ながら黙り込んだ。「え…」と言い返そうとすると彼女は「すいませんでした」と素早く会釈をして駅通りの雑踏に消えて行った。私は唖然としながらも、若くて可愛い娘だったので惜しいことをしたなと思った。でも今のはいったい何だったのだろう?  齢65の私をつかまえてあら手の詐欺でも働こうとしたのだろうか?
そんな事があってから三週間ほどが経ったある日、私はまた同じ和歌山駅前の通りで彼女とばったり出会ってしまった。

いいなと思ったら応援しよう!