第3話:ハイヒイル
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『モガの葬列』毎週月曜日に更新中
連載3話目についての感想と補足。
大正時代のお酒、LGBTQの歴史と価値観、珍しい苗字に関するお話です。
メンタルお化け、朝日
1週引っ張って登場した小夜の兄・朝日。彼は現在でいうところのトランスジェンダーではなく、クイア・クエスチョニング寄りの人格として描きました。ただ大正時代のLGBTQ事情に触れたかった訳ではなく、自由な魂を持つ人生のメタファーとしてという感じです。
ですから今回たまたま女性的な容姿をしていましたが、数年後全く別人になっていたとしても不思議ではないのです。自由人…!
ただ男色文化に比較的寛容だった江戸時代以前に比べ、明治以降の近代日本は性的指向・性自認について閉鎖的になっていったとの記録があり、西洋化に伴うキリスト教的思想の流入が一因であったとも言われています。
大正はまさに文化の過渡期に当たりますので、一見飄々としている朝日ですが、人知れぬ苦労を味わったということは想像に難くありません。
ちなみに知らない間に兄が姉(のような外見)になってしまった小夜ですが、案外嬉しく思っていたりします。物心ついた頃には朝日はいなかったですし、お兄さんポジションにはすでに水銀先生がおり事足りてますからね。おおらかな妹です。笑
電気ブランを飲んでみた
美女のような朝日が水のごとく飲んでいたお酒、電気ブラン。その歴史は古く明治15年、実業家の神谷傳兵衛により創られました。電気がまだ珍しかった当時は目新しいものやハイカラなものを『電気○○』と呼んでいたようで、ビビッとくるアルコールのイメージもあいまって人気を博したそうです。
電気ブランはブランデーをベースにワイン・キュラソー・ジン・ベルモットなどの入ったカクテルで、アルコール度数は40度くらい。1杯ですでにちゃんぽん状態ですから、悪酔いにはくれぐれもご注意を。お洒落で高級というよりは、下町の粋なお酒だったようです。
私は様々な作品に登場する浅草の『神谷バー』で電氣ブラン・オールド(40度)を頂きましたが、現在はもう少しマイルドなデンキブラン(30度)もあるようです。
お味は…何でしょうか、ちょっとホコリっぽい…?カビのような、薬酒のような、不思議な風味がしました。好みは分かれると思いますが憧れ叶ってうれしかったです。またいつか飲みたい。
珍しい名前の由来について
本作は時代小説ではありますが、あまり重くなりすぎず彩りを持った世界観にしたいとの思いから、なかなか日常ではお目にかかれないような珍しい姓名を数多く登場させています。
恭、都司、水銀…そしてまだ公開していませんが、朝日と小夜の苗字は烏丸といいます。実はこの中でフィクションなのは水銀先生だけ。他は実在する苗字や名前を使用しています。
ちなみに先生の名前は、20年くらい前に俳優の大倉孝二さんが『赤鬼』という舞台で演じられた人物から拝借しました。今見ても一際クールなお名前だなと思っています。
瓦斯灯の灯る街
時代設定を明治寄りにするか昭和寄りにするか…と考えた時、やはり電気の普及をどう描くかはネックでした。作品の味わいと称して年代を明示していなかったからです。
ただ「朝日の住む寂れた町にはどうしてもガスの方が似合う。古ぼけたガス灯を後生大事に壊れるまで意固地になって使うような貧しくてちょっと荒んだ田舎町がいい!」という拘りを捨てきれず瓦斯灯を採用しました。
そんな町の小さなバーで電気ブランをあおる朝日…小夜たちは東京住まいですから、もちろん電気の街灯です。きっと明るさも違うでしょうね。
『モガ』という価値観の萌芽
兄との邂逅により小夜の価値観は大きく変わります。その時代の女として、令嬢として型に嵌められたような人生に何の不満もなく生きてきたけれど、小路をひとつまがれば全く違う世界がひらけているのでは?と思い始めます。
モダンガールといえば洋装・ばっちりメイク・短髪という最先端の外見で、ともすれば不品行だとみなされた新しい女性たちの総称です。『毛断嬢』という漢字があてられたこともあります。
また新しいのは外見だけでなく、女性が新しく開拓した職業に就いたりフェミニズム文化に身を置いたりと非常に活動的。
令嬢として育てられた小夜もその存在を知ってこそいましたが、憧れを抱くには至らず。ただ兄に会えるとあって精いっぱい『都会の女』風のおめかしをしようとモガ風の洋装で店を訪れました。結果はスカートがスースーして足そわそわでしたが…
さて今回はちょっぴり社会派な内容もありましたが、本編では深掘りしないつもりです。色々あった大正時代の美しいところだけを切り取る歪さを拙作の味だと思い、お付き合い頂ければと思います。
それでは4話目も宜しくお願いいたします。
ご精読ありがとうございました!
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