トップ座談会「コロナ禍の戦略」VOL.1
<2020年10月20日 上毛新聞より>
起業家発掘プロジェクト「群馬イノベーションアワード2020」の実行委員と特別協賛社、パートナー企業のトップらが「コロナ禍の戦略」をテーマに、デジタル化推進や循環型社会などについて座談会形式で意見を交わした。その様子を6回シリーズで紹介する。(敬称略)
デジタル改革に全力
田中 コロナ禍は非常に大きな気付きを与えてくれた。危機の時こそ、その会社の弱さが露呈する。今後、デジタルトランスフォーメーション(DX)が必要だと痛感し、本気で取り組んでいる。DXの本質は、顧客理解。現場の経験値から物事を判断することが多かったが、データを可視化することで消費行動を把握し、効率化したい。
デジタルは、組織の中にある縦割りに対して横串を通す効果もある。一つの部門の仕事は他部門とつながり、全体最適を目指す必要があるが、どうしても自分の部門が最高の結果を出したいと個別最適になりがちだ。他部門とデータを共有することでより効率的に業務が進み、柔軟な組織になる。コロナ禍は、次の成長につながる経験となった。
循環型社会の加速を
芝崎 主に環境ビジネスを展開している。環境的な側面で言うと、コロナは地球の救世主だったと捉えている。環境問題に関係して亡くなる人は年間900万人とされるが、コロナの拡大で中国やインドの大気汚染が改善された。
今後、持続可能な社会づくりが非常に重要視される。天然資源に限りがある中で、「作って、使って、捨てる」というこれまでのビジネスモデルを変える必要がある。パンデミックが起きれば、資源の取り合いになり、資源が減れば、持続可能は難しい。コロナ禍は、循環型社会を加速させるいい機会になった。今後、高崎を拠点に資源を循環してビジネスにつなげるサーキュラーエコノミー(循環型経済)に取り組みたい。
高度人材の雇用に力
丸野 外国人を中心に製造業へ人材を派遣している。コロナ禍によるメーカーの稼働停止で大打撃を受けたが、何とかやってきた。製造業派遣以外に、インド人の高度人材の雇用に力を入れている。本社の社員として1人を採用したが、コロナ禍で来日できず、現地でのテレワークに切り替えたところ、データ入力や名簿作成などの業務がすごくスムーズにいった。
遠隔で可能な業務もあることや、オフショアなども活用しながら事業規模を拡大できればコストが抑えられることが分かり、今後に生かせるいい機会になった。この先どうなるか分からないが、逆にプラスに捉えられる部分も多い。景気後退時への対応や、いろいろな戦略を考える時間が生まれた。
根幹事業から新事業
関口 主力の建設機械レンタルを柱にイベントの企画運営、環境機器の設備工事、アミューズメント事業の海外展開を行っている。コロナ禍でイベント部門は大打撃を受け、緊急事態宣言解除後も現状は変わらない。この苦境をどう乗り切るか、グループ企業で知恵を出し合っている。
顧客ニーズに応えようと、感染症対策商品を生み出した。フェースシールドの開発や、仮設の発熱外来・PCR検査所の設置業務、オンライン会議のサポートなどが新たな取り組みだ。根幹事業から派生した複数の事業やグループ企業で補完し合い、グループ全体として何とか維持している。コロナとうまく付き合いながら仕事をいかに創出するか、力を入れたい。
ネットで新たな展開
島津 高崎で会計事務所を営んでいる。地域型の業種で、群馬のお客さまを中心に訪問するスタイルを取っていたが、コロナ禍で遠方の社長とネットで相談したり、コミュニケーションを取る経験ができた。群馬に限定することなく、訪問しなくてもネットで税理士業務・申告業務ができ、新たな展開を感じている。
お客さまを訪問する際は感染リスクを抑えるため、事前にネットでデータチェックし、滞在時間を最小限にして対応した。コロナ以前より、財務システムから電子申告と同じように決算書を銀行に送ることに賛同する社長もいる。企業のストレスチェックのお手伝いもするが、対面よりネットの方がいい感じに運べる場合もある。だいぶ時代が変わってきた。
