それでどうしてデッドプールとウルヴァリンなんだろう
映画『デッドプール&ウルヴァリン』が公開から一か月ほど経ちまして、いまだに反響大きくにぎわっておりますね。
ただ私はMCUについてはあんまり知識の持ち合わせがないので、そういうのは詳しい方におまかせするといたしまして、多少は知っているコミックスの方のデッドプールとウルヴァリンについてをざっと書かせていただきたいと思います。
そもそもどうしてデッドプールとウルヴァリンなのか。
ごく当たり前のようにデッドプールとウルヴァリンが並んでいて、なんとなくコンビのような感じになっていますが、この二人、コミックスデビューの年も扱いもまるで違い、元来は無関係なキャラクター同士でした。
それを結びつけたのがヒーリングファクターです。
治癒というにはなまやさしい、腕一本を切られたりや体を半分にされたりしたくらいではなんてことなく、全身焼けつくされた状況からでも再生する回復能力です。
不死身とさえ呼ばれる(実際には不死身は不死身で別の能力としてマーベル内では存在するのですが、それはおいておくとしまして)能力の持ち主で、割と使用頻度の多いためか代名詞のようになってしまっているのがデッドプールとウルヴァリンなのです。
ウルヴァリンはこの回復能力を生まれながらに持っており、それがミュータントとしての彼の能力の一つでもありました。
しかし、その不死身に近い体は、アメリカの軍関係者に目をつけられ、超人兵士育成の計画に、本人の意思を問わず組み込まれてしまいます。
これが「ウェポンX」と呼ばれた計画であり、ウルヴァリンは洗脳、催眠などを施され、再生能力の各種試験に文字通り全身を切り裂かれ、その過程で全身の骨をアダマンチウム合金で覆われるという実験も施されます。最終的には計画を実行していた研究者たちの想像を超えた回復力と身体能力を発揮してウルヴァリン自身は逃亡を果たすのですが、それでも研究の成果は成果として残されウェポンX計画は継続されました。
このウルヴァリン由来の超回復能力を移植された人物の一人がウェイド・ウィルソン、後のデッドプールだったのです。
彼はその時点で既に名うての傭兵として長い年月と経験を重ねていましたが、全身を重度の癌で侵され、余命いくばくもない状態に陥っていました。
そこで万が一の延命の可能性に賭けて、自ら志願したのがウェポンX計画でした。
結果は成功。彼の肉体には病魔による衰弱さえも跳ね返す驚異の回復力が備わりました。ところが、それと同時に、肉体の多くを蝕んでいた癌細胞にさえヒーリングファクターが付与され、強力な回復能力を得た病は彼の全身をさらに侵蝕していったのでした。そうして皮膚は爛れ、脳にまで及んだ腫瘍は、彼に絶えず幻聴・幻視・幻覚を与え、思考回路を大きくゆがませてしまいました。(公式設定では、癌細胞が全身を覆ったと言及していなかったりするのですが、ゾンビ化した人間がデッドプールの肉体を食べるとあまりのまずさに吐き出すといった描写があったりするので推測されます)
こうして凄腕の傭兵だったウェイド・ウィルソンは、その技術は据え置きで少々のことでは壊れない肉体と壊れた精神を持ったおしゃべりな傭兵デッドプールへと生まれ変わりました。
全身を覆うコスチュームとマスクは、爛れた体と顔を他人にさらすことを恐れて……という設定が昔はありましたが、今はすっぱりとなかったことにされて、過去の回想なんかでも自分からマスクをとって素顔をさらすようなシーンも頻繁に登場します。
このように、その高い回復力が特徴のデッドプールとウルヴァリンですが、その回復力こそが二人をつなぐ根本的なカギなのでした。
いつ頃からかは判然としていませんが、このヒーリングファクター移植についてを二人はともに知っています。
そうしてウェポンXに絡んだ事件に巻き込まれることもあり、またX-メン所属ながら殺人さえも辞さない特別チームX-フォースに揃って加っていたこともあり、時折は頼みごとをしたりされたりする腐れ縁的な関係が構築されていきました。
ただ案外なことに、デッドプールからウルヴァリンに頼みごとをする際は、例えばいろいろあって生きていくことに真剣に嫌気がさしてヒーリングファクターを持ったままどうすれば死ねるのかをたずねた時のように、相手の意思を尊重していることが多いのですが、一方でウルヴァリンからの場合は、最近出版された日本独自の編集コミックス『デッドプール VS. ウルヴァリン』に収録されている「Wolverine/Deadpool: The Decoy」みたいに、肝心な意図を隠していたり「こいつ死なないから多少乱暴に扱ってもいいだろ」的にデッドプールを利用しようとすることが多いように思えます。
このあたりウルヴァリンの方が処世に長けているともいえますし、そもそも話が通じないデッドプール相手だとこうしないとひどい目に合うという事情があるともいえます。
ウルヴァリンはくり返し受けた洗脳の暮らしのなかで、デッドプールは裏切りが当たり前のような傭兵生活のなかで、それぞれ他者を絶対的に信用することのできない生き方が染みついているのかもしれません。
けれども、だからこそ、そうした他者への猜疑心と死なない(死ねない)という能力の共通が重なって、信頼とはまた異なる絆を太くしていったともいえそうです。
それが、ウェポンXの大元である超人兵士育成計画の最初の成功例であるキャプテン・アメリカをも巻き込んだ騒動で顕在化し、やがて死を迎えることになったウルヴァリンが遺言を託す相手としてデッドプールを選ばせることになったのかもしれません。
まあ、その後にウルヴァリン生き返ったんですけどね。