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超年下男子に恋をする㊵(会えないのはお母さんが理由?)
年末に『進撃の巨人』全巻(当時出ていたところまで)借りていた。
今回は前回の『鬼滅の刃』の時とちがって、返すのはいつでもいいと言われていた。だから、年をまたいでしまい、読む暇もなく、返さないで持っていた。
彼の物が私の部屋にある。
それだけでどこか繋がっている気がしていた。
アニメも並行して観ていたけれど、リアタイで観ていた初期が昔過ぎて、内容やキャラクターも忘れていたので彼によく聞いてみたりした。
LINEの返事は遅いし、絵文字もスタンプもなくなって、だんだんそっけない感じになってきた彼だけど、漫画の話になると途端に饒舌になる。
彼はこの頃はジョジョにはまってもいて、動きがジョジョというか、しょっちゅうくねくねしていた。
私は実はジョジョは連載開始の頃ジャンプで読んでいる。
でもそれを言うと年がバレるので、ただ第一部だけ読んだことがあるとだけ言っていた。
そんなジョジョが原因で飲み会がドタキャンになった。
以前、私が酔っ払って尾てい骨を強打して彼にフラれた本当に初期の黒歴史のメンツ、つまり私と彼と健でまた飲みに行こうと約束していたのに、直前になって彼が
「その日はジョジョの生配信があって……」
と私に言ってきた。
「じゃ、やめる?」
となったけど、生配信の終了時間は19時ぐらいで、そのあとからでも飲み会はできた。
そのように誘導すればよかったのに、私はいつも白か黒か、行くか行かないかのAll or Nothingな人間なので、「じゃ、いいよ」となってしまった。
でももうこれで二回目だ。
「二回連続都合付かないってなったら行く気ないのかって思うよ。もし本当に都合悪いだけで次回はぜひっていうならせめて、いつぐらいなら空いてますぐらい自分の都合言わないと、行く気ないと思われて二度と誘われなくなるよ」
とまた説教みたくなった。
まあ、彼はジョジョがあるからどうしようって思っただけで行かないとは言ってなかった。でも私が「それならいいわ」となってしまったからこうなった。
正直私はおもしろくない気分だった。
クリスマス、元旦以来、彼はなかなか私と出かけようとしない。
初詣ってわけじゃないけど、近くの神社の抹茶処も断られたし、沖縄そば食べようという約束も延期。
理由はいつも一緒で、
「お母さんにコロナだからダメって言われてて」
とお母さん理由。
でもそれだけじゃないのは何となくわかっていた。
クリスマス以来、お母さんの監視が厳しくなっている気がする。
帰りも前より急かされる。
クリスマスや元旦に距離がさらに縮まったと思ったのに、年が明けると前よりも二人きりで会うのが難しくなった。
じゃあ、飲み会ならって思ったのに、彼の都合で流れるし、私は正直不満がたまっていた。
お母さんの心配はわかる。彼が今年三年生になることが大きく関わっているんだろう。
実は12月、彼は私にだけこう言った。
「あの、実は僕、三月でバイト辞めようと思ってるんです」
どうやらお母さんに言われたらしい。彼の言葉はお母さんの言葉。
「僕、三年生になったらゼミがあるし、忙しくなると思うんです」
また留年するわけにはいかないってことなんだろう。
大好きなダンスも辞めさせられたんだから、バイトも辞めさせられて当然。
「私もその頃には辞めてるかも」
私がそう言うと、なぜか彼はうれしそうな顔。
「辞めましょ、辞めましょ、ここたいへんですし」
彼は自分がいなくなったあとの私の負担まで考えているのだろうか。
辞めるのは簡単。でも辞めたら私たちは会えるの?
そんなふうに思った。
ただでさえ、バイトの時間以外会えなくなった彼に私は会えるかわからない。
そう思っているのに、彼はバイト前のお茶すらしてくれなくなり、冬だというのに私が迎えに行くことも断るようになった。
私と彼のつながりはもはや『進撃の巨人』だけ……なんて思いながらも、もう返そうと漫画をまとめていたら、うっかり一冊表紙を折ってしまった!
汚さないようにカバーをかけたり、細心の注意を払っていたというのに!
それでも私は借りていた漫画を彼に返すべく車内に積んでバイト先に持って行った。
そして彼をバイトから送る帰り道……車内でぽつりとつぶやいた。
「あのね……ちょっと言いたいことがあるんだけど……」
でも漫画好きの私としては大事な漫画を折ったなんてとても言えない。
新しいのを買って返すことも考えたけど、彼が持っているのはすべて初版。初版にこだわりがあるのかもしれないし、その辺もふまえて対処方法は本人の意向を聞いてからということで、まずは正直に折ったことを伝えようと思った。
「あの……これ言うと、嫌われちゃうかなと思って……でも言わなきゃなと、言うべきだなと思うんだけど……」
「なんですか? 気になるんですけど」
彼もなぜか緊張した様子。
そうこうしているうちに彼の家の前についてしまった。
私は車を停めて何度か深呼吸をした。
「え、なんですか? めっちゃ怖いんだけど」
彼もなぜか動揺している。
「あの……」
私は彼の目をじっと見た。
そしていつもなら「そんな目で見ないで」という彼が私の目を見て言ったのは
「あ、もしかして漫画ですか……?」
「え、なんでわかるの?」
「わかりますよ」
「実は……折っちゃって……ごめんさい」
そう言って、私は折った表紙部分を示し深々と謝った。
すると彼は
「なーんだ、こんなことか」
とどこかほっとした様子で笑った。
「え、怒んないの?」
「怒りませんよ」
急に緊張が解けたようにほっとした様子を見せたのは彼だった。
後になってみれば、告白は告白でも愛の告白と間違えたのかも。
だから動揺した?
でも彼は私の気持ちなんてとっくに知っているはず。
でも知っていたんだろうか。本気で好きなことをどこまで?
むしろ彼よりもお母さんが誕生日やクリスマスを通して感じとっているんじゃないだろうか。
それをお母さんに言われたから彼が変に構えているのでは?
そんなふうにすら思った。
もしもあのとき私が漫画のことじゃなく、愛を告白していたらどうなった?
でもそうはならないことも彼はどこかで知っている。
『山田さんは決して僕の嫌がることをしない』
『山田さんはわきまえている人だから』
『山田さんは最終的には僕の言いうこと聞いてくれる』
これらの言葉がストッパーになって、私は何も言えなくなる。
彼を困らせることはしたくない。
そうやって押し殺して押し殺して、蓋をさせられた想いは、歪んだ愛の形となって彼にぶつけてしまうようになる。
『私のこと大好きなのは知ってるよ』
『はいはい、そうなんじゃないですか?』
『愛してるよ』
『はーい』
そんな無邪気でたわいないやりとりをしていた頃が、今となってはなつかしい。胸が締め付けられるほど。