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2024.8.30 長い夏を抜けたら

 八月、思考が長く続かないというか、何か思ってもひとたび外に出れば「暑い」に思考のすべてを持っていかれ、いつの間にか、何を考えていたんだかすっかり忘れ去っている、みたいなことが多かった気がする。この頃は暑さも落ち着いてきて、ものを考えたり、本を読んだりが難なくできるようになってきた感じがする。この夏は、ラベルレスのスポーツドリンクを箱買いして、冷凍しておいたものを保冷剤がてら日々持ち歩いていた。首や頭を冷やすのに重宝するのだが、溶け出してきた最初のほうの味が濃いというか、しょっぱくて、最後のほうは少しだけ味のついた水になってしまうのをどうにかしたいと思いつつ、解決策を見つけられないまま、夏が終わっていく。地面にひっくり返って動かなくなった蝉たちを、カラスがくわえて攫ってゆく。店を閉めた帰り、駅まで歩くときは、リーンリーンと秋の虫たちの声がしている。
 虫といえば、この2週間ほど、茗荷谷周辺の歩道をたくさんの毛虫が這っているという現象があり、ぎょっとした。なんだこれは、と思いながら家に帰り、ベランダで育てているミントの鉢植えを手入れしていると、いくつかの葉がレースのようになっており、再びぎょっとした。ミントに付いていたのは毛虫ではなく青虫だったけれど、いずれにせよそういう、卵が孵ることのできる気温なのかしらと思いながら、摘んで、ごめんね、鳥の餌におなり、と遠くに放り投げた。暑すぎる夏は虫たちにとっても酷だろう、人知れず絶滅の危機に瀕している種などもいるだろうと想像する。人間だって、冷房という文明の利器のおかげで生き延びているけれど、なかったら滅びていたかもしれない。しかし文明がこれほど栄えなければ、こんなに暑くはならなかったかもしれないわけで、はて、いったいどこへ向かっているのか、と疑問に思わざるを得ない。
 ともあれ、涼しくなってきたことは喜ばしい。珈琲がたくさん売れるので、たくさん焼ける。何も考えられない暑さからすっかり解放されたら、こんどは考えすぎてしまわないよう、気をつけたい。九月末に福岡に行くので、森光さんの本など読み返しながら、おだやかに秋を迎えたい。

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