くちさみしいとき、
むかし好きだったオトコと、喫煙所で居合わせた。
そいつは私の手元で燻る小さな火と、傍の山吹色の箱を見やって、
「かわいげが無いね、」と笑った。
口寂しくなるんですよ、キスしてくれる彼氏もいないんで。
先輩がなってくれてもいいんですよ。
そう冗談めかして笑った。
「オンナノコがタバコ吸ってるの、嫌だな。」
きっと彼の言うオンナノコは、かわいいかわいい彼女のことだ。
そういう自分は口元でカプセルを割っているくせに。
わたしは知っている。あなたのそれは、私のよりもずっと軽い味がする。
ニコチンやタールの軽重で何を測るでもないけれど。
あなたが吸うメンソールと、恋をしていた私が、何よりもバカらしかった。