マルセロ・ビエルサ監督のリーズユナイテッド攻撃分析
はじめに
プレミアリーグ創設前最後の優勝チームであるリーズユナイテッド。
03−04シーズンに2部降格、その後破産による3部降格まで経験した古豪が、今シーズン17年ぶりのプレミア復帰を目指し、第37節終了時点でチャンピオンシップ首位に立っている。
https://twitter.com/footyphotos88/status/1267550037170704385?s=21
監督は鬼才マルセロ・ビエルサ、就任2日後に解任、敵の練習場にスパイを送り警察に通報されるという変人ながら、ペップ・グアルディオラからは世界最高の監督と尊敬を受ける。今回はそんな彼が率いるリーズの攻撃戦術について見ていくことにする。
試合映像
現在リーズユナイテッドの公式Youtubeチャンネルでフルマッチやハイライトが配信されている。この戦術分析と共に是非見て頂きたい。
https://www.youtube.com/user/LeedsUnitedOfficial
基本布陣
相手に合わせて複数のフォーメーションを使い分けるビエルサ監督、画像では今季最も多く使われている4ー3ー3を採用した。
守備時はマンツーマン気味で対応するので、基本的には攻撃時の噛み合わせを意識してフォーメーションを選択する。
また攻守において頻繁にポジションが入れ替わるため、GK,CB,FW以外は複数のポジションをこなせる選手が重用されていると感じた。
特徴
ポゼッション率,シュート本数でトップ、パス成功率もリーグ2位を記録しており、リーグ屈指の攻撃力を持つ。
https://www.whoscored.com/Teams/19/Statistics/England-Leeds
中央を経由せず、サイドをバーティカルに突破していく事が特徴である。
サイド攻撃の終着地としてニアゾーンにボールを運び、そこから複数の得点パターンによってゴールを目指す。
特に右サイドからの攻撃は全体の約半分を占めており、ストロングとなっている。
ビルドアップ
最終ラインでは、相手1トップに対して2CB,2トップに対して3CBとスタートの配置、列移動(トップ下、IH)に対してはサリーダなど可変によって数的優位を作る。
ただし目的はあくまでも縦方向にボールを運ぶ事、サイドチェンジを繰り返して相手を広げようという意識は低く、噛み合わせによってボール保持者にスペースが生まれると縦パスを狙う。
縦パスの起点となるのは左右のCB、特にベン・ホワイト,3バック時のアイリングなど右サイドを中心にボールを進める。
ここからは、実際の前進方法をサポートの種類とプレーの優先順位を通して見ていこう。
CBがルックアップした時のサポートは以下の3種類。
①相手SBの裏のスペース(FW or WG)
深さを作りDFラインを押し下げ、ライン間を広げる。
②相手DF−MFライン間(FW or WG+IH)
必ず二枚以上が立つ
③ボール保持者の横(SB)
①,②に出せない時の逃げ道
※出し手の優先順位は①>②>③、奥から選ぶ事を徹底
前進方法❶相手SB裏へのロングボール
最優先で狙う場所
バンフォードなどフィジカルが強いタイプであれば収めやすいよう胸のあたりに、コスタなどスピードが武器の選手にはスペースに流し込むイメージと、抜け出す選手の特徴によってロングボールの質に違いが見られる。
前進方法❷相手DF−MFライン間への縦パス→レイオフ
縦パスの受け手の選手はゴールに背を向けている状態、ターンして前を向く事が理想だがプレッシャーを受けており難しい。そこでもう一枚のサポートにワンタッチで落とす事で、確実に前向きな選手を作る。
前進方法❸相手MF−FWライン間への縦パス→フリック
出し手のCBに限定が掛かっていてDF−MF間では受けられないと判断した場合、サポート②が一列落ちてパスコースを作り縦パスを受ける。
この時もう一枚のサポート②は落ちずに、所定の位置に留まり縦パスを受けた選手からのフリックで前進する。
前進方法❹SBを使った斜め前進
サポート①,②へのパスコースがない時の選択肢は、逃げ道として確保しているSBへの横パス。
ボール保持者がSBになっても3種類のサポートを作り、奥から選ぶ原則に変わりは無いが、CBとは異なった前進方法が見られた。
SBが落ちてきたWGに縦パスを入れ斜め前に移動、リターンを受ける。
相手FW,SH,VLの三角形の中心でボールを受けられ、マークにつくSHに対してボールとマークを同一視野に収めづらくできる一連の動きは非常に有効で、その後のサイドチェンジによる数的同数の獲得までがパターン化されており、非常に再現性が高いプレーと感じた。
また、SBがWGにパスを出すと見せかけて相手SHに外側を意識させ、内側にドリブルで運ぶシーンも見られた。
ゾーン3の崩し方
ビルドアップによってボールを前進させ相手を押し込むと、ゾーン3ではニアゾーンへの侵入から複数の得点パターンでゴールを目指す。
侵入法❶ハーフスペース→ニアゾーン
ハーフスペースからIH or WGが抜け出し、WG or SBからニアゾーンでボールを受ける。幅を取る事で相手SBを引きつけCB,SB間を広げ、抜け出すスペースを生み出す。
侵入法❷SB,WGの関係性
SBから相手CB,SB間を通しWGへスルーパス、WGが内側に運びオーバーラップしたSBを使うなどSB,WG2人の関係でサイド攻略を目指す。
サイドチェンジ時やカウンター時など比較的スペースがある時に多く見られる。
侵入法❸逆IHの抜け出し
❶,❷の動き出しと合わせて、逆サイドのIHが絞ってきて抜け出しボールを受ける。相手守備陣としては、視野外から敵が現れるため対応に迷いが生まれ結果としてスペースが生まれる。
侵入法❹SBの3人目の動き
ボールの流れとしてはSB→IH→WG→SB、SBはパスを出すと同時に動き出しを開始、3列目から抜け出してボールを受ける。こちらも❸と同様にマークの受け渡しが難しく、相手の対応が後手になりやすい。
❶〜❹の動きの中で、パスを出した選手は縦に抜け出すことが徹底されていると感じた。
リーズの攻撃は基本的に同サイドでのバーティカルな突破を目指すので、相手も密集しやすくスペースは限られている。そこで、❸,❹のようなレーンや列の離れた場所からの攻撃参加、縦への動き出しの徹底によって相手の認知に負荷を掛け、その限られたスペースを活かし深い位置へ侵入していく。
得点パターン❶縦突破→クロス
縦突破からのクロスで狙う場所は2箇所。
1つ目はGKとDFラインの間、グラウンダーで速いボールを送り、中の選手がワンタッチで合わせる。
2つ目はマイナス方向、ゴールに向く相手の重心の逆にボールを送る事で、対応を難しくさせる。
得点パターン❷カットイン→シュートorクロス
相手が縦突破を警戒してきた場合はドリブルで内側にカットイン→シュート,クロスでゴールを目指す。この時のクロスはファーを狙い、中の選手は相手の視野外から飛び込んでくるイメージ。
得点パターン❸バイタル→クロスorシュート
一度ニアゾーンの深い位置を取り相手のDFラインを押し下げる。これによって空いたバイタルエリアにボールを運び、シュート,クロスで得点を狙う。
カウンター
カウンターでの得点はリーグトップの6点で、奪ってからの速攻もリーズの重要な得点源となっている。
狙いとしては、ボールホルダーを追い越して前方にフリーマンを作り、なるべく最短距離、時間でゴールに向かう事、シュートもしくはゴール前へのクロスで攻撃を完結させる事が挙げられる。
いたってシンプルで正攻法な内容だが、攻守が切り替わった瞬間のポジション取りの速さ、追い越していく選手達のスプリント力は圧巻で、一気に相手陣内で数的同数、数的優位を作り出す。
これは普段のトレーニングやミーティングからチームの強みである縦への素早い攻撃を最も体現しやすいのはカウンター時であり、そこに全力を尽くす意味がチーム内で共有されているからといえる。
おわりに
選手の認知的負荷を削ぎ落とすことで身体的強度を最大限に発揮させ、逆に相手選手に対しては認知的負荷を与え続けるビエルサ監督の攻撃的サッカーは魅力的で、イングランドのサッカーファンとも親和性が高いと感じた。
このまま昇格を決めた場合、来シーズンはプレミアリーグで戦うことになるが、シティやリバプールといった強豪相手にどんなフットボールを展開してくれるのか(ビエルサがチームに残ってくれるのかは微妙なところだが)非常に楽しみである。
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