2018年ベストアルバム20選
50枚まで選んだリストはこちら
前年同様上位20枚を紹介します。
20. Insólito UniVerso - La Candela del Río
パリ拠点のサイケポップバンド、デビューアルバム。Stereolabのモンド感を弱めてMPB色を濃くしたような幻惑感、の一方でベネズエラのフォルクローレをはじめ南米トラディショナルを強く意識した哀歌の側面もある。上半期ベストで紹介したBeautify Junkyardsのように、エッセンスとして様々なジャンルが挙げられるものの一言では言い当てられないような、パラレルワールドの音楽という感じ。インスピレーション元としてブラジルの詩人Oswald de Andradeによる芸術マニフェスト『食人宣言』を挙げているが、食人を「他者を自らのうちに取り込むこと」あるいは「他性に身をさらすこと」(参考URL: https://www.repre.org/repre/vol32/note/2/ )と捉えると、単なる折衷を超えたハイブリッド感のヒントになる気がする。
19. 長谷川白紙 - 草木萌動
Maltine RecordsからのEPも記憶に新しい若手SSW、10代の終わりに初の全国流通盤。JTNC~Planet Mu~現代音楽まで横断しそうな込み入った要素を恐ろしくポップに運んでくる音楽性は多くの人に衝撃を与えた。どこか超然とした佇まいの歌、その一方でこのウルトラ超絶なアレンジは、人が普段平然と生活している皮下で夥しい数の細胞が蠢いているような表裏一体を感じる。李白の詩を引用した実験的トラック「妾薄命」、続くYMO「Cue」のきらめくようなカバーも素敵。"ミックス"がIllicit Tsuboi(マスタリングはStuart Hawkes)という人選にも唸らざるを得ない。
18. Bubu - El Eco del Sol
アルゼンチンのベテランプログレバンド、南米ヘヴィプログの名盤として名高い1stより40年の時を経て発表された2nd。リーダー以外のメンバー総入れ替えはあるものの、往時の勢いをそのまま現代に持ってきたような傑作。女声コーラスとブラス、ヴァイオリンにフルートを従え、暗躍する悪の軍団のごとく疾走したかと思えば一転してひと時の憩いへ、あるいはダンサブルなグルーヴ、いや南米らしい熱量のこもった歌唱パート、そして叙情的な一幕とこの辺の折衷主義も健在。若干の余裕もむしろ頼もしい。まさかこんなの聴けるとは思わなかった、理想的な復帰作。
17. 22 - You are Creating: Limb2
ノルウェーのマスロック~モダンプログ、去年のベストに挙げたLimb1の続編。Queen~MUSEに連なるスケール感はそのままに、フレーズ単位のフックよりアンサンブルの密度が濃くなった印象。甘美なボーカルに酔いながらリズム面では4/4を感じつつ、細かいアクセント移行に打たれ続けるのがたまらなく心地良い。何より聴き足りなさのあった前作に厚みと奥行きを持たせる内容に大満足。勿論単体で聴いても美味しい。個人的にはSystem of a Down『Mezmerize』に対する『Hypnotize』のような作品。ただ前作のような尻切れ感ではないものの、クライマックスに5連~6連符(シャッフル)を往来する鬼アンサンブル曲「V」をぶっこんできて呆気にとられたままのエンディングとなるのはご愛嬌か。
16. Wrong - Feel Great
元Kylesaのドラマー、現在はTorcheのベーシストとしても活動するEric Hernandezを擁するマイアミ発のノイズロックバンド、Relapseよりの2nd。まるでHelmetの2ndの先をスラッジコアマナーで発展させたような剛の音。4拍子のビート感はまさにHelmet彷彿の屈強な出で立ちだが、ダイナミックな変拍子リフにおいても濁流感に溺れず、引き締まったリズムで聴かせてくるのには惚れ惚れする。bandcampのURLが"wrongriff"なのも納得。突如湧き上がる耳鳴りか胸焼けのような騒音ギターソロも追い風に、ひたすら突き進め。そんな推進力をくれるアルバム(良いこと言った風)。
15. 架神 - Kagami
Root Strataから副主宰Maxwell August CroyとベイエリアのサウンドアーティストJared Blumによるユニットの初作品。これが現代ニューエイジ解釈の結晶というべき内容で、かつては埃臭さと饐えた臭気に蓋をされていた音(言い過ぎ?)が、今まさに食べごろだとわかる。翻ってこうしたシンセサウンドが見せてくれる、ジャケのごとく透き通った異世界のような景色に息をのむことだろう。平坦なAmigaゲーの世界に閉じ込められそうなFM音源の感覚も完全にツボを得ている。ユニット名に漢字表記が当てられているが、曲名もいちいちウソ日本語っぽいのも近年の邦ニューエイジ再評価熱(よく知らない)、またはそのリスペクトか。
14. Homunculus Res - Della stessa sostanza dei sogni
イタリアはシチリア島パレルモ出身の5人組ジャズロックバンド3rd。HatfieldsやPiccioを引き合いに出されることも多いが、単なるカンタベリーリスペクトに括られてしまうのも勿体無い!インタープレイより歌をベースにしたコンポジション、管楽器をフィーチャーしたアンサンブルは口当たりよく、勿論変拍子やリズムチェンジも豊富で、展開の密度が心地良い。その際流れを分断する折衷はないのでひと息に聴き切れてしまう。瀟洒で上質な午後のおやつのようなアルバム。Yugen、La 1919、Stormy Six、The Muffinsのメンバーなどゲストも多数。
13. VAK - Budo
フランスのZeuhl系新鋭、EP2作をコンパイルした15年作も記憶に新しいがフルアルバムとしてはこれが初か。おなじみSoleil Zeuhlより。地を這うベースに暗雲垂れ込めるエレピ、宇宙より飛来せし未確認物体のようなシンセ、闇をなぞるギター、そして女性スキャットとZeuhlの旨味が詰まったサウンド。長尺3曲(うち2曲が組曲)という構成だが、パートごとの緩急が程よく、各ソロも場面にそって展開していくので、さほど長さも感じない。よく暗黒と形容される音だが、もともとZeuhlというコバイア語はCelestialと訳される。これを体現するような、テンションの最高潮にあって天界から光の挿す感覚、あるいは静かなパートでの神秘感も兼ね備えていて、Scherzooら他の新鋭より正統なZeuhlの継承者という印象を確かにした。
12. 田島ハルコ - 聖聖聖聖
ニューウェーブギャル、田島ハルコの3rdアルバム。ひじり ひじり ひじり ひじり(通称: セイントフォー)と読む。2nd以降のオリエンタル+エレクトロニック路線を推し進め、トラップやダンスホールを消化吸収したEP2枚のリードトラックを基に発展した構成。平沢進+ポストEDMな「ピンク聖」、ミラクルニキに影響されたというダンスホール雲上エレポップ「奇跡コントローラー」、タイトル通りのブチ上げチューン「バイブスの大洪水」、切なチルいヴァースから子守歌的なコーラスが沁みる「おやすみハイヤーセルフ」など楽曲ごとの表情が豊かで、どの曲も耳に残るフレーズと反芻してると突然ブッ刺されるようなパンチラインに満ちてる。またクラウドファンディング企画を基にアルバム曲のMVが多数制作されているのでそちらも必見。全体的に時間の流れがとても心地よい。CD版のみラストに収録の、にゃにゃんがプーをフィーチャーしたエンディングがまた良い閉店感を出している。rooftopのインタビューにあるとおり「当事者として女性をエンパワメント」する内容ではあるが「最終的には"人間"」ともあるように、個人として自由に生きようとする人々、もしくは心にギャルがいる者ならば共鳴する部分もあるはず。
11. Tropical Interdace - OM1
Orange Milk系の音は実はあまりピンと来なくて、このアルバムも聴き始めこそそんな印象で正直そこまで期待はなかったのだけど、1曲目が結構IDMぽいのかなと思いだしたところ2曲目の「Eclipse」でブッ飛ばされた。意識をバグらせるグリッチに容赦なく殴りかかるシネマティックインパクト、メカの肉を抉るような機械音、電気羊を夢見るシンセ、そしてベース…全編通してバッキバキに踊れる脱構築クラブサウンドの決定打(Amnesia Scannerも良かったけど僕はこっちかな)。ドラムンベースやレゲトンを解体した先の先のハイパーなビートは、SVBKVLT、Do Hits、Genome 6.66 Mbp周辺など近年勢いのある中華シーンと共有するところも多そう。未来の電脳ダンスフロアへ足を向けるなら、今すぐこいつをインストールだ。
10. Mournful Congregation - The Incubus of Karma
オーストラリアの葬式ドゥーム神、フルレンスとしては7年ぶりの4th。一口にフューネラルといっても様々な美意識や霊性があるが、このバンドは名前通りの悲嘆、耽美的なまでの死を見遣るまなざし、絶望の海から臨む一縷の光をもって世のメソメソ野郎を葬儀場送りにしている。今作も冒頭から惜しみのない嘆きっぷりに鳥肌が立つ。語弊を恐れずに言えばこれは究極のギターアルバムだ。ライブではトリプルギター編成だが、ここでは部分的に5本くらい被せてそうなオーケストレーションで業深き悪夢を紡ぐ。2曲目「Whispering Spiritscapes」終盤なんかはほんと魂抜かれそうになる。Worship(多分)から連なる嘆きのギターはここまで深化した。HR/HM式の"泣き"のギターとは一線を画し、プレイヤー的な魅せ方よりどこまで聴き手をどん底に落とせるが追求されているように思う。タイトルトラックのインストにいたってはほぼ演歌か二時間ドラマのエンディングかってぐらいの名調子で、船越英一郎のしかめ面すら浮かぶ。
9. 공중도둑 (Mid-Air Thief) - 무너지기 (Crumbling)
韓国の宅録サイケフォーク、ボーカルが変わり名前を公衆道徳から同音異字(?ハングルでは一字違いか)の空中泥棒にマイナーチェンジしての2nd。1stから引き継ぐ素朴な手触りの歌が下地にあるものの、幻想的なシンセアレンジがなんとも不可思議で、次から次へと形を変える夢の中にいるような気分。Mid-Fi Electronicsのエフェクター試奏動画みたいな音のヨレ、テープスピードを落として薄れていく残像、降り注ぐ弦に少しばかり意識が覚醒したり、たまに低音が頭をもたげたり…場面が変わるごとに移ろうサウンド構築は筆舌に尽くしがたい心地良さだ。
8. 高円寺百景 - Dhorimviskha
"世界の吉田達也"率いる変拍子アンサンブル楽団、13年ぶり待望の5th。新たに加入した小金丸慧による、冒頭からハードに炸裂するギターが注目を浴びたが、個人的にはファンクやグルーヴロック的要素、是巨人がモータウンを取り入れた『Jackson』期を思い出す無国籍ミクスチャー色に胸躍った。それが3rdのハードさと4thのフュージョン感を止揚した先に出てきたことに膝を打つ。激テクに彩られた変拍子の嵐はフィジカルに作用し、いちいち指折りかぞえなくてもただただ楽しい。まさに「変拍子DE踊ろう」ここに極まれり。アルバム発売前の3月にライブを見たときも思ったけど、改めて高円寺百景は世界最高のダンスミュージックの一つだと確信した。
7. KALI - Riot
2018年の暗黒音楽新人賞。スイスジャズ畑出身の三人組によるデビュー作。北欧ジャズ的なポスト感の音響、プリペアドピアノを交えたアンサンブルでチェンバーロックばりの暗黒を奏でるミニマル実験ジャズ。いやこれはジャズなのか?Bohren & Der Club of Goreらドゥームジャズと似た重さはあるが、もっとプログレッシブでダーク。15分超の表題曲「Riot」を聴いてみて欲しい。ミニマルなフレーズから徐々に不穏さと緊張を増し、極限で堰を切ったように炸裂。後に小康状態~弱めの爆発が続くがクライマックスで今一度の発作に見舞われる。これだけの音数でポストUnivers Zeroかというほどの暗黒絵巻を描出しているのには驚嘆するばかりだ。
6. Kelvin T - Sedative
上海の重要レーベルGenome 6.66Mbpのコンピに参加していた香港の若きプロデューサー、同郷の要注目レーベルAbsurd TRAX第一弾としてリリースされたデビューEP。bandcampのライナーに「自分自身になる最初のステップは誰かになること、自分を他のものへ変形させること」とあるように、影響元であるArcaやSOPHIE、Tzusingらを踏襲しつつ自らのスタイルを探求している。ハードコア化したグライムをアジア的身体感覚に落とし込んだトラックやシネマティックな音響指向、呻くシンセノイズ、変調したボイスマテリアルなどサイバネティックなモチーフ…年末にはより独自色の顕れた1stアルバムがリリースされ、そちらも甲乙つけがたい傑作であったが、個人的にはこちらのまだ何になるかわからない蛹のような、あるいは鋳造前の鉄の煮える溶鉱炉のような熱量により惹かれるものがあった。
5. PinioL - Bran Coucou
2018年暗黒音楽界最大の事件。現代フランスいちの奇天烈トリオPoilと漆黒のプログレッシブマスコアniの合体バンドとしてRIO出場が発表されてからその実体がどんなものか気になって仕方がなかったが、RIO本番に先だってスタジオアルバムが完成、我々の前に姿を現した。両バンドとも異形なスタイルゆえ全く想像がつかなかったそのサウンドは、意外にも互いの持ち味をうまく補完しあっていて深々と納得。いやこんな合理的な結果になるとは…Poilの奇怪なエネルギーにはよりメリハリがつき、niの硬質なグルーヴはより有機的に、ともすれば両者の尖った部分を相殺しかねないが、これが絶妙な具合にピースがはまっている。Poilお得意のリニアフレーズにniの変拍子リフが合体、リズム隊がメカニカルにシバき倒す一方で上物の奇妙にうねり続ける異次元グルーヴはバチクソに踊れる。Dysrhythmiaが90年代KCの編成でMagmaを演っているような究極体のBrutal Progだ。最長曲「Shô Shin」ではこれまたPoilのお家芸なデタラメ日本語も飛び出すが、バックがポストメタル並みの重量~どうかしてるバカテクアンサンブルなので、寧ろシリアスなヤバさすら感じる。ラストの「Orbite」に至ってはShub-Niggurathの1stに迫る暗黒物質と化し、全てを闇に帰して去ってゆく。現代最強のアヴァンロック、爆誕。
4. Evoken - Hypnagogia
ニュージャージーのベテラン葬式ドゥームの新作は、第一次大戦で負傷した兵士が臨終の間際に残した手記をテーマとするコンセプト作。彼の遣り場のない激情は、手記の読み手を通して解放される。冒頭、重々しいシンセに導かれたかと思えば、すぐさま奈落に突き落とされる。今生の末が近づいた者の絶望と、それを凌いで余りある憤怒が業火となり聴くものを焼き尽くす。淡く射す穏やかなパートは微かにサイケデリックで、救いの光というよりは常世の感覚を奪っていくモルヒネのよう。「Ceremony of Bleeding」においては混声コーラスやチェロを交えた荘厳な音像がのしかかり、不穏すぎるリフを契機に狂っていく終盤が圧巻。ラストの「The Weald of Perished Men」は穏やかな導入から苦しみの最奥に達し、焼け落ちていくようなエンディングまで、まさに死にゆくときを思わせる壮絶な曲。
睡眠は甘い死だ。ここ数年、ポピュラー音楽の消費傾向においてベッドルームやヒプナゴジックといった睡眠(入眠)がキーとなっているモードが存在を大きくしているように思う。緩やかな死を求めて、ただ引き延ばしていくだけ…そんな時代に、それでも死にきれない何かを今一度奮い立たせる、徹底的に死を描くことで逆説的に生の存在を強固にするような、これぞFuneral Doomの真髄というべき作品。Funeral Doomだよ人生は!
3. Roselia - Anfang
僕にとっての2017年度はここに集約される。Roseliaについての基本的な思い入れは2017年ベストMV記事に綴った通り。2018年はRoseliaにとって大きな変化の年となった。アルバム発売後に遠藤ゆりかの引退、中島由貴の加入、明坂聡美の卒業、志崎樺音の加入…このアルバムはその変化の前まで、第一期Roseliaの集大成だ。内容はシングル5枚(カップリング含む)に加え新曲2曲という内容ながら、アルバムとしてコンパイルされることでこれまでの歩みとバンドのカラーが一層楽しめるものとなっている。
Elements Garden上松範康、藤永龍太郎(「-HEROIC ADVENT-」のみ藤田淳平、編曲は全て藤永龍太郎)による楽曲群はアグレッシブでエモーショナルなロック(MY FIRST STORYなどが近いだろうか)を軸に、「熱色スターマイン」ではOVAの海回に絡めたサーフ風のエッセンス、MORPGを題材にしたイベント曲「Opera of the wasteland」はシンフォニックなアレンジ、そして唯一のバラード曲「軌跡」など、統一した世界観の中でのバリエーションに富んでいる。メインターゲットの中高生が憧れるダークで格好良いイメージを保ちながらそうした層が触れる邦ロックやV系の小難しい部分を取っ払い、楽器初心者でも挑戦しやすいオルタナティヴメタルへ落とし込むバランスは絶妙だ。ハイライトとなるのはやはり「陽だまりロードナイト」だろう。ミッドテンポの穏やかなこの曲はベースの今井リサのイベント曲であり、どうしても初代今井リサ役・遠藤ゆりかの弾けるような笑顔が思い出され目頭が熱くなる。そして新しい始まり…アルバム内では前後するが冒頭の「Neo-Aspect」はゲーム内の新章にリンクする曲。自らの弱さを受け入れつつ歌う気迫、困難に見舞われても体勢を立て直して再起する力強さが溢れている。新曲に続いて最初のオリジナル曲「BLACK SHOUT」へ。アニメや映画などで冒頭の決定的なシーンから過去の回想が始まるような構成か。それを踏まえた上でカップリングの「LOUDER」がラストに登場するのがまたニクい演出だ。2017年ベストMVで紹介したこの曲はRoselia中最速を誇りライブでも一番盛り上がる人気曲。1stライブ追加公演アンコールでラストに演奏(この日2度目)され唖然としたのを思い出すエンディングだ。この勢いがやはり、らしいなと感じる。(めちゃくちゃ余談だけど個人的にはあさき『神曲』における「空澄みの鵯と」を思い出した。)
キャラクターによる架空バンド/実働の声優バンドという点も特殊だが、ジャケットにキャラ絵やキャスト写真を用いず(唯一1stシングルのみキャラのシルエットが写っている)、特に3rdシングル以降はDIR EN GREYやthe GazettE等のアートワークを手掛ける依田耕治らのROKUSHIKIが担当していたり、GiGSでの特集が反響を呼んだりと、いちアーティスト的な立ち位置が支持されている。先達であるPoppin' Partyより先にアルバムを発表したのも(活動の節目というほかに)この形態が求められていたからだろう。キャラクターたちのストーリーと実働のキャスト、制作チームの運命までをも巻き込んでその姿、辿る道を変化させていく様をみていると、Roseliaは単なるメディアミックスプロジェクトを超えた、まさに(原義的な)"バンド"だと思うに至る。2018年は先に述べた変化のほかに初の地上波進出やフルメンバーでは初のアメリカでのライブといった大きな躍進もあった。このバンドが今後どんな景色を見せてくれるのか、これからも目が離せない。
2. Far Corner - Risk
結果として暗黒音楽の充実した2018年だったが、2月頭にCuneiform Recordsが継続的な経営難から暫くニューリリースを見送るとの報せはショックだった。その代わりbandcamp上で週末5$セールを行ったり、ハイレゾ音源のカタログを増やしたりと模索している様子が伺えた。6月に突如Mary HalvorsonのバンドThumbscrewのダブルアルバムを発表した折も決して安定したわけではなく、寧ろここが勝負どころ、我々のできることに関心があるならサポートで応えてくれと切迫したメールが来た。自分も可能な限り購入を続けた。もしかしたら、またこういう機会があるかもしれない…その念が通じたのか(思い込みすぎか)、年の瀬も迫る11月に2つの素晴らしいリリースが届けられた。ひとつがMagmaトリビュートにも参加している激テクジャズロックのForgas Band Phenomena、そしてもうひとつがUSヘヴィチェンバーの雄Far Cornerの新作だ。
フリー配布のmp3を除けば11年ぶりの3作目。初期ELPばりの狂暴性、Uzed期Univers Zeroのダイナミズムを余すとこなくブチかます一時間強。冒頭から物々しいインパクトに持っていかれるが、2曲目「Fork」が始まった瞬間思わずガッツポーズをとったならもうこのアルバムは優勝だ。ヘヴィチェンバーにさらなる攻撃力とメタリックな質感を与えるドラムのツインペダル捌きが嬉しい。ベースギターとチェロの中低域、ピアノ、オルガン、メロトロン含むキーボード(+ゲストにヴァイオリン)という編成の妙というべきか、アンサンブルの中で多角的に美味しいフレーズが立ち上ってくるので、一貫して物々しい雰囲気ながらひと時もダレることがなく楽しめる。これぞチェンバーロック界のメカギドラや!リズミックなナンバーが続いた終盤に挟まれる「SolonEye」がまた泣けますね。そして最終決戦へ…いやほんと、USレコメンの底力をみた想いで感激。これこそが聴きたかったんだよ!ありがとう…
1. SOPHIE - Oil of Every Pearl's Un-Insides
最強の音楽に出会ってしまった、と思った。スコットランドのプロデューサー、2015年に編集版が出ているがフルレンスとしては初。安室奈美恵x初音ミクコラボ楽曲のプロデューサーとして話題になったことは後で知った。たまたまYouTubeでサジェストされた「Faceshopping」のMV(※フラッシュ・点滅注意)をみて頭をぶん殴られたような衝撃を受けたが、その後発表されたこのアルバムがもっととんでもなかった。
弾けるようにポップでありながらグライム級の抜き差し、ポストインダストリアルを匂わす鋭利なサウンド、そしてベースミュージックの破壊力を備え、レフトフィールドからみても充分にアヴァンギャルドな、余すとこなく攻めた音像だ。いやむしろ"アヴァンギャルドな音をこんなにポップに出来ている"と言うべきかもしれない。後年ポップに回収されるものが黎明期には前衛だった例は多けれど、前衛性とポップさがここまで直結・両立したものは聴いたことがないかも。作中で最もレフトフィールド~アンビエントに寄ったトラックと最終曲後半のインダストリアルな音響パート、そのどちらにも"Pretend"というワードが入っていることが気になる。何が"偽り"なのか…。
この作品がグラミー賞候補となるまで時代に刺さったことは大きな意味があるように思う。そふぃ様、クール!!!
2018年は前年より聴く新譜を絞ったため聴いた総数としては約半分の量になった。そのためベストリストを作る際に前年と同じ100枚選ぼうとすると、どうにも精度の甘さが出てきてしまった。ならばとリストも半分の50枚に絞ったところ、かなり良いラインナップになったと思う。こうしてベスト20を見返してみても前年より密度の濃いものが選べたと自負している。しかしながら年末年始で思ったことを言葉にするのが急に億劫になってしまって、まとめがえらく難航した。せっかくRateYourMusicで記録つけててリストアップまではスムーズにいったのに、結局去年と同じとこまでひっぱっちゃったし、失速感が伺える記事になってしまったが已む無し…てなことで、2019年のベストは出せるのかわからないけど、懲りてなければまたお会いしましょう。それではまた。
追記:前年同様に曲単位で良かったものをピックアップしたプレイリストを作りました。ここに紹介したアルバム以外のものが中心ですが、例外もあり。AppleとSpotifyで若干曲目変わっています。こちらもよろしくどうぞ。