働き方は生活と密接
渡辺 確かに、時代の変化に合わせ、今までの商流ではなく独自の商流をつくることが必要だ。働き方の面からは、電気設備業の当社は以前からソフトウエア開発のサイボウズと改革を進めており、コロナ禍で安倍総理(当時)が出勤者を最低7割減らすよう求めた際、1週間で対応できた。今も出社義務はないが、それでも出社してくる社員は自宅よりも会社のほうが落ち着ける空間になってきているからだろう。
働き方として、ワークとライフが融合する考え方が大切だ。会社の前に森をつくったり、地域に開かれた社員食堂を建設していくのは一例。働き方が生活と密接していると社員に意識させると、考え方が柔軟になる。自然とITリテラシーも上がる。
本質の大事さを実感
佐藤 「大学病院の診療を身近に快適に」をコンセプトに眼科クリニックを開院し、間もなく5年目に入る。当初10人のスタッフは今、30人を超え、専門の加齢黄斑変性の治療数はクリニックとしては2年連続日本一で、大学病院に迫る勢いだ。
コロナ禍でもクリニックは休めない。大きな空気清浄機を設置したり、フェースシールドを装着して患者に安心感を与えた。スタッフ全員をベースアップし、サプライズとして1人10万円を手渡し、「あなたたちの仕事はとても大事」と感謝の気持ちを伝えた。一番考えるべきは本質であり、自分たちが何のために存在するのか本当に考えさせられた。本質、ビジョンが大事だと改めて思い知らされた。
ビジネスモデル変更
坂入 すしや日本料理を提供する飲食店を展開している。コロナ禍によるダメージは計り知れず、3、4月は法事や宴会が一瞬でゼロになった。この危機は本当に想像を絶するものだった。危機の時に何をするか。まずは資金繰りを優先し、会社の存続に奔走した。
ワクチンができなければ人の動きは戻らないが、ワクチンができてもコロナはなくならない。コロナ前のような大型宴会や大型ケータリングがあるか保証はない。消費が減少しているのではなく、消費が転換していると捉え、ビジネスモデルを変更。宴会の部屋は換気能力を高めてファミリー向けの個室に充実させ、新しいテークアウトや自社・通販サイトの活用、PB商品の開発、新業態進出と先行投資している。
指導教育にメリット 斎藤
斎藤 自動車販売業の当社も4、5月はお客さまが店頭から消えたが、幸い6月から徐々に戻ってきた。コロナ禍による一番の変化は、営業手法。従来の訪問営業ではなく、社内からリモートでお客さまとコミュニケーションを取ったところ、部下は上司のやりとりをじかに聞けて学べ、上司は部下に助言ができた。指導育成面で大いに役立ち、副産物となった。
営業手法は以前から、多様なツールを使って生産性を上げる必要があると考えていたが、先延ばしになっていた。コロナ禍で改革をやらざるを得なくなったというのが大きな出来事となった。まだまだ試行錯誤して検証中だが、次の時代を見据え、お客さまとより良い関係を築いていきたい。
花を置かない花屋へ
中村 外構造園業と観葉植物レンタル、冠婚葬祭の生花の3事業を展開している。コロナ禍で一番打撃を受けているのは、生花。主に結婚式がメインだったこともあり、かなりひどい状況だ。ピンチはチャンスとの考え方で何ができるか思いを巡らせ、「花を置かない花屋」にたどり着いた。
花を買いに来るお客さまは電話での予約が多い。予約販売であれば、店頭に余分な花を置かなくてもいいので、ロスをかなり減らせる。今後はお客さまが望むような花束などをイメージしやすいサイトを作り、閲覧できる仕組みを考えたい。花屋は花を置かなければならないという固定観念を捨て、新たな方向へ発想を転換し、花の売り方を模索したい。
■ファイナルステージ/12月5日(土) ヤマダグリーンドーム前橋 入場無料 事前申し込みが必要です 申し込みはこちらから