超年下男子に恋をする㉜(「好きだよね?」愛されないから言ってみる)
女子大生の西さんが辞める日、リョウと彼も誘って、バイト後、彼女のお別れ会をした。場所はあのヤンキー店主のいる焼鳥屋。その店の話をしたら西さんがおもしろがって行きたがったからだ。
その日彼は自転車だったので、後から合流することになった。
焼き鳥屋は彼の家の近く。
彼はすぐ店に現れた。
特攻隊風店主の無愛想な接客は評判通りで、それが逆におもしろくて、西さんも楽しそうにしていた。
最初のデートで二人きりで来ていたら彼も緊張しただろうけど、この夜は楽しく過ごせた。
彼は日本酒も前よりは飲めるようになっていた。
「うえー、おいしくない」
と顔をしかめていたけれど、全部飲み干して、酔った様子。
私と二人きりならば、こんなに無防備にはならない。
二人きりじゃなくても私の前では酔ったりしない。
なぜか二人で食事になると、彼はいつも緊張している。
珍しく酔った彼に
「山田さん、好きですって言ってみて」
とふざけて言ってみる。
ものすごく照れながら
「いやですよー」
と言う彼にかまわず私は言う。
「いいじゃん、言ってよ」
彼は観念したような顔でボソリと「好きです」とつぶやく。
「えー、なに?聞こえないよー」
それはお会計も終えた店の前。
「山田さん好きです(超早口)」
「聞こえなーい」
「好きでーす(あらぬ方へ叫ぶ)」
「えーっ」
「はい、もう言いました、言いました! 帰りましょ!」
そんないつものじゃれあいにリョウたちも笑う。
正直、これはお遊びで、真剣に「私のことどう思ってる?」なんて聞く勇気はない。
私はいつもすぐ消える元旦那に対して「私のこと好きじゃないんでしょ」とよく言っていた。
でもこれ言霊、言葉の呪い。
「好きじゃないんでしょ?」って言うほど私は不安になったし、言われてる方も「じゃ、そうなんじゃない?」なんて言い出した。
本当にこういう試し行動は意味がない。
否定的な言い方で問いかけて、「そんなことないよ」の打ち消しで安心しようとするのは無意味。しかも相手がどう答えたって不信感は拭えない。それ以前に「好きじゃないんでしょ?」の自分の言葉で疑心暗鬼に拍車がかかる。
だから私は彼にはいつも
「私のこと好きだよね?」
とか
「大好きなのは知ってるよ」
と言ってきた。
自分も「好きだよ」と何度も言った。
でもどこまで本気かなんて彼はたぶんわかってない。
いや、どこかでそれを感じ取っているから、私と二人きりを避けるのかもしれない。
でも完全に避けないのは、私への気遣いなのか何なのか。
「私のこと好きじゃないよね?」
これは「そんなことないよ」と相手が言ってくれるのが期待できるから言えること。
本当に自分のことを好きじゃないのを知ってたら、終わりを覚悟した時にしか言えない。
だから私は冗談ぽく「私のこと好きだよね」と自己完結して終わらせる。
そんな心理も知らない彼は
「そこまで大好きでもない」
なんて平気で言ったこともある。
そもそも、彼は「人に興味ない」なんて今の若者にありがちなことを言ってくる。仲いい友達でさえ、数か月に一度会う程度。
自分の世界を守るのが精一杯。
だからどんどん彼に近づく私に戸惑っている。
彼にとって間違いなく私は最も近い異性。
バイトの人ってだけでは言い切れないぐらいのこともしている。
若い頃ならこの関係が焦ったくてたまらなかっただろうし、エゴをぶつけて相手も自分も傷つく恋ばかりしていた。
でも私は彼に対してそんなことはしたくない。
彼の安穏としてる世界を守りたい。
恋など知らず、マザコンのまま、童貞のままでいてほしい。
でもこれもきっとエゴだろう。
自分のものにならないのなら、誰のものにもならないでほしい。
私に恋をしないなら、恋を知らないままでいてほしい。
彼には言わない、傷つけない。
それでもやはり同じこと。
恋する私は醜いほどにエゴの塊になっていた。
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