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PKshampoo、鉤括弧の中へ
今になって初めて、
今までずっと語るのを避けていた好きなバンドのことを書いてみようと思う。
私が今までPKshampooのことを殆ど語ってこなかったのは、ゴイステが私を饒舌にさせるバンドなのに対し、PKshampooは私から言葉を奪うバンドだったからだ。
背負いきれないまま背負って早く大人になろうとして、幼くて繊細過ぎた歳に反して私達の近くには当たり前のように生死があって、取りこぼすことがまだずっと怖かった頃があった。小さくなっていく制服に対して大きくなっていく掌、その中がずっと寒々しかった中高6年間。
時間だけは有り余っていて、自分の部屋の隅にうずくまるようにしてイヤホンで全てに蓋をしていた。誰かに自分の代わりの叫びを臆病に託していた最後の年、彼等は電波の波に乗って私の前で流れ星のように輝いた。君の秘密になりたい。
画面の向こう遠くで、死に際叫んでいるような、それでいて諦めているような、失うことが約束されているような、当時の私を惹きつける何かが彼等にはあった。
彼等は、決して私達に追いつかせない。大気圏の摩擦で擦り切れていくように輝きながら、どこかへ行ってしまう。そんな瞬間がモノクロのMVに焼き付いていた。
ヤマトパンクスの書く歌詞は語らないことを語ろうとしている、と思う。
言葉の限りを尽くして、「ほら結局言葉なんかでは何も変えられないだろう」と暴力的な情報量で、饒舌に証明してくる。慟哭に近い。鉤括弧で全て閉じてしまって、勝手に一人で遠くに行ってしまう。私達が、必死に彼の言葉に手を伸ばしている。
厳密にはPKshampoo名義の曲ではないのだけど
「地平線の少し向こうで君が泣いてる、今は一番大切なもの一つしか見えない」
雑多で殺伐として正しさの欠片ももう見失った頃、酩酊の後に来るような世界が開けたトランス状態、無双感のような。徹夜を繰り返した後の重たい身体と、かえって醒めきってしまった視界のような。
彼の曲はいつも答えのない問いを剥き出しのままぶつけてくる。葛藤と諦めを、まるでキュビズムのように多角度から「ほら、どうしようもないだろう」と見せつけてきて、しかもそのまま自分で閉じてしまう。
玄関先の水溜り飛び越えるみたいに、君のこと探しに行くから待っててよ
それはペダンティックな知識遊びではなく、内面は幼子の泣き声のように真っ直ぐだった。何も考えていないのではない、沢山の情報が錯綜して、パンクして溢れ出て、かえって何も言えなくなった状態がある。
PKshampooの曲を聴くときは、そんな感覚に等しい。重たいzipファイルをデスクトップ上にぶちまけているような気持ちになる。散らばったそれらは脈絡がなく雑多なようで、全てがただ一つ、同じ向きを向いている。
デスクトップにぶちまけたその多すぎるファイル達は、私達の諦めの中身であり、同時にかつての独りよがりな希望であったものだった。
PKshampooは私の小さな時代そのものであり、私の全てであり、同時に何でもない。彼らが饒舌に口を閉ざすように、私達の生活もまた饒舌に口を閉ざしたまま混沌とここにある。
箸を置くように、タバコを吸うように、鍵をかけるように、彼らの曲は私の一部になっていて、それは何でもないこと。
笑うように、或いは泣くように私達はやり過ごして、まだ見ぬ君にはいつも臆病な願いを託している。
君の秘密になりたい。
君の秘密になりたい
世界中でただ一人
僕の秘密になった人、きらきらと光る人
画像出典;PKshampoo公式サイト