ジェシー・マーシュ監督就任後のリーズユナイテッドに見えた変化
2022年2月27日、リーズユナイテッドはマルセロ・ビエルサ監督の解任を公式発表した。
2018年に監督に就任すると2020年にはクラブを16年ぶりのプレミアリーグ へと導いたビエルサ。彼はそうした結果以上に、サッカーへの深い愛情とジェットコースターのようにスリリングでスペクタクルな体験をクラブに、そしてサポーターにもたらしてくれた。
そんなクラブの恩人との別れは苦しい。
それでもシーズンは続く。
リーズはビエルサ監督解任の翌日、新監督ジェシー・マーシュの就任を発表した。
そこで今回は、マーシュ監督の初陣となった第28節レスター戦を観て感じたリーズの変化と狙いについて考えてみたい。
尚、最近になってサッカーを攻守で四局面に分けて語ることの是非が話題に挙がっているが、説明の便宜上今回は攻撃、守備、攻⇄守に分けて言及していく。
フォーメーション
今節のリーズは4-4-2の配置で望んだ。
現代サッカーにおいてあまりフォーメーションの話をしても意味はないが、ビエルサ監督時代のリーズは4-3-3や3-3-3-1など中盤を逆三角形で構成することが多かったことは明記しておきたい。
今後相手の配置との兼ね合いもあると思うが、ライプツィヒやザルツブルク時代のマーシュ監督のチームを見てもベースのフォーメーションとなる可能性が高いだろう。
攻撃
まず、変化について述べる前にビエルサ、マーシュ両監督の共通点を確認しておこう。
攻撃時における第一優先はゴールに近い場所=相手DFラインの背後である。
レスター戦も特に前後半の立ち上がりは、背後へロングボールを送り、シュートで終わることが徹底されていた。
(一方でその精度は高く無かったのは気になったが)
また、前進するために縦パスから前向きな選手に落とすレイオフやフリックなどの動きを使って縦に早く攻めるなど基本的な攻撃の考え方には多くの共通点があると感じた。
次に、攻撃局面の変化として以下4点を挙げたい。
①最終ラインは動かさず、受け手でズレを作る
②横の動き<縦の動き
③中央でのビルドアップからの崩し
④攻撃時のリスク管理
①について、ビエルサ監督時代はビルドアップ時に相手のファーストラインの人数に対して+1の状態を作り出し、CBがフリーで受け手を探す状態を作り出していた。一方で、レスター戦では相手の4-4-2の守備に対してボランチやSBが落ちて数的優位を作り出す動きは少なかった。
その中でもリーズはCBからのパス出しで前進することが出来ていた。
これは、レスターの守備強度がそこまで高く無かった事も影響しているが、次に述べる縦の動きで受け手がズレを生み出していたからと考える。
②リーズの崩しやビルドアップにおいて中盤のIHの選手のポジションは明確に定められておらず、時には逆サイドのIHの選手が流れてきたりなどピッチを横断した移動が特徴的だった。一方で、レスター戦ではそうしたダイナミックな横への移動は減り、上下の移動でズレを生み出し前進を図っていた。
具体的なシーンとして16分のビルドアップを見てみよう。
CBのエイリングがプレッシャーを受けてる状況からハフィーニャが落ちてきてボールを逃す、ジェームズも同じ様な形でボールを受けて、最終的にジェームズが落ちてきて空いたスペースをハフィーニャが使って抜け出した。
縦のレーンを移動してスペースを作り出し前進する、こういった形は前述した様にこの試合何度も見られた。
③リーズの特徴はサイドを使った直線的な攻撃でビルドアップでもまず幅をとってサイドから侵入していくのがベースだったが、この試合ではピッチを縦に3分割した時の中央のスペースを使って完結するビルドアップや崩しを見ることができた。
④この日最も変化を感じたのが攻撃時のリスク管理についてだ。
まず単純に、攻撃参加する人数が以前より減っている様に感じた。
