超年下男子に恋をする㉚(年上晴れ女は年下雨男をどんどん好きになっていく)
彼と元旦那の共通点。
一文字違いの名前、同じ血液型、家族構成など。
そして驚いたのが私との何気ない会話の中に出てきたもの。
それは元旦那も語ったミミズ。
元旦那は自分をミミズに例えた。
自分はミミズみたいなもので土の中で眠っている。光の方を目指してる。土の中でゆっくり動いている
確かそんな話だった気がする。
なんとなく、自分の殻を大事に守る感じというか臆病で常に誰かの保護を求めているといった印象を受けた。
そして彼ともなぜかミミズの話になったから、私はその時のことを思い出して驚いた。
それはバイト後、外に出たら雨が降っていて、ミミズがアスファルトに出てきてた時のこと。
「うわー、ミミズやだー」
ミミズが嫌いな私が言うと
「そんなこと言っちゃだめですよ。ミミズは土を耕したり、いいことしてくれてるんですよ」
とお年寄りが言いそうなことを彼は言った。
「それに、土の中から出てきて、道路でつぶされたり干からびてかわいそうなんですよ」
それを聴いたとき、「あっ」と思った。
同じミミズの話でも元旦那とはちがう。
元旦那はまさに土の中から出てきてしまったミミズだ。
でも彼はそれをかわいそうと言った。
はっきり思った。
彼は元旦那とは全然ちがう。
元旦那はいつだって自分が一番かわいそうって人だった。
でも自分がされたことを思えば元旦那をかわいそうとは思えなかった。
でもこの時、彼の話を聞いた私は、彼と同じ視点になって、ミミズへの見方も変わった。
「そうだね、今までミミズ大嫌いだったけど、ちょっと見方が変わったよ。なんかかわいそうだね……ありがとね……」
彼は何気ない一言がいつも優しくて温かい。
基本、失礼だしデリカシーの欠片もないんだけど、心が温かいんだと思う。
彼といるとそれまで嫌いだったものさえ、優しい目で見れるようになる。
彼は雨男らしく、本人曰く父親譲り。単身赴任のお父さんが帰ってくるときはいつも飛行機が欠航になるぐらいの雨になるという。
だから、自転車通勤でバイトに来ても、帰りが大雨ってこともよくあった。
そして私が車で送ることになったんだけど。そうなると自転車を置いて帰らなければならない。その自転車は彼がこれまで自分で買ったものの中で一番高い大事な宝物で、バイト先に置いておくのは心配らしい。
前にも一度、自分の自転車とまったく同じ自転車を途中で見かけて心配になったとバイトに来た時言っていた。
だから彼が自転車を置いていかないように、雨が降りそうなときは、私が迎えに行って、帰りも送るという約束だった。
お母さんに何か言われているからか、私が迎えに行くのを嫌がるようになったけど、雨なら仕方ないと思うらしく、私はいつも雨を期待した。
彼を迎えに行くのが好きだった。
近くのコンビニで待ち合わせをして、着いたら電話。
そして彼が窓をノックして助手席に乗る。
家を出る時は雨でも、私が到着すると雨はやむ。
「私、晴れ女なんだよね。だからほら、晴れたよ」
私がそう言うと、
「じゃ、僕ら、一緒にいたらちょうどいいですね」
と彼が言う。
「でも僕、雨男だから、二人でいると曇りですね」
「でも私の方が強力に晴れ女だから」
そう言ってたら、晴れ間がのぞいた。
「ほらね、だから、私といれば大丈夫だよ」
「はいはい、そうですね」
私が笑顔で言うと、彼は照れ隠しの真顔でいつものように聞き流す。
彼といると雨の日もミミズも嫌いじゃない。
私はどんどん彼のことが好きになっていった。
ある夜、車で送って彼の家の前。
土から出てきて怯えて狂暴になった元旦那の話をしたときのこと。
「元旦那」とは言わなかったけど、怒鳴られたり蹴られたりしたことを思い出したら、辛くなって泣いてしまったことがあった。
その時彼は、唇を震わせて怒った
「ひどいな……本当に許せない……」
「ごめん、泣いて」
「いいんですよ、僕の前では泣いちゃってください」
「そんなこと言われたら、もっと好きになっちゃうよ……」
そう言って彼をみつめると、彼はまた逃げ出した。
「ありがとうございまーす!じゃ!」
慌てて車を降りて手を振って帰る。
本当に相変わらずの態度だ。
それでも彼は恩人だ。
元旦那に「あなたにいいところなんてあるんですか?」と言われて、すっかり自信をなくしていた私に私のいいところを思い出させてくれた。
「山田さんは優しい、いつも僕たち学生のことを考えてくれる、いつも僕らと同じ目線で話してくれるし、話もちゃんと聞いてくれる」
まあ、超ハードで人を大事にしているとはとても思えないバイト先だったので、学生のことはずいぶんかばったし、面倒もみてきた。自分が学生の頃と比べたらたいへんすぎると思ったから。
でも逆に私がしんどいとき、いつだってすぐにそのことに気づいて優しくしてくれたのは彼だった。
私がクレーム対応でしんどくて、電話を切ってつっぷしたときも、そっとお茶を置いてくれた。
これでどうして好きにならないというの。
本当にどんどん好きになっていく。
元旦那と違うところ。
瞬間的にショートして判断力もなくなった麻薬みたいな恋じゃなく、じわじわ熱を帯びていく確実で温かい想い。
きっと「恋」が通り過ぎても、私は彼が大好きだ。
なんで好きだったんだっけ?なんてことはないぐらい、彼のいいところは今でも言える。想いが消えることはない。