超年下男子に恋をする㉑(メンヘラとヤキモチに年は関係ない)
「年甲斐もなく」
そう言われたらそれまでだけど、私はけっこうヤキモチ焼きだ。
そもそも大人になるっていうことは、自分を客観視したり、抑制できるようになるってことで、ようするにごまかしがうまくなることだとも言える。
でもそもそも恋愛脳は理性でどうにかなるものじゃない。それこそ年は関係ない。本当に自分でも驚いた。
バイト先には桜ちゃんという17歳の女子高生がいた。
彼女は不思議系天然女子で空気を読めないところがある。
私と彼が二人でラストの日、桜ちゃんはとっくに上がってた時間なのに、なぜか裏に戻ってきて、「お手伝いします!」と言い出した。
周りの人は、私と彼が二人の時は邪魔をしないというか、二人で一緒に裏にいる時に入ってくる人はほとんどいない。
でもなぜか桜ちゃんは裏で洗い物をする彼の隣でずっと彼に話しかけていた。
私はレジ上げをしながら、その様子を気にしていた。
彼は基本的に人と話すのは緊張するタイプ。そしてなぜか年下の子を前にするとお兄さんぶりたがるというか、それであとでどっと疲れたりする。
そのことを私は知っていたはずなのに、愛想笑いだとしても、桜ちゃんに笑顔を見せる彼を見るのはいやだった。
しかも彼は、いつも私と話すときには自分ばかりが話すくせに、桜ちゃんには気をつかって「そうなんだー」とか「そっちは?」とか相槌や質問で返したりする。それもがんばって合わせているだけだとわかっていたけれど、それでも私はおもしろくない。
私はそんな二人の様子を見たくないから黙々とレジ上げしていたけれど、彼がちらちら私の様子を気にしている。
「山田さん、そっちだいじょうぶですか?」
「だいじょうぶ」
そう答えた私の声は、自分でも驚くぐらい不機嫌だった。
それでも桜ちゃんは気にしない。でも彼が明らかに動揺している。
そしてレジ上げを終えたけど、彼の方がまだ終わっていない。
さすがにそれは遅すぎると思い、軽く注意するつもりが……
「そんなにしゃべりたいならもういいから二人で一緒に上がりなよ」
信じられないぐらいきつい言い方になってしまった。
さすがに自分でもまずいと思った。
幸い桜ちゃんは気にしない様子で、
「終わりましたー!あー楽しかった!」
と言ってご機嫌で帰っていった。
その後の私たち二人の間の空気が微妙。
そして二人とも上がったけれど、いつも先に着替えて私を待っているはずの彼が、私が着替え終わってもまだロッカーにいる様子。
私は二階の休憩室で待たないで、階段の下の入り口前で彼を待つことにした。
階段を降りてきた彼は、私を見たとたんホッとした顔をした。
「よかったぁ、帰っちゃったかと思った……」
どこかおどおどした様子で私の態度をうかがう彼をみたら、それまでのとげとげした感情が一気になくなり、とろけるような甘い気持ちになった。
「さっきはごめんね。桜ちゃんと仲良く話しているのみてちょっと嫌だったんだよ」
正直に言うと、
「不快な思いさせてごめんなさい」
と彼までなぜか謝ってきた。
別に私たちは付き合っているわけではないし、私のヤキモチなんて彼にとっては不当な怒り、彼女面もいいところ。
それでも彼はいつもいつも私の機嫌を損ねることを何より恐れる。
この日とは別の日、彼の方が急に早上がりになって、私より先に帰ることがあった時、やっぱり私は不機嫌になった。
まあ、この時は、ヤキモチとかではなくて、単に一緒に帰れなくなって、がっかりしたってだけだけど。
私ががっかりしてるのに、久々に早く家に帰れる彼は露骨に大喜びしたのもあってムッとした。
でも結局は彼に「上がっていいよ」と言って先に帰した。
最後に外の暖簾などを片付けようとしていたら、私服に着替えた彼が暖簾を持って入り口から入ってきた。見ると、外の作業も全部終わらせてくれていた。
そしてまた、いつものおろおろした顔で私に謝る。
「山田さん残して先に帰ってごめんなさい」
「いいよー。ただ二人で片付けた方が早いし、早く終わらせて一緒に帰りたかっただけ。手伝ってくれてありがとね」
そう言って私が笑うと、彼もほっとしたように笑った。
そして少し照れ臭そうに言う。
「山田さん、今度メシ行きましょう」
彼から二人でごはんに行こうと誘ってくるのは初めてだった。
私たちはいつもこんなふうにすぐ仲直り。
大抵私が彼女面で機嫌悪くなるか、彼の失言が原因で怒ることが多いけど、どちらも基本わりと素直に人に謝るタイプなので
「お互い気をつけましょうね」
と彼が言ってまるく収まる。
私が彼女面の時は彼は何も悪くないし、彼の失言は彼自身の無神経さによるもの。
それでもいつも私たちは「お互い気をつけようね」で収める。
これが私は嬉しかった。
元旦那だと何があっても私が百悪くなって、理詰めで一方的に責められた。
でも彼は、「ごめんね」といえば「こっちこそごめんなさい」と言ってくれる人。
彼女でもないのにヤキモチ焼かれる筋合いないとか決して言わない人。
「山田さんなら何でも許してくれると思って」
と普段は言いたい放題言うくせに、私が不機嫌になると慌てて機嫌を取ってくる。
そして私が笑うとほっとして笑う。
本当に私たちの関係は一体何なんだろう。
これもやっぱり「お母さん」だから?
今もわからない。彼にとって私は一体何なのか……。
はっきりとわかるのは、彼は私に嫌われるのを恐れていたということだ。
だからこそ、お母さんと私の板挟みで困ったこともあっただろう。
この頃から彼は「家を出たい」と言い出すようになってくる。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?