デジタル化で変革を ジンズホールディングス 田中仁CEO
新型コロナウイルスの影響はすさまじい。売り上げは大幅に減少し、国内外の大半の店舗は休業を余儀なくされ、一時は会社存亡の危機ともいえる状態だった。現在は回復基調にあるが、ウィズコロナ、アフターコロナの時代を生き抜くため、デジタルトランスフォーメーション(DX=デジタルの活用による変革)を加速させ、会社を一気に変えようとしている。
コロナ禍以前は店舗の売り上げが好調なため、DXを進めなくても会社は安泰だという認識の社員が多かったが、コロナウイルスの影響で店舗の売り上げがほとんどゼロになるという経験をくぐり抜けた今は「自分たちも変わらなければ」と考えを改めてくれた。変化するときはチャンス。ビジネスはピンチのときこそ、面白い。
顧客目線で見たDXの代表例は、いつでもどこでも眼鏡を購入できるオンラインショップの強化だ。お客さまはネット上で自分の視力を登録でき、バーチャル試着サービスもあり、実店舗に行かなくても気軽に購入できる。DX化を進め、オンラインショップの比率を伸ばしていきたい。
東京本社の働き方も一気にテレワーク化した。仕組みは準備していたので、緊急事態宣言発令後、すぐに実行した。仕事が可視化され、社員の成果を的確に判断できた。社内であまり目立たない人が実はいい仕事をしていたり、創造力が乏しいために部下に仕事を適切に割り当てられない上司がいたり、気付かされることも多かった。
コロナウイルスとの闘いは長期戦になるだろう。DXはもちろん、会社の根底にある価値観や働き方全てを変革するコーポレートトランスフォーメーション(CX)のレベルで変えなければならないと覚悟を決めている。実は、コロナ禍以前から東京本社への一極集中を懸念し、リスク分散の観点で第2の本社機能を前橋市内に設けることを検討している。感染リスクに限らず、首都直下地震など自然災害の脅威に備え、最適なリスク分散を考えて事業を継続していく。
困難から逃げないことで人は磨かれると信じている。勇気ある一歩を踏み出し、どう新しい価値を生み出すか。イノベーションとは、世の中の不便や不満を解消すること。GIAに応募する人には社会課題の解決に向け、光るビジネスアイデアを期待したい。
<上毛新聞 2020年8月26日掲載>
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たなか・ひとし 1963年、前橋市生まれ。88年にジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立、眼鏡事業に進出し、「JINS」ブランドの新商品が次々ヒット。日本と中国、米国、台湾などに計約600店舗を展開。2014年、起業支援などを目的に田中仁財団設立