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【短篇】情愛線

枕木の上に寝転がると、二人はお互いの唇を求めあった。
既に日は暮れており、線路の点検をする作業員を除いて、二人の障害となる者はいなかった。

半ば剥ぎ取るように服を脱がせあうと、彼は彼女の中に入った。前戯はなかった。その必要もなかった。彼は本能のまま動いた。彼女もそれを求めていた。

二人は獣のようだった。言葉を交わす代りに、彼らは口づけをした。
自分たちが人間であることを確かめるように、何度も。何度も。二人はお互いに掴みあい、爪を立て、ときに嚙みついた。
その血が、汗が、体液が、線路を伝ってその下の石や砂礫に染み込んだ。


彼の動きが激しくなった。彼女は彼を抱き寄せると、両足で彼の腰を掴んだ。やがて彼の動きはゆっくりになった。
彼女は自分が彼のもので満たされたことを感じると、目に涙を浮かべ、彼に口づけした。


二人は土と油と汗にまみれた体で笑った。頭上には秋の澄んだ星空が広がり、月光が彼らを薄く照らしていた。

二人は手を重ね、時が来るのを待った。



音がした。
二人は再び口づけすると、その手をひときわ強く握りあった。

列車が線路の上を通過し、血と肉塊が周囲に飛び散った。

非常ブレーキが夜の闇に響き渡った。

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