群馬イノベーションアワード2021・トップ座談会(1)
新たな価値の創出を ビジネスの変革を
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード(GIA)2021」(上毛新聞社主催、田中仁財団共催)の実行委員と特別協賛社、パートナー企業によるトップ座談会(全6回)が、同社で行われた。テーマは「Withコロナ・Afterコロナにおける、わが社のイノベーション」。第1回は座長の田中仁ジンズホールディングスCEOら10人が、変革で新たな価値を創出する取り組みなどについて意見交換した。
<2021年10月29日 上毛新聞掲載>
●田中氏 ビジネスの変革を
田中 仁・ジンズホールディングスCEO
たなか・ひとし 1963年、前橋市生まれ。88年にジェイアイエヌ(現ジンズホールディングス)を設立、2001年、アイウエアブランド「JINS」を開始。14年、起業支援・地域振興を目的に田中仁財団を設立。
田中 20年前の2001年にアイウエア事業に参入して以来、お客さまに視力矯正やブルーライトカットなどの機能を持った眼鏡を販売する事業を展開してきたが、コロナ禍以前から新たなビジネスモデルを模索し続けている。
極端な話だが、眼鏡を単に販売する事業から、その眼鏡から得られたデータを活用するビジネスへの転換もあり得るのではないかと考えている。その端緒とするべく、内蔵されたセンサーで取得した情報から自分の心と体の状態を知り、自分で整えるための眼鏡型ウエアラブルデバイス「JINS MEME」の次世代機を発売した。
●糸井氏 eスポーツを普及
糸井 丈之・糸井ホールディングス社長
いとい・たけゆき 1954年、高崎市生まれ。大学卒業後、製鋼会社勤務を経て79年に糸井商事入社。2015年から現職。プロ野球BCリーグ・群馬ダイヤモンドペガサス球団会長も務める。
糸井 昨年まで糸井商事社長としてGIAに関わってきたが、今年から糸井ホールディングス社長として参加している。私がオーナーを務める群馬ダイヤモンドペガサスの試合はコロナ下で有観客が難しくなり、ユーチューブなどで配信した。やむにやまれぬ措置だったが多い時は1試合で1万、2万の視聴があり、スポンサーさんも興味を示してくれた。災い転じて福につながっている。
eスポーツでは別会社をつくり、私どもが冠スポンサーとなって11月にGメッセ群馬で大きな大会が開かれる。47都道府県で初めてeスポーツの課を作った群馬で、eスポーツを根付かせるために注力していきたい。
●赤尾氏 顧客の脱炭素支援
赤尾 佳子・赤尾商事社長
あかお・よしこ 1962年、高崎市生まれ。51年に創業した石油製品販売業の赤尾商事に98年に入社、取締役などを経て2008年に代表取締役就任。群馬イノベーションスクール(GIS)6期生。
赤尾 高崎市に本社を置いて主にガソリンスタンドの運営、LPガスや機械の潤滑油を販売している。3年前に掲げた当社の「2030年ビジョン」に、新たにお客さまのSDGsの取り組みをサポートするという項目を付け加えた。エネルギーを扱う会社として、二酸化炭素削減を支援していくつもりだ。来年以降、小型EVのシェアリングビジネスにもチャレンジしたい。
社内では昨年から今年にかけ、若手社員18人が参加して群馬イノベーションスクールを参考にした赤尾イノベーションスクールを開催。GIAには7件エントリーした。社内から知恵を出し合って、次の時代の事業を考えていきたい。
●串田氏 持続可能な社会へ
串田 洋介・クシダ工業社長
くしだ・ようすけ 1979年、高崎市生まれ。2009年、クシダ工業入社。17年、IoTソリューションを手掛けるエルスピーナヴェインズを共同創業。災害リスク回避、脱炭素社会に寄与する基盤の研究開発に取り組む。
串田 クシダ工業は高崎市に本社がある建設設備業の会社で、ビルや工場などの施設や生産設備、社会インフラに関わる電力網、空調、水処理設備整備を手掛けている。業界の課題は、環境負荷軽減をどう実現するか、激甚化する災害リスクをどのように回避するかだ。
環境負荷軽減には、企業活動全体のプロセスをつなげることが大切。その最適化を実現するには、基軸となる設備の施工に加えてデジタルの要素を取り入れ、お客さまに提供していく。災害リスクの回避も同様で、データをつなげるデジタルの力は大きい。コロナ下で広がったデジタルの考え方を生かし、イノベーションに向かいたい。
●沢浦氏 農業の生産性向上
沢浦 彰治・グリンリーフ&野菜くらぶグループ代表
さわうら・しょうじ 1964年、昭和村生まれ。高校卒業後、県畜産試験場での研修を経て、20歳で養豚と畑作に従事。著書に『農業で成功する人うまくいかない人』(ダイヤモンド社)など。
沢浦 グリンリーフは昭和村を拠点とする農業の会社。県内はもちろん、全国に工場や関連会社、仲間の農場があり、年間を通じてお客さまに野菜を届けている。食品加工ではこんにゃくや漬物、冷凍野菜のほか、最近はミールキットの生産が増えている。来年は新しい工場を造る予定だ。
農業は旧態依然の経営が行われることが多く、離職率が高い。当社はファームシステムという仕組みを導入して生産性を上げた。このシステムは単に畑を管理するだけでなく、一人一人の仕事を見える化し、働くポジショニングによる賃金規定
も盛り込んでいるので、働けば正当に評価される仕組みになっている。
