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【北大阪環状モノレール】第4回 建設費(投資額)について考える
第2回と第3回では「北大阪環状モノレール構想」の中で示されている8つの駅ができるとされる地域の状況を見てきました。そして、モノレールを建設できるポテンシャルがある地域ではないかと考えました。
しかし、構想が発表されて以降、ネットには構想に対する懐疑的な意見も上がっています。今回は「北大阪環状モノレール構想」に実現性あるのか、予想される建設費(投資額)について考えてみたいと思います。
1:「北大阪環状モノレール」の建設にはどのくらいの費用が必要?
建設費が大幅に膨らんだ「大阪モノレール」の延伸工事
2024年4月に大阪府の吉村知事は、現在進行している大阪モノレールの門真市駅から、仮名・瓜生堂駅(東大阪市)への伸工事で、建設費が当初の1,050億円という想定を大幅に越える1,436億円になること、さらに当初の2029年度とされた開業時期も、4年遅れると発表しました。
建設費が増加し建設期間が延びた原因は、建設資材、工事費、人件費の高騰、工法の変更によるものとされています。
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「北大阪環状モノレール」の建設費は4,000億越え⁉
現在進められている大阪モノレールの延伸工事の距離は約9㎞であることから、大阪での現在のモノレール建設費は、単純計算(1,436億円÷9㎞)で1㎞当たり約160億円と考えられます。
この金額をベースに考えると「北大阪環状モノレール」の環状線部分(下図参照)は全線で約28㎞とされており、環状線部分の予想される建設費は、単純計算(160億円×28㎞)で4,480億円となります。
単純な比較はできませんが、金額の規模感を掴むために自治体の予算と比較してみました。茨木市の2024(令和6)年度の一般会計予算は、当初予算で1,074億円です。「北大阪環状モノレール」の予想される建設費は、茨木市の1年間の一般会計予算の4倍以上となります。また、北摂7市の2024(令和6)年度一般会計予算を合計した額(下表参照)の約6割に相当する額です。
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北摂各市の1年間の一般会計予算を大きく上回る巨額の投資となる
2:この20年間(2004~2024)に共用を開始した周辺の交通インフラの建設費(投資額)は?
2004年以降、2024年までに京阪神で整備された、主な交通インフラの事業費(建設費、投資額)16件について調べてみました。
(1)京都市営地下鉄 東西線延伸(六地蔵~醍醐)
開 業:2004年11月
区 間:六地蔵~醍醐
距 離:2.4㎞
事業費:556億円
㎞あたり事業費:約232億円(556億円÷2.4㎞)
(2)神戸空港
開 業:2006年2月
所在地:神戸市中央区神戸空港(神戸市ポートアイランド沖)
事業費:3,364億円(空港本体建設:584億円、空港島造成:2,780億円)
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(3)神戸新交通ポートアイランド線延伸
開 業:2006年2月
区 間:市民広場 ~神戸空港
距 離:4.4㎞
事業費:520億円
㎞あたり事業費:約118億円(520億円÷4.4㎞)
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(4)近鉄けいはんな線延伸(京阪奈新線)
開 業:2006年3月
区 間:生駒~学研登美ヶ丘
距 離:8.7㎞
事業費:785億円
㎞あたり事業費:約90億円(785億円÷8.7㎞)
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(5)大阪メトロ今里筋線
開 業:2006年12月
区 間:井高野~今里
距 離:11.9㎞
事業費:2,663億円
㎞あたり事業費:約223億円(2,663億円÷11.9㎞)
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<出典>Wikipediaより
日根野 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=78686610による
(6)関西国際空港2期工事
開 業:2007年8月
所在地:大阪府泉佐野市泉州空港北1(関西国際空港1期島200m沖)
事業費:1兆4,200億円
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(7)京都市営地下鉄 東西線延伸(二条~太秦天神川)
開 業:2008年1月
区 間:二条~太秦天神川
距 離:2.4㎞
事業費:390億円
㎞あたり事業費:約163億円(390億円÷2.4㎞)
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<出典>Wikipediaより
Haruno Akiha - Haruno Akiha's own work, CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2913526による
(8)阪神なんば線(西大阪線延伸)
開 業:2009年3月
区 間:西九条~大阪難波
距 離:3.4㎞
事業費:890億円
㎞あたり事業費:約262億円(890億円÷3.4㎞)
