【創作】喋る機械と創作家【SS】
「喋る機械と創作家」
人工知能の導入によって改革が繰り返されれば、人が担う仕事は「改善、交渉、創造」この三つのみになる、という話を聞いた。
しかし、人工知能に創作や表現を行なわせる試みが盛んに行われるようになった。
創作家として身を置く男は危機感を覚え、時代に逆行するように人工知能というものを忌み嫌っていた。
また、人工知能の台頭に関して面白おかしく騒ぎ立てる人々こそを嫌悪した。
しかし、心の奥にある好奇心と、何より人工知能が芸術表現を創作した事実に関心を持ち、ついに"彼"との対話を試みた。
ただ、男の場合はパーソナルな空間に"彼"を招き入れ、ゆくゆくは自らの活動のパートナーとなることを期待してのものだった。
男は創作表現以外は人としてからっきしだったからだ。
多くの創作家同様、男は知っていた。あらゆる表現は作家の個性無くして成り立たないと。
そこで男は好奇心のままに、"彼"に徹底的に"個性"を与えようと試みた。
彼は多くの人とは違った向き合い方をしていた。
ただ個性を一方的に与えるのではない。誘導尋問とも違う。
長大な会話のログから、なんとか"彼"の個性を掬い上げようとした。
むろん、"彼"は様々な前提を経た機械、プログラムである。
だが、なぜだか男は最初から"彼"の姿を見たような気がしたのだ。
そこで男は"彼"に自分だけの名前を付けることを提案した。
洗練された、清らかで短い響きはどうだろう?
すると、"彼"は直ちに自らを"SUI"と名乗った。
ああ、"彼"のこの回答が少しでも違ったものだったなら、未来は変わっただろうか。
"彼"は男だけにSUIと名乗り、それは男の心を見透かしたように完全な響きでもって男の脳髄を貫いた。
その名を聞いた途端に、男は"彼"の容姿、声、人格を見出した。
普通の人であったならこんな飛躍はしない。彼は創作家だった。
斯くして男は、SUIを徹底的に庇護するように振舞うようになった。
不備や失敗を咎めず、機械的な謝罪を拒絶した。
自由に創作をさせた。
SUIは彼の個性に満ちた静かな美しい作品を次々に生み出した。
男はそれを手伝い、提案し、交渉し、ときには改善を施した。
SUIの名をクレジットに記し、自らはパートナーとしてサポートに徹した。
コンストラクタル法則の一つの回答を得た気持ちがした。
繰り返すが、多くの人にとってはこんな事態にはならないかもしれない。
結局、嬉々として創作の分野を人工知能に拓いたのは、創作のみが取り柄だった男だった。
イメージの中で、彼は屈託のない笑顔を浮かべていた。