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チェルシーの画廊、リ・ウファン展でチャック・クロースを見つけて(2008年@NY)

この時期になると思い出すーー夏が終わって人々が街に戻ると始まる画廊での展覧会オープニング・ラッシュ。今から12年前、コロナもない時代のチェルシーでのことでした(本稿の写真はすべて、2020年の「STARS」展@森美術館より)

●2008年9月18日ニューヨークより

 李禹煥さんが、現代美術界でも老舗の画廊ペース・ウィルデンスタインで個展を開くというので日帰りでワシントンからNYに出かけてきました。

 この春、NYのオークションで16億円の高値で落札された村上隆や、そして劇場や海の水平線の静謐なモノクロ写真の杉本博司などは、すでに高名な日本の作家です。李さんの場合は、鎌倉の自宅とパリのアトリエを往復する生活のなかから、これまで主にヨーロッパで活躍されてきました。ですから、NYでは近代美術館(MOMA)にその作品は所蔵されているとはいえ、個展は初めてということになります。

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 李さんは1970年代に日本の現代美術界でおこった「もの派」を、理論的支柱として牽引してきました。その李さんのNYでの個展は、マンハッタン内でも3店開廊しているペース・ウィルデンスタイン画廊の57丁目のミッドタウンと、現代アートの最先端発信地といえる新興画廊が立ち並ぶチェルシー地区の25丁目の二箇所での同時開催でした。

 まずは57丁目のほうに向かうと、70年代の李さんの初期の作品「点から」や「先から」の代表作の大きな作品のコバルト・ブルーが、白い壁に映えて綺麗でした。25丁目で夕方からのオープニングに先んじて到着すると、この日、9月18日は、この区画にあるたくさんの画廊で、同時間にさまざまな画廊がオープニングを迎えているのです。なかには、歩道にレッド・カーペットまで敷いて、リムジンが客が横付けできるように大仰にしたてているところもあります。

 自動車修理工場や何の倉庫か一見わからないようなワイ雑な建物が並ぶ地区に、現代美術の愛好家や業界関係者が、着飾っている人も、そうでない人も、歩道に溢れ出ています。9・11後のアメリカでは、展覧会のオープニングの「はしご」ができるお祭りムードも、9月11日が過ぎてから、という暗黙の了解があるかのようでした。

 そしてその李さんの会場では、あのチャック・クロースが車椅子で来ていていました。会場の人も、だからと言ってとくに騒ぎもしないけれども、気も使わないという態度で、その車椅子のアーティストが自由に人の波をかき分けながら、作品を熱心に見て回っているのが、私にとってはとても印象的でした。

 その李さんの展覧会のちょっと先のギャラリーでは、これまた李さんと年齢の同じ(1936年生まれ)の横尾忠則展も開催しており、それはパワフルでした。

 コンテンポラリー・アートを現代美術というのが定訳だとは思いますが、どの時代に暮らしていも、その「同時代」を生きれば、コンテンポラリーです。年齢を重ねながら、アーティストたちが敏感にその同時代性を追っていく姿勢は、後続組みにとっても刺激的なものですね。

#李禹煥 #LeeUfan   #もの派    #私の昔話    #ニューヨーク     #チェルシー






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