具体的には、SBと2ボランチは一方が攻撃参加しているときには、一枚は必ず残るといった原則があったのではないか。
例えば、45分のCKに繋がったサイドの崩しにおいてクロスに飛び込んでいたのは、ハフィーニャとロドリゴの2枚であった。もし以前のリーズであればボランチ+逆SBを合わせた4枚がクロスに入ってきていた様に思う。
守→攻
次に守備から攻撃へのポジティブトランジションについて見ていこう。
ビエルサ監督のリーズの好調時は守→攻の切り替えからのカウンターが重要な得点源となっていた。ボールを奪った瞬間、スプリントで追い越していく選手たちのスピードと数は圧巻で、それだけを見ても彼のチームの強さを感じることができた。
こうした切り替えから素早いカウンターはレスター戦でも見られたが、そこにも大きな変化があった。それは、追い越していく選手の数の変化である。
前述した攻撃参加の人数と同様にカウンター時もリスク管理を考えた形になっていた。
65分、オルブライトンのクロスをGKメリエがキャッチしてからのロングカウンターだが、最終的にハリソンのクロスに飛び込んだのは前線の3枚だった。通常のチームのカウンターであれば、全く気にならないが以前の様な人が湧き出てくる様なリーズのカウンターは見られなくなった。
しかし、ここで間違えてはいけないのは人数をかけないのが悪い、人数をかけるのが良いというわけでは無いと言うことだ。
実際、好調時のリーズは攻撃、守→攻の二局面で人数を多くかけることで、多くの決定機と相手を押し込むサッカーを実現していた。
しかし、今季は人数を投入することで逆にカウンターやカウンターのカウンターを受けて失点を重ねていった。
そうした意味で、リスク管理を徹底させたマーシュ監督の意図はよく分かるし、実際にレスター戦では被シュート数を激減させることに成功した。
守備
ビエルサ監督のチーム最大の特徴は、守備時におけるマンツーマンの導入である。前線での数的不利を許容しながらパスの受け手をマンツーマンで塞ぐスタイルは正に唯一無二で、攻撃的なリーズのサッカーを支えた。
しかし、今シーズンはポジションチェンジによる錯乱、CBによる持ち上がりなど多くのマンツーマンに対する処方箋が出回る中で、トランジション時における不安定さも重なり、失点数はリーグワーストを記録してしまっている。
マーシュ監督はこの崩壊した守備組織にどんな変化をもたらしたのか。
まずは、ゾーンディフェンスの導入である。
この日のリーズは前述する様に4-4-2のフォーメーションを採用した。
人を基準にしたマンツーマンからボールを基準にしたゾーンへの変化で、リーズの守備は生まれ変わった。
まずは、守備の効率化だ。具体例として前線でのプレッシングを見てみよう。2CBと1アンカーでビルドアップするレスターに対して、以前のリーズはトップ下のロドリゴがアンカーを監視し、ジェームズが2CBに対して横からプレッシャーをかけていた。この時に逆のCBに変えられてしまった時ジェームズは再度プレスに行かなくてはいけなかった。しかし、ゾーンディフェンスにすることで、逆に変えられた時はロドリゴがアンカーをジェームズに受け渡してプレッシャーに行くことで、走る距離を節約出来る。
わかりやすく言えば、今まで1人で2人を監視していたのを、2人で3人を監視することで、効率化を図るということだ。
変化はこれだけでは無い。レスター戦では、以前と比べ相手の選手をリーズの選手が2人以上で囲い込んでボールを奪う機会が増えた。これは、ゾーンディフェンスになり、自分のマークしている選手を手放してボールにプレッシャーに行きやすくなったことが理由として考えられる。勿論、ビエルサ監督時代も囲い込んで奪うシーンが全く無かった訳では無いが、自分の明確なマークがあるマンツーマンディフェンスではマークを手放す判断が一瞬だが遅れることがあるだろう。