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<出典>Wikipediaより
TRJN - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=53340430による
(9)第二京阪道路
開 業:2010年3月(全線開通)
区 間:京都市伏見区向島~門真JCT
距 離:28.3㎞
事業費:1兆460億円
㎞あたり事業費:約370億円(10,460億円÷28.3㎞)
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(10)阪神高速道路8号京都線※
開 業:2011年3月(全線開通)
区 間:山科出入口~京都市伏見区向島第二京阪接続部
距 離:10.1㎞
事業費:1,911億円
㎞あたり事業費:約190億円(1,911億円÷10.1㎞)
※阪神高速道路8号京都線は、2019年に阪神高速道路から、京都市とNEXCO西日本へ移管された。
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<出典>Wikipediaより
日本語版ウィキペディアのSi-take.さん(しいたけ) - 投稿者自身による著作物(original source on jawp: ja:File:Jonangu-kita_exit_Hanshin_ExpWay_No8_Kyoto,JAPAN.jpg), CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=118407727による
(11)京都縦貫自動車道(久御山IC~沓掛IC)
開 業:2013年4月
区 間:久御山IC~沓掛IC
距 離:15.7㎞
事業費:4,177億円
㎞あたり事業費:約266億円(4,177億円÷15.7㎞)
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(12)阪神高速2号淀川左岸線
開 業:2013年5月(部分開業)※
区 間:北港JCT~豊崎IC(仮)
距 離:10.0㎞
事業費:4,312億円
㎞あたり事業費:約431億円(4,312億円÷10.0㎞)
※2013年5月に島屋出入口~海老江JCT間(1期区間)が開通、現在、海老江JCTから豊崎出入口(2期区間)が工事中(2032年開通予定)。さらに、淀川左岸線延伸部(豊崎出入口~門真JCT)8.7㎞の区間が、事業費2,391億円として工事が進められている。
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左岸(写真奥に向かって川の左側)で阪神高速2号淀川左岸線の工事が進む
海老江JCTと豊崎IC間では、堤防の内部に道路トンネルが建設される
<出典>Wikipediaより
Okada2022 - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=121274455による
(13)新名神高速道路
開 業:2018年3月
区 間:高槻第一ジャンクション~神戸ジャンクション
距 離:40.5㎞
事業費:7,117億円
㎞あたり事業費:約176億円(7,117億円÷40.5㎞)
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<出典>Wikipediaより
アラツク - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=64862239による
(14)おおさか東線(城東貨物線旅客線化)
開 業:2019年3月(全線開通)
区 間:新大阪~久宝寺
距 離:20.3㎞
事業費:約1,200億円
㎞あたり事業費:約59億円(1,200億円÷20.3㎞)
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(15)阪神高速6号大和川線
開 業:2020年3月(全線開通)
区 間:三宝JCT~三宅JCT
距 離:9.7㎞
事業費:4,501億円
㎞あたり事業費:約464億円(4,501億円÷9.7㎞)
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(16)北大阪急行線延伸
開 業:2024年3月
区 間:千里中央~箕面萱野
距 離:2.5㎞
事業費:874億円
㎞あたり事業費:約350億円(874億円÷2.5㎞)
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3:「北大阪環状モノレール」の建設費(投資額)の位置づけを考える
地理的な位置関係からみた位地づけ。京阪神全体で見た時にインパクトはあるのか?
上述した過去20年間に京阪神で行われた、16件の交通インフラへの投資状況を地図にプロットしてみました(下図参照)。
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北摂では、新名神高速の建設と北大阪急行線延伸が行われ、近接する京都府南部では京都縦貫道も建設されました。道路を中心に、この20年間で北摂の交通環境は大きく変化しました。
「北大阪環状モノレール」はこれに続く投資となりますが、新名神や京都縦貫道に比べると、茨木市とその周辺の交通問題の解消が整備目的の一つの柱となっており、京阪神全体で見たとき、投資効果の及ぶ範囲が限定的(インパクトが小さい)のではないかとの見方ができます。
東西線の建設で、投資インパクトを向上させることができる?
