超年下男子に恋をする㉒(マザコン男子が話す八割は無自覚にお母さんのこと)
彼の話の8割はお母さんのこと。
私が指摘するまで、彼はそのことに気づかなかった。
「僕ってもしかしてマザコンですか?」
本人だけが自覚ないだけで、話せば誰でもそう思う。
飲食店バイトの面接で「ドラマが観たいので日曜日に休みたいです」と平然と言った彼は、日曜日、お母さんと一緒にドラマを観る習慣があるらしい。
お母さんは仕事をしていて日曜日が休みらしい。
「家族みんなそろう日は家にいるのが当然じゃないですか!」
と彼は言う。
彼の「当然」はお母さんの「当然」。
「お母さんは僕の学費のために一生懸命働いてくれてるんです!」
それもお母さんがいつも「あんたのために働いてるのよ!」と言っているからなんだろう。
お母さんがそう言いたくなるのもわからなくはない。
この時彼は大学二年生だったが、本当だったら三年生。つまり一年留年している。高校時代は陰キャな彼は、大学でダンスを始めて陽キャデビュー。
でも彼はそもそも器用な方ではない。ダンスに夢中になってしまい、勉強との両立ができずに留年。
クラブに行って飲めないお酒でいきなり吐いて、出禁になる前に逃げ出して……と話を聞くだけでも、相当キャラ的に無理をしていたんじゃないかと思わされる。
そして留年…。
ご両親は四年分の学費しか出さないと言ってるらしいから、バイトをしなければならないんだろう。
でもコロナ時期なのでバイトもあまり募集していない。
募集していたのは超ブラックでコロナだろうが関係なく利益重視だった飲食店。
そして同じくコロナで海外の仕事に戻れなくなった私と出会ったというわけだ。
「お母さんの次に尊敬します!」
あれこれ面倒をみているうちにそう言われたのが最初だった。
「お母さんのこと好き?」
そう聞いたら「はい!」と満面の笑顔で言った。
それを見て、マザコンとは思わなかった。
その時は、親を好きって言えるっていいなぁと思ったし、尊敬していると言われるお母さんは素晴らしいなぁとさえ思った。
でもそんな彼が次第に
「お母さんが最近うるさい。家を出たい」
と言い出すようになってくる。
「いいんじゃない? バイト先の近くにレオパレスあるよ」
と私が言うと
「山田さんは一人暮らししないんですか?」
と聞いてきた。
私は日本では一時的に父の家に仮住まいしていた。
コロナが終わればすぐ海外に戻れると思って部屋を借りる予定はなかった。
でももし私が一人暮らししていたら……
「じゃ、私がレオパレス住んだら、来る?」
軽く聞くと
「行きますよ」
と即答だった。
「もし」とか「たとえば」は想像しても意味がない。
でももしどちらかが一人暮らしだったら、私たちの関係はとっくにちがったものになっていたかもしれない。
実際、友達の職場の人で彼女がアラフォー、彼氏が二十歳というカップルがいる。
この二人は仲の良い友人同士で男の子は彼女のことを「ねーさん」と言って慕っていたという。
そして彼女の家に入り浸っているうちに一線を越えてしまったそうだ。
よくある話。
それこそ漫画の「深夜食堂」なんかではあるあるな展開。
ただこの男の子は素人童貞で真の童貞ではないし、アラフォー彼女も隙だらけで男好きするタイプらしい。
でも何より一番大きかったのは、その彼は実家を離れた一人暮らしだったということ。門限なんて当然ないし、監視するお母さんもいない。
それにしても、私と彼が出会ってからほんの短い期間で、彼はどんどん変わっていく。
あんなに「おうち大好き」「おかあさん大好き」「卒業後も家を出ない」と言っていた彼が、「家を出たい」まで言い出すなんて。
一時的な反抗期なだけかもしれない。
彼は結局マザコンだ。
でも私はマザコンの彼が嫌いではない。
「お母さんのこと大好きなところ、大好きだよ」
そう言ったこともある。
でも本音の部分では、お母さんと離れた彼と出会っていたら?とも思う。
その思いはどんどん強くなっていった。
お母さんが私の存在に気付き始めたようだから。
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