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超年下男子に恋をする⑱(触れ合うには理由が必要。車内で秘密のマッサージ)
酔って転んで尾てい骨強打。彼に介抱させた黒歴史。
その後も尾てい骨はなかなか回復しなくて、シフトがほぼ全被りの彼は甲斐甲斐しく私のサポートをしていた。
尾てい骨打って何がつらいかというと振動。ちょっとでも振動が走るとビキッとなるので、激しい動きは当然できないし、階段の上り下りもつらい。
しかも二階のロッカーまでは急な階段。
彼は私が着替え終わるまで上で待っていて、私がくるとまず荷物を持つ。そして腕を差し出して「つかまってください」と言う。
初めはおんぶしようとしていた。でもさすがに怖かった。酔ってるときの姫抱っこだってできなかった彼だし、階段は急。だから腕にしがみつき、一段一段ゆっくり降りた。
かがむのもつらいので、彼が靴を履かせてくれる。
そして車に乗るときも抱きかかえるようにして座らせる。
もうここまでくると本当に介護なんだけど、私は不謹慎なことに、彼に堂々としがみついたりできるのが嬉しくて、身を任せる快感を存分に味わっていた。
尾てい骨強打は長引いたけど、一か月もすると次第によくなっていった。
でも私は運動不足も原因なのか、足がつりやすくて、ある時、急に仕事中足がつってその場から動けなくなってしまった。
それはデザートや飲み物を作る場所で、その時は後片付けの時間だった。
「どうしたんですか?」と彼が言うので、
「足がつっちゃって」と答えると、
彼はなんと私の前に突然