一方で、攻撃局面と同じように共通点・弊害も見られた。
先に共通点だが、前線からプレスをかける際にゾーンディフェンスであっても最終的にマンツーマンへ移行しなければ相手からボールを刈り取ることは出来ない。相手のCBにプレッシャーをかけSBにボールを出させた時の守備の強度やボールへの執着はビエルサ監督時代に培ってきたものが直結している部分だろう。実際に、DAZNの解説でベンさんがマーシュ監督の「リーズの選手たちが私の守備メソッドを理解するスピードは想像以上に早かった」というコメントを紹介していたのも頷ける。
次にゾーンディフェンスによる弊害だが、ボールを基準にする為人へのタイトさは当然ながら落ちることになる。例えば、10分のシーンでは一列落ちてきてボールを受けたオルブライトンに対して、プレッシャーがかからずフリーな状態でバーディーへスルーパスを供給されてしまった。もし、マンツーマンであればSBのフィルポが迷わずついていっていただろう。
また、74分では左サイドでマークの受け渡しが上手く出来ず深さをとったティーレマンスに鋭い縦パスを通させてしまった。
一方で、これも攻撃局面と同じだが、マンツーマンからゾーンに変えたから良い、悪いと言う話では無い。それぞれの守り方に利点、弱点がある中でどう運用していくかが重要である。
攻→守
ネガティブトランジションでは、ビエルサ監督時代と大きな変化は感じられなかった。両監督ともボールロストから即時奪回を目指し、カウンタープレスを浴びせる。奪いきれなければ、遅らせる守備へと移行する。
後半開始から失点までビエルサが遺したもの
後半からレスターは4-4-2から4-5-1へ守備ブロックを変化させ、リーズにボールを持たせることを選んだ。思った以上に前線からのプレスがハマらず苦戦した中で、カウンター対応に問題を抱えるリーズにトランジションで勝負を仕掛ける狙いだったように思う。
ボール保持を高めたリーズは、レスターの思惑を上回る攻撃を見せる。
56分SBの背後を取りバイタルエリアからシュート
60分サイドチェンジからグラウンダークロス
63分サイド→中央→サイドからマイナスクロスに合わせる
特に60分のシーンは決まってもおかしくない決定機だった。
こうした一連の攻撃は正にビエルサ監督時代に目指していた形であってそこに彼が遺した攻撃的サッカーの一端を見ることができた。
一方で、決定機の直後に失点する癖も改善されず、65分注意していたであろうカウンターのカウンターからバーンズに決められてしまう。
このシーンを振り返ってみると、前述したカウンター時のリスク管理によって相手の攻撃を遅らせることは出来ていた。しかし、前線のカウンターに参加した選手(ここではハフィーニャ)が戻ってこれずに一対一を制されてしまった。
ここで、2つの点に着目したい。
まず、ハフィーニャの戻りはなぜ遅れたのか。
単純に疲れもあっただろうが、マンツーマン的思考であれば状況的に自分が戻らなくても守れると思ったと私は感じた。
これは、ビエルサ監督時代の名残なのだろうか。
次に、バーンズに対するダラスの対応について。
こういったワンツーのシーンでは自分のマークを外してはいけない。
これは、マンツーマンディフェンスの鉄則だ。しかし、ダラスはマークを外してしまった。これは、マーシュ監督の与えた変化の弊害なのだろうか。
以上の2点は私の邪推かも知れないが、ともかくチームはまだ変化の途上である。
おわりに
レスター戦を観て、個人的にはポジティブな印象を受けた。
結果を除いては。
それは、このゴール期待値を見ても明らかだろう。
マーシュ監督に期待されているのはまず残留、そのために必要なことは失点を減らして勝ち点を1でも上積みすること、そうした彼の狙いがよく見えた初戦になったのでは無いだろうか。
恩人との別れを忘れさせる程の今後の巻き返しに期待したい。