先月(2024年6月)に北大阪環状モノレール準備室は、「北大阪環状モノレール」が北摂7市の発展に大きく資するものになるために、当初、点線で示されていた「北大阪環状モノレール東西線」(池田市~高槻市)を前面に打ち出したチラシと動画を発表しました。
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茨木市内を中心とした環状線に加え、池田市と高槻市を結ぶ東西線が強く打ち出された
<出典>北大阪環状モノレール準備室ホームページより
しかし、2024年3月に、北大阪急行線の千里中央~箕面萱野間が延伸されたことで、北摂7市の一つである箕面市の長年の交通課題が解決されたこと、また、北摂における東西間の移動をスムーズにするものとして、すでに大阪モノレールが運行しており、長年の課題解消がはかられています。大阪モノレールと地理的に近接することになる「北大阪環状モノレール」東西線は、平行路線となってしまいます。
北大阪急行の延伸、大阪モノレールとの平行などを考慮すると、「北大阪環状モノレール」東西線を建設したとしても、そのインパクトはさほどないのではないかと思われ、その必要性には疑問が残ります。
なお、今回、筆者が試算した「北大阪環状モノレール」の想定建設費に、東西線(池田市~高槻市)の建設費は含んでいません。
投資額からみた位置づけ。どの程度の投資額までなら許容されるだろうか?
上述した過去20年間に京阪神で行われた、16件の交通インフラへの投資状況を、縦軸を投資額、横軸を投資(整備)目的としたグラフにプロットしてみました(下図参照)。
このグラフから、次のことが読み取れます。
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投資(整備)目的の内容と位置づけは、筆者が各プロジェクトの内容を踏まえ判断した
投資額3,000億円付近が、全国レベルの交通整備を目的とした投資と、地域の交通整備を目的とした投資の額の分かれ目となっていること。
この20年間、3,000億円を超える投資は、全国レベルの交通整備または、それにつながる、つまり広範な投資の波及効果が見込める、高速道路又は空港への投資に偏っていること。
この20年間、軌道系の交通インフラへの投資は3,000億円以下で、かつ地域の交通整備に偏っていること。
「北大阪環状モノレール」の予想投資額は、他の軌道系交通インフラのグループから高額の方に離れていること。つまり、軌道系交通インフラへの投資額としては最大となる。
以上の点を踏まえると、「北大阪環状モノレール」への建設費(投資額)4,480億円(筆者試算額)は、これまでの地域の交通整備を目的とした軌道系の交通インフラ投資額から考えると、過大な額となります。そのため、建設費(投資額)から考えた場合、投資に向けての合意形成を得ることが難しのではないかと考えられます。
建設費(投資額)の上限としては、この20年間、地域の交通整備を目的とした軌道系の交通インフラへの投資額として最大だった、大阪メトロ今里筋線の建設費、2,663億円(筆者の予想投資額から約40%以上カット)が考えられます。「北大阪環状モノレール」では、建設費(投資額))が、少なくともこの額以下になるような工夫が求められると思います。
北大阪環状モノレール準備室には、ある程度の根拠に基づいた概算の建設費(投資額)を示してほしいと考えます。
4:まとめ
今回は「北大阪環状モノレール」の建設費(投資額)について考えてみました。
現在、工事が進む大阪モノレールの延伸にかかる建設費(㎞あたり160億円)をもとに試算したも建設費(投資額)4,480億円を前提とした場合、「北大阪環状モノレール」の建設費(投資額)は、次のように評価できます。
「北大阪環状モノレール」の建設費(投資額)は、北摂7市の財政規模と比較した場合、各市の一般会計の数年分に匹敵する巨額なものである。
京阪神において過去20年間に行われた交通インフラの建設費(投資額)と比較すると、全国レベルの交通インフラ建設費(投資額)に匹敵する額で、地域の交通インフラの建設費(投資額)としては最大規模になる。
投資規模からすると、投資の波及効果(インパクト)が小さいと考えられる。
過去20年間に京阪神で行われてきた軌道系交通インフラの建設費(投資額)の実績を踏まえると、投資に向けての合意を得るのは難しいと考えらえる。
過去20年間に京阪神で行われてきた軌道系交通インフラの建設費(投資額)の実績を踏まえると、建設費(投資額)を少なくとも40%以上、抑える工夫が求められる。
次回は、運営開始後の収支について考えてみる予定です。
最後までご覧いただき、ありがとうございました。