見出し画像

超年下男子に恋をする⑥(実家暮らしの年下男子の家庭的な雰囲気に癒される)

 その頃は緊急事態宣言下ではなかったので、バイト先の店の閉店時間は22時。それからラスト作業をすれば帰るのは23時。
 バイト後に食べに行ける店は限られてた。
 よく行くのは深夜2時まで営業していたハンバーグレストラン。
 私はいつも新入社員の夕夏を家まで送っていたので、彼女に誘われるままバイト後ハンバーグを食べに行くことが多かった。

 ある時、ラストが一緒の彼のことも誘ってみた。

 彼は急な誘いでは行けないと申し訳なさそうに断った。家でお母さんがご飯を用意して待っているからと。
 そう、彼は実家暮らし。留年してしまったこともあり、お母さんが厳しくなったという。
 「また今度誘ってください」と言われたけど、社交辞令だと思っていた。

 でも今度は彼の方からいつにするか決めてこようとしたので約束。 
 ただその直前、数日前に夕夏が行けなくなった。「どうする?」と私が聞くと、彼はあっさり「二人で行きましょう」と言った。

 そして約束の日当日。

 バイト後に外で待ち合わせ。
 見るからに高そうなお洒落シャツで少し緊張したように店の前の自動販売機の前で待つ彼を見たとき、なぜか私まで緊張した。
 バイトの子たちに「デートですか?」と言われたけれど、これじゃまるで本当にデートみたいだ。

 しかも、私が選んだのは、深夜営業の焼き鳥屋。
 
「お酒飲む店ですよね?」

  彼はそわそわ落ち着かない。

「酔ってもすぐ送り届けてあげるから飲みなー」
 
 ここを選んだのは、彼の家から近いといった理由もある。
 酔っても特に問題ないはずだ。
 運転する私はもちろん飲まない。そもそも駐車場ある店なんだし、飲まなくたっていいはず。

「あの、二人でお酒飲む店に行くって、なんか変じゃないですか?」

 最初は意味がわからなかった。
 私がその店を選んだ理由は、食べログでやたら店主の評判が悪かったから。それでも常連がいるということはさぞやおいしい焼き鳥なんだろうと思ったからだ。

「お酒飲む店って別に焼き鳥屋だよ?しかもちょっと面白そうなんだよね」

 私は気楽にそう言ったけど、彼は終始落ち着かない様子。
 今思えば、彼にとって「女性と二人で酒を飲む」は初めてのことで、一大事件だったのだろう。
 彼はずっと緊張して落ち着かない様子だったから、到着後、彼が入りやすい店かどうか、まず私が先に様子を見に行った。

「すみませーん、駐車場の場所確認したいんですがー」

 そう言って入口の戸を開けると、中にいたのは紫のつなぎの金髪リーゼントにグラサンの昭和特攻隊風店主。
 食べログの評判より店主がパワーアップしている!
 なぜか流れているのは重くておどろおどろしいジャズ。客は一人もいない。店主は評判通り不愛想で、駐車場の場所をボソッとつぶやき、「いらっしゃいませ」も何もない。

「ありがとうございまーす」と戸を閉めた後、真っ先に思ったのは

(あー、こりゃ、うちの子ダメだわ)

ってこと。

 案の定、店の様子を見たまま彼に伝えると、

「違う店行きましょ! ぼ、ぼくやだ!怖い! 」

と震え上がった。

 結局いつものハンバーグレストランに落ち着いた。

 まあ、お子様にはファミレスぐらいがちょうどいい。見知った場所で彼もようやくほっとした様子を見せた。
 
 そして急に饒舌になる。
 彼の話の八割はお母さん。家族の写真まで見せてきた。
 母さんも姉さんもごつい・・・。
 ちなみに彼もどちらかというとごつイケメン。

 彼が私のことをやたら華奢だとか言う理由がよくわかった。私は身長170で178の彼から見れば小さく見えるのかと思ったけれど、単に一緒に暮らしている母さんと姉さんが比較対象だったからだとこの時わかった。
 
 その時彼は自分の茶髪時代やコンビニバイト時代の写真、一番かっこいいでしょって写真、とにかく色々見せてくれた。私も自分の写真を見せたけど、化粧もほとんどしていない写真をやたら「可愛い」と絶賛したので、男子はすっぴん女子に弱い説は年増でも通じるのかと思ったりもした。

 彼の食べ方を見てると育ちがいいのがわかる。きちんと背筋を伸ばして、携帯は伏せて見ないようにして、私が食べきれないサラダも残さずきれいに平らげる。

 そして門限を気にしていた。

 なんていうか、彼の背後に彼の実家が見えるというか、サザエさんみたいな家庭臭がする。

 若い女子ならそういうところは別にポイント高くないのかもしれない。でも私は、特にこの時の私は、彼の持つ家庭的な雰囲気に強く惹かれた。

 ごはんを食べて、家に車で送り届けた時にはすっかり遅くなっていた。
 それでもなんだか名残惜しくて、彼のマンションの裏に車を止めて、ずっと話していた。
 前に私が「ものまねしてよー」と言って以来、彼は練習していたようで、それを披露しようとするのだけれど、やる前に何度もためらって、YouTubeで元ネタを確認。
 この頃の彼は小学生みたいで、私は子供の成長記録を撮り続ける母親のように動画撮影しながら「かわいい~」なんて言っていた。ものまねよりも、一生懸命がんばろうと緊張している姿が可愛くて永久保存版と思った。一瞬のものまねのあと、両手で顔を隠して照れているところも。

 そして彼は車を降りて、私の車を見送りながらぺこりと頭を下げた。
 家に帰った時にはきちんとお礼のLINEを入れてきた。
 そして「楽しかったです」の言葉。

 さらに距離が縮まった気がした。

 だからこの直後、彼が無断欠勤でとぶなんて、想像さえもしなかった。

 

いいなと思ったら応援しよう!