アニメ『山田くんとLv999の恋をする』における書き文字の処理について(20230625日録番外編)

  • 『山田くんとLv999の恋をする』最終回、横綱相撲でした…最初から最後までとても楽しいアニメだった。

  • 浅香守生監督(CCさくらの人です)の演出が本当にスマート。

    • 他の人も指摘していた(気がする。見失った)けど、吹き出し外の書き文字の処理の仕方とか、本当に感心した。今回の主題はそれです。

      • 全然無知だし物忘れが激しいので、もしかしたら昔からある表現かもしれない。もしそうだったら教えてください…

      • 以下小賢しげにマンガのコマ分析をやりますが、マンガ研究に関して本当に無知なので、色々と誤りもあると思います。よければ教えてください。それから、以下でやってるような議論を展開している文献等あれば教えてくれると嬉しいです(クレクレモンスターか?)

    • 吹き出し外の書き文字というのは、下の画像の「俺らのこと言ってる?」「俺らしかいないだろ」みたいなやつとか、

ヤマダアキラ『うちの弟どもがすみません』1巻kindle版位置No.148

下の画像の「さっき廊下で激突してた人」「次新しい人入るから〜」とかのこと。

路田行『すずめくんの声』1巻kindle版位置No.23
  • 私は、吹き出し外の書き文字のことを、補足情報を追記したり、(オフビート気味の)ギャグを配置したりする場所だと認知している。個人的に、こういう書き文字を使いこなす作家の作品は好みドンピシャの比率が高い気がしていて、書き文字があるとそれだけで嬉しくなる。

  • ただ、コマ外の書き文字(作者の介入であることが明らかな完全なメタ情報なのでほぼ無視で良い)とは違って、吹き出し外の書き文字は映像化のときの扱いが難しいように思う。

  • 私見では、吹き出し外の書き文字の面倒さは、①吹き出し外書き文字には作品の本筋/吹き出しとの明らかな連続性があり(以下「連続性」)、かつ②吹き出しより劣位であるという明白な序列付けが存在する(以下「劣位性」)、という2点に起因する。

    • 例えば、『うちの弟どもが〜』の「俺らのこと言ってる?」は明らかにキャラが実際に口に出しているセリフなわけで、その点だけに着目すれば吹き出し内のセリフと等価なわけです(連続性)。にもかかわらず、私たちは吹き出し内のセリフの方が書き文字セリフより重要であり、より強く本筋に関連している(劣位性)と認知することができる(だって書き方が違うから!)。

      • 実際、書き文字の箇所は無視しても話の本筋には関係ない(ことが多い)し、書き文字の箇所を素朴にセリフとして追加するとコマ内の会話が変な飛び方をしてしまって会話が成立しなくなることがままある。(劣位性・2)

      • しかし書き文字には、その劣位性故に、読者に圧迫感なく情報伝達を行うことができる、というメリットがある。それゆえ、書き文字があることで読者への情報伝達をテンポよく進めることができる(上に貼った『すずめくんの声』のコマはその例。書き文字を使わずに全部吹き出しないし別コマで処理した場合を想像してほしい)。それゆえに、書き文字箇所にそこそこ重要な情報が書き込まれることもある。

        • ここにおいて、劣位性は連続性を強化しているともいえる。

  • 映像化の際、書き文字の二つの性質のうち連続性だけに着目すると(つまり「本筋と内容が連続しており、ときたま重要な情報も含まれる」ことのみに着目すると)、「全部セリフとして声優にしゃべらせる」が有力なソリューションとなる。しかし、それをやるとテンポがとんでもなく遅くなるだけでなく、話の本筋がブレてしまう(書き文字にはその劣位性ゆえに話の本筋にかかわらない情報が混入している(ギャグなど))、というデメリットがある。

    • 実際にそれをやったのが『鬼滅の刃』で、事実恐ろしく間延びしていることは周知と思う。

  • かと言って劣位性のみに着目して書き文字部分を全カットするのも味気ない上、必要な情報を削ぎ落とすリスクがある。

    • もちろん、全カットも全セリフ化も両極端なわけで、多くのアニメでは取捨選択しつつセリフにしていくわけです。

  • さらに面倒なのは、上の例だと明確にキャラのセリフだけど、下の例(「←両方とも火星探査船の名前」)とかは明らかにセリフではないし、

竹本泉『魔法使いさんおしずかに!』1巻kindle版位置No.57
  • 下の例ではそもそもセリフかどうかすら明らかでない。

竹本泉『魔法使いさんおしずかに!』1巻kindle版位置No.57
  • よって、仮に「全部喋らせる」というソリューションをとったとしても、「これはセリフなのか」という判断が逐一必要になる上、セリフでないと判断した場合、①無視(不要な情報と判断)②セリフに組み込む(必要な情報と判断)③そうと分かるように場面を変更/追加(必要な情報と判断) のいずれかを選ぶ必要がある。

  • じゃあ山田999ではどうしたのかというと、

『山田くんとLv.999の恋をする』11話

思い切って画面に書いちゃうわけです。(しかもこのキャプの場面だと「書き文字が電車の窓に反射している」というメタギャグにまで昇華されている!)
こうすることで、書き文字のメリットはそのままに、テンポよく映像化することができる。逆転の発想だと思う。本当にすごい…


以上です。
全然関係ないですが、『山田999』公式サイト、ミニゲーム豊富で楽しいので覗いてみると面白いです。「山田キュンボタン」とか…


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