●高橋氏 介護をイメチェン
高橋 将弘・晃希社長
たかはし・まさひろ 1982年、みなかみ(旧月夜野)町生まれ。23歳の時、無資格・未経験で介護現場に飛び込む。26歳で介護福祉士取得。管理者、施設長を経て2017年、晃希を設立。
高橋 前橋市宮地町、前橋南インター近くの晃希という会社でデイサービスと有料老人ホームを運営しながら、ユーチューバー「介護福祉業界の革命家、高橋まちゃぴろ」として活動している。
介護福祉業界はきつい、汚い、給料安いという“3K”のイメージが強く、コロナでクラスター発生のニュースも流れた。イメージ払拭(ふっしょく)に向け①介護保険に依存しないビジネスモデル構築②熱い志を持って主体的に活動する③介護に人材が流れ込む仕組みづくり(ブランディング)を考えている。11月11日の介護の日には、地域の仲間や中小企業を巻き込みイベントを企画。コロナと戦う業界を元気にしたい。
●雅楽川氏 働く制度作り支援
雅楽川陽子・COCO-LO社長
うたがわ・ようこ 桐生市生まれ。作業療法士として病院などの勤務を経て、29歳で「COCO-LO」を起業。キャリア支援とワークライフバランスの制度を導入し、全国的な表彰は多数に上る。
雅楽川 COCO―LOは桐生市を拠点に前橋、みどり市に事業所を置いて訪問看護やデイサービスといった介護事業を展開している。コロナにより全国に講演に行くことが少なくなる中、県内の女性経営者たちの学びの場をつくろうと一般社団法人を立ち上げて代表理事に就いた。
当社は働く人のためにいろいろな制度を作ることで伸びてきた会社であり、働く制度作りを専門とする子会社、キャリアートココロを設立した。不妊治療や出産、育児による休暇制度などについて働く人と経営者の声を聞き、ディレクター、プロデューサー、クリエイティブの3人で一つの企業をサポートしていく。
●赤星氏 海外ラリーに挑戦
赤星大二郎・ジャオス社長
あかほし・だいじろう 1972年、東京都生まれ。大学卒業後、カナダで3年間過ごす。97年にジャオス入社。専務取締役を経て2008年から現職。一昨年まで5年連続でアジアクロスカントリーラリーに出場。
赤星 ジャオスは榛東村に工場を構える自動車用品メーカーで、アルミホイールやサスペンションなどSUV(スポーツタイプ多目的車)向けカスタマイズパーツを作っている。アフターコロナが見えてきた10月初め、群馬トヨタさんがGメッセ群馬で開いたパーツショーに弊社も参加した。
ようやく行動制限が緩和される中、モノ消費からコト消費に変わっていくといわれるフェーズを見据えて今後、自動車メーカーやキャンプ場などと組んでお客さまの体験価値を高める活動をしていきたいと考えている。さらに来年以降は、コロナ禍で休止していた海外のラリーへ再挑戦するストーリーも描いている。
●鈴木氏 顧客本位の視点で
鈴木みづえ・中央ビジネス社長
すずき・みづえ 1965年、前橋市生まれ。損害保険トータルプランナー、生命保険協会認定FP。経営理念は「夢・生きがい・健康にこだわり関わる人々を幸せにする会社にします」。
鈴木 中央ビジネスは前橋市石関町の保険代理店で、地域貢献の一環として障害者向けグループホームを建設。専門業者に運営を依頼し、11月にオープンする。また、地元の公園のネーミングライツスポンサーとなり、名称を「中央ビジネス石関公園」とした。
保険は、売る人とお客さまの信頼関係で商品価値が大きく変動するため、対面のほか、電話やオンラインを活用してお客さまとの接点を持ち、有意義な情報提供や課題解決に取り組み、関係構築を心掛けている。社内の定型業務をRPA化し、会社全体でお客さま一人一人と向き合い、本当に必要なときに役に立つ保険の販売活動をしている。
●中村氏 植物使い空間整備
中村敬太郎・前橋園芸社長
なかむら・けいたろう 1971年、前橋市生まれ。造園・外構工事会社を経て、2003年に家業の前橋園芸入社。10年から現職。外構造園の設計施工、観葉植物レンタル、生花販売などを手掛ける。
中村 前橋園芸という社名で外構造園、観葉植物のレンタル、ブライダルフラワーの事業を柱としている。今年から新しい事業を三つ始めた。
一つはグランピング・オートキャンプ場の整備。沼田市白沢町で造園技術を使って自然の中に植物を生かした空間を作っており、来春本格オープンする予定だ。二つ目はロボット芝刈り機で、スマホと組み合わせて簡単に管理できる。県庁前の芝生広場でデモンストレーションも行った。三つ目は、街路樹のCO2吸収量の調査。カーボンニュートラルが求められる中、データが集まれば行政にとっても都市の豊かさとして差別化できる要素になると思う。
◎12月5日にファイナル 斬新なプラン18組プレゼン
「群馬イノベーションアワード(GIA)2021」ファイナルステージは12月5日、ヤマダグリーンドーム前橋で行われ、2次審査を通過したファイナリストが公開最終審査に臨む。
起業・第二創業を目指す「ビジネスプラン部門」は高校生の部6組、大学生・専門学校生の部と一般の部が各3組、創業5年未満の起業家が対象の「スタートアップ部門」と創業5年以上の事業者向けの「イノベーション部門」が各3組の計18組がプレゼンテーションする。入場無料。
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