息子と雨音と紅茶のスコーン。
朝から雨が降っている。
早めに会社へ向かう夫を見送り、私も家に持ち帰った仕事を片付ける。いつもよりも遅い時間に起きてきた息子が、目をこすりながらリビングに入ってくる。
いつもよりも時間をかけて朝食のピザトーストを食べ、昨日から楽しみにしていた「となりのトトロ」のDVDを観たいとねだられた。
まっくろくろすけや、ネコバス、トトロが出てくるたびに目をキラキラさせてきゃーっと喜ぶ息子。
空想の生き物に対する憧れはやっぱり今の子どもも昔の子どもも同じなんだなぁ。
見終えた後は、お昼ご飯の肉うどんをペロリと平らげ、棚から絵本を取り出してめくったり、粘土をめんぼうで伸ばしては型抜きをしていたり…。
たまにぼそぼそと聞こえる独り言によると、どうやら今の息子はぬいぐるみのピカチュウやピクミンのフィギュアを顧客にもつ「パティシエ」らしい。なかなかの大御所御用達。
土日は基本家族全員で外出しているから、机に向かって集中している姿をゆっくり見るのはいつぶりだろう。
唇を少し尖らせて、私が多少の音を立てても意にも介さず、ずーっと机の上に自分の世界を広げている。
横顔をじっと見る。
ハート型の鼻の穴、長いまつ毛、白桃のような頬にきらきら輝く産毛。たまにふーっ…と深いため息をつく。
うーん輝かんばかりの生命。毛穴が全く見えないのが羨ましい。
そうこうしているうちに、キッチンの方で軽やかな音が鳴った。
息子が顔をバッとあげてトースターを見る。
3時のおやつは、大好きな焼き菓子屋さんで先日買いだめて冷凍しておいた紅茶のスコーンだ。
しっとりふわふわというよりも、大人の拳くらいに大きくてゴツゴツした、アールグレイの茶葉の香りと粉の風味がしっかりしている素朴な味わいのスコーンだ。
さっきまでの集中力はどこへやら。
大慌てで手を洗い、濡れた手もそのままに自分のおやつ皿を持って、そわそわしながら リベイクされたスコーンが入ったトースターを覗き込んでいる。
半分に割ると、ホワッと温かくて甘いバターの香気があがる。
片方を息子のお皿に、もう片方を自分用の小皿にのせる。
落ちないように、さも大事そうにテーブルまで皿を持って行き、「いただきまーしゅ」と、手を合わせたかと思うとすぐにスコーンを頬張り、足をジタジタさせている。
口いっぱいにスコーンを入れたまま、「おいしいねぇ!」とこちらに笑顔を向けてくる。
お皿に落ちた小さなかけらも逃さず口に運んだあと、「ごちそーさまでした…」と少し名残惜しそうにシンクに皿を持っていく。
どこにも行けない雨の日。
息子にとって、今日が豊かなおうち時間だったと思えていたらいいな。
そんなことを考えていると、息子が牛乳をツッツッと飲みながら窓に近づき、雨が降りしきる外を見て、「おへやの中から見るあめ、なんかいいよねー」とこちらを笑顔で振り返る。
コップの中の牛乳を、窓の下に盛大にこぼしながら。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?