第三滑走路13号を読みました
still life(青松輝)
ロボット
2021年10月24日にTwitterで発表された連作「季節について」(https://twitter.com/_vetechu/status/1452217999637708802?s=21)には、「owarino, inorino」「four seasons, for kids」の2つの節があり、後者にはstill lifeにある歌の初稿が含まれている。そして、両方に「ロボット」が入った歌がある。
楽器はない ぼくはロボットを使ってみんなにやさしくする練習
(owarino, inorino)
悲しみはあります ぼくがそう言えばぎこちなくロボットは復唱
(four seasons, for kids)
※still lifeでは「僕」表記。
また、2021年12月25日に同じくTwitterに上げられた「Xtal」(https://twitter.com/_vetechu/status/1474657678358204418?s=21)には以下の歌がある。
SADPOEMROBOT 惡い百円玉を入れてわたしは死の詩の機械
これらの歌を見ると、「ぼく」「わたし」は自分の形をしたロボットに発言を託しているように思える。音楽を奏でる楽器の代わりに不完全なロボットに口を動かさせる。お金を飲み込んで詩を吐き出す。ロボットは自分と切り離されているようで、自分自身もシステムからは逃れられない。
雨のあとの都心を高いところからみる想像をした みじかい いのち
高いところから見下ろせば、まるで自分が上位存在みたいに……ロボットを操作する人間みたいに。
王城のシャンデリア・システムのことずっと知らないふりしてたんよ
知らないふりをしていたということを、今はもう認めなければいけない。
タイトル「still life」
still life――静物画、以外にも出てくる「life」のイメージ。
実際、1首目の「スティル・ライフ」と9首目の「ヴァンパイア・ライフ」はかなり露骨に対照させているように思う。
同じ構造の「〇〇・ライフ」を持ってくることで、共通項である英単語「ライフ」の意味――生活、生命、寿命などが強く印象づけられる。
好きな歌
王城のシャンデリア・システムのことずっと知らないふりしてたんよ
ヴァンパイア・ライフ まったく台無しの毎日を血はまだ走っている
花か泥かわからないままの季節は巡って ずっと僕のターン
顛末 丸田洋渡
必然のシナリオ
洞窟の中で起こったことが時系列に並べられ、取り調べのような会話が挿入されている。引き金を引いたり、納屋を燃やしたり、人が死んだりという事件が、洞窟が塞がることによって葬られる。
過去を振り返る様子は、まるで自分たちがシナリオに沿って動いていたというような……。
温泉が凍って後戻り出来ない 分岐点ならたくさんあった
過去のある時点では未来を変えられたはずで、自分の選択のせいで現状がある……本当に?
火の本領 藁で詰まった納屋だったから穏当に燃えるに至った
藁が燃えるように、すべては避けられない運命だったのかもしれない。
初めから決められていたかのような人生ですね 私たちって(笑)
泣く泣く美化しているんです。泣く泣く。でもね、納得してもいるんです。
こうなることは最初からわかっていたから、もうできるのは運命を美しく語ることだけ。
タイトル「顛末」
顛末というタイトルと1首目はかなり親切で、洞窟で起きたことが連作が進むにつれてで順を追って明かされていく構造になっていることがわかる。
話してくれるね 事の経緯を 洞窟で何が起きて起きなかったのかを
好きな歌
贅の限りを尽くしたダンス・パーティーに紛れて危険分子は踊る
火の本領 藁で詰まった納屋だったから穏当に燃えるに至った
洞窟は塞がったんだ きみのした悪事はきらめきをそのままに
スルースキル 森慎太郎
言葉の気持ちよさ
「フラッシュ・バック/フラッシュ・フォワード」「希望的解釈 希釈」「エスパーのウィスパー」のようなキャッチーなフレーズが目に留まる。
1首の中でそれらのフレーズが他のパートとあからさまに関連しているわけではなく、連想ゲーム的な干渉の仕方に抑えているように感じた。
タイトル「スルースキル」
正直、このタイトルが連作全体をどう絡めているかはあまりわからなかった。スルースキルと言いつつ、嘘や都合の良さのことを全然スルーできていないし、なんならそれらに対抗することに自負を持っているように感じたから。
スルースキル 夏になっても秋になっても冬になっても満開の桜
常設展では、CGでは、ずっと桜が咲き続けることができる。
好きな歌
口封じ 毒はからだをゆっくりと回る観覧車の何倍も
希望的解釈 希釈 ひとりだけしらふってばれてた冬の陣
オムライスを月に喩えたところまではよかった 新月の密猟
Ephemerality 丸田洋渡
読んでいる最中、露悪と皮肉の空気が色濃くてしんどいなと思っていたのだけど、改めて読み返してみるとそこまででもなかったかもしれない。私がそういう匂いに敏感なだけかも。
この人呆れてるし怒ってる、って印象があった。リフレインや言葉遊びは快楽に繋がりやすいけれど、この連作の中のそれらは読者を気持ちよくさせるためのものではない気がする。以下好きな歌です。
〈Antiques〉
潜水艦内で殺意が芽生えたら その時のために持っていくギター
〈Symptoms〉
メロディとレメディ 幸せになるには順番が肝心ですことよ
〈Dazzling〉
冷蔵庫ごと冷蔵庫で冷やしたい愛は包含関係にある
〈Bored〉
逝ったあと少しは思い出してくれた? どっちでも/山茶花/いいけどね
〈Program of〉
ひかる悪手 熱暴走を止められずAIは夜風を浴びに行く
〈Cycle〉
どさくさに紛れて謝ってくれた 桜はもう跡形もなくなった
〈And Then〉
詩はただで書けるもの 誘拐犯は焦りを隠しながら歩いた
〈Sky Prison〉
空のバンドはもちろん空で捕まって空の檻に響かすエアギター
〈Myths〉
(詳しくはないから)天啓って酷い(分からないけど)耳鳴りのこと?
〈Ephemerality〉
重傷者には風鈴を 風がよく吹いてくる日のマルチ・エンディング