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翠と青紫の秋。
「明日、ぶどう狩り行かんかて。行く?」
昨夜の夫の一言で、今日の予定は突然に決まった。同僚の方からのお誘いがあったらしい。
果物好きの息子は「ぶどう」と聞いて目を輝かせて「行く!行きたい!」とぴょんぴょん飛び跳ねる。
そういえば、息子といつか果物狩りに行きたい行きたいと思いつつ、まだ一度も行ったことがない。よし行こう。すぐ行こう。今日行こう。
同僚の方の家に着いた瞬間、息子は転がるように車を降り、あちらの子どもと熱烈な抱擁を交わしキャッキャとはしゃぎ倒す。
えらい仲良いけど君たちまだ会ったの3回目だよね。
奥さんに聞くと、今日行く果樹園はぶどう狩りをして、そのままそこでコンロを借りてバーベキューが出来るらしい。準備してるよ、と見せられたのは大量の缶ビールとノンアル飲料…。奥さんと熱い握手を交わす。
ま。私たちはハンドルキーパーなんですけどね。けっ。
それぞれの車で買い出しに出かけ、果樹園に着いたのは9:30。
だーれもおらんやないか。
入園料もバーベキュー用具も無料。かかるお金は持ち込みの食材費と収穫したぶどうの重さ分だけ。しかも、普段スーパーで見る金額よりもだいぶ格安。採算取れてるの??大丈夫?
果樹園の方に、品種の特徴や料金体系の話を聞いている母達を尻目に、父に抱かれた息子達はパチンパチンとぶどうを切っていく。
うんうんと微笑ましく見た後に、思わず二度見。
待て待て待て待て待て。
そこは一番高いシャインマスカットのぶどう棚だ!!!
慌てて止める母二人。
ホクホク顔の子どもたちの手とかごの中には、たったさっきまで枝になっていたはずの立派な立派なシャインマスカット。
あちゃー顔の父二人は鳴りを潜める。
あっという間に選ぶ間もなく3房お買い上げ。全部同じ品種。しかもちゃっかり一番高い料金帯。
(こういうのは!
それぞれの特徴を聞いて!
一番美味しそうだなー好みに合いそうだなーっていうやつを選んで!
料金とにらめっこして!
脳内作戦会議しなきゃでしょ!
…とは、言わないけれども!!キラキラ自慢げな3歳児たちの手前さぁ!!)
という言葉を、ググッと食道の方に押し込んで「わぁー立派なぶどうだねー」と、声をかける。
…。よし。移動しよう。
色々な説明を聞いて、2種類の品種のぶどうをひと房ずつカットしお会計へ。あ、でもこの重さでこれなら全然安い。
父二人は、バーベキューの火起こしの準備を始める。息子二人も「あ。よいしょ。あ。よいしょ。」と言いながら、てちてち椅子を運んでくれている。
その間に母二人は、クーラーボックスを車から下ろし、採れたてのぶどうをキンキンに冷えた地下水で洗う。
傷がついてるものをちゃっかり味見。
確か品種名は瀬戸ジャイアンツと言ったか。
…。美味しい!!!
皮が薄くて、食感がサクッとしてて、甘すぎなくてすごく美味しい!種もないから子どもに食べさせるのも安心だ。
ぶどうを皿に盛って、テーブルに行くと、それまでねこじゃらしで遊んでいた息子たちがワーっとこちらに向かってくる。
たくさん皿に入れていたはずなのに、どんどん息子たちの小さなお腹に収まっていく。
なんなの。四次元ポケットなの?
そうこうしているうちに、バーベキューの準備ができた。夫たちはビール片手に肉を焼き、私たちはそれをどんどん子どもの皿に取り分けていく。
子ども達の食べるペースが落ちてきたところで、大人も焼けた端から己の皿に取り分けて食べていく。
今日は幸いにも暑くない。
早々にご飯を食べ終えた息子達は、果樹園の方の近くに行って包装作業をじっと眺めたり、ちょろちょろと水が流れる水路にアメンボを見つけてキャッキャと歓声を上げている。
太陽が真上に来た頃、少し早いが撤収の準備を始める。息子達は別れを名残惜しみ、もじもじしている。
チャイルドシートに座らせる直前、「待って!バイバイしたい!」と立ち上がり、窓に近づいて大きき向かいの車に手を振る。
隣の車の奥で小さな手のシルエットが左右に振れた。
車を発進させると、すぐにシートに身を預け寝息を立てだす息子と夫。バックミラーで、それを見ながらあくびを噛み殺す。
取り過ぎてしまったシャインマスカットは夫と私の実家にそれぞれひと房ずつ渡して帰路についた。
家につき、駐車場を歩くと涼しげな秋の風の匂いがした。
あーーーやっぱり秋って好きだなぁ。