Genie【ジーニー 精霊】の願い
ぐうう。
腹が鳴った。
腹筋に力を入れ、腹が鳴るのを抑えようとするが、その力さえない。
「ううう、腹減ったぁ」
力無く、爪を噛んだまま天井を見上げる。
爪を噛むのは小さい頃からの癖だ。
(トンポイ! 爪を噛むのは止めなさい!)
母親の声が頭の中で響く。
なつかしさと情けなさと……。
天井にポッカリ空いた薄汚れた天窓から、薄ぼんやりした曇り空が涙で滲んで見えた。
ヒョロッと背の高いトンポイは手足ばかりが長い。師匠のお下がりのローブを着ているのだが、ツンツルテンで腕も足も無様に出ている。
トウモロコシのヘロヘロしたヒゲのような髪はいつのまにか肩まで伸びていた。
魔法使いの弟子になって、三年の月日が流れた。
トンポイの親は問答無用で、息子に冒険者になるよう命じた。
自分たちの果たせなかった夢を託したわけだ。
親の命令に刃向かうことなど生まれてこのかた考えたこともない。なんの疑問も持たず、冒険者になった。
しかし、親にさえ反抗する勇気のない彼が、冒険に出てモンスター相手に戦うなど、到底考えられない。さらに、体力にも自信がなかった彼は、たくさんの選択肢から魔法使いを選んだ。
魔法使いだったら、おいそれとなれるもんじゃないだろう。
問題はすべて先送りというのが、彼の信条だった。
魔法屋でレベルの低い魔法から覚えつつ、冒険を続けるという手もあった
が、当然、彼としては避けたい道だ。
そこで、人に紹介してもらい、師匠のミルアカプの元に来た。
ミルアカプは、確かに素晴らしい魔法使いだったが、人に教えるということにあまり熱心ではなかった。
三年修行をして、覚えたのは念火と呼ばれるもの、ひとつ。
何か物体をファイヤーボールに変化させ、敵に投げつけるという術だ。
何もないところから火を生み出す、正式のファイヤーとは異なるが、選んだ物体によって火力も違ってくる。火に関係する物体であればあるほど、火力も強力なものになるという。
練習してみると、それはそれで面白い。だんだんとうまくなってくるのが楽しいのだ。
そうなると、少しずつ欲が出てくる。そろそろ次の魔法も教えてもらいたいもんだと思い始めていたのだが、肝心のミルアカプはこの二週間、姿を消したままだった。
彼がこうしてふいに姿を消すことはよくある。たいがいが何かの冒険に駆り出されているか、何かの材料を探す旅に出ているかだ。
一緒に来てもいいと言われたが、丁重にお断りした。
できれば、そんな危険なことからは身を遠ざけておきたい。
ただ、困ったことがあった。このミルアカプの家が人里離れ、森からも離れた山頂にあったということだ。すぐ食料が底をつく。師匠がいつ戻ってくるかもわからないから、おいそれと出かけられない。
というのは言い訳で。本当のところ、ひとりで外に出る勇気がないというだけだった。
ついに最後の食事(といっても、痩せこけたヤモリの干物を焼いたものと乾パン一かけだけ)を終えたトンポイは、空っぽの胃を抑えながら、師匠の書庫を調べていた。
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