『帰れない男』観劇の感激

私は殆ど観劇をしない。
地方に住んでいるのと家庭の事情があることで劇場に足を運ぶのが難しいからだ。
もちろん地方でも何かしら公演があるが必ずしも観たい物が上演されるわけではないし、観たい物に限ってこちらでは上演されず遠征しなければならなくなるがそれは出来ないでいる。
ただ、演劇を全く観ない訳でもなくて、WOWOWに加入しているので、好きな三谷幸喜作品などはそこで観ている。
生が一番いいのは承知してるんだけど、なかなかそうはいかないのでそれに甘んじているけど特にそれで不満はない。
そんなわけで、好きな俳優である林遣都君の舞台があるからといってホイホイとは行けない。ほぼ最初から諦めている。

それが今回、何故『帰れない男』を観たかというと、私にとっては奇跡とも思える地元での公演だったからだ。
地方巡業があっても大抵はスルーされるような土地柄なのに、だ。
これは行かなければ!失礼ながら内容なんて二の次。林の遣都氏の生の舞台が観られる!それだけで良い。
いや、もちろん彼がつまらない作品に出る訳がないという期待感はあった。
そして実際とても堪能出来た。

前置きが長くなり過ぎました。
以下、感想です。

内容としては不条理劇の様相で、何処か屁理屈のような台詞の応酬、でもそんなに難解でもなく、どう物語が転がって行くのか興味深いのと、登場人物が交錯する様が舞台セットと相まってとても面白く出来てたと思う。

主人公・野坂は人妻を助けたことでその邸に招かれるが、そこから帰れなくなる。
でも、本当に“帰れない男”だったのだろうか。むしろ帰らない、或いは帰りたくない男。帰れないと言うのならそれは言い訳に過ぎないというか。
この招かれた邸の中の主人とその妻との、自分も含めた関係に面白みというか旨味を見つけて、身を委ねていただけだったのでは。それは例えば自分の妻とのことを先送りにしたいが為に。
彼らの棲む世界は決して単純ではないのだけれど、彼ら自身が殊更複雑にしているような。
台詞、演技を追っていけばいくほどに、このややこしさをよく観客に伝えているなと感じたけど、それは脚本も演出も演技も凄いってことだし、舞台セットもユニークで、この物語にはこれ以上ない相応しさだと思った。

それにしても、この物語に愛はあったのだろうか。主人公と人妻の間にも、人妻とその夫の間にも純粋な愛があったようには見えなかった。
むしろ女中の主人に対する慈愛とか、主人公の友人が横恋慕のように見えて主人公の妻を想う気持ちの方に愛があったのではないか。そんなふうに思えた。
そういう機微を読み取る為に、改めて観るのもいいけれど、むしろ戯曲として読んでみたいという思いにかられた。

さて、目当てだった俳優である林遣都君ですが。
映像の場合と同様、また違う顔を見せてくれた。つい最近観た某ドラマと本当に全然違う。
そこに居るのは明らかに生身の彼でありながら、野坂なのだ。役を生きてはいるが、本来の彼も其処にいるような感覚。
映像で観る以上に彼の本来の姿なのか白い肌や透き通った眼が際立っていて、それはこの少し怪奇な物語に似つかわしく思える。ラスト近くでとどめを刺すような台詞を言う時の迫力にも痺れた。狡猾さが目立つような役だったけど気迫の人でもあった。

最前列やや上手側というとても良い場所で観られたことで、より強く感じたことなのかも。私の真正面に立つことも多かったのは至福でした。
余談ですが…アマチュア劇団に在籍してた若い頃、今回のこの会館の舞台に私も立った事があります。改装されているので若干違うかもしれないけど同じ景色を彼も私も見たのかもしれないと思うと感慨深いのです。

他力本願ですが、また機会に恵まれることがありますよう。


#帰れない男
#林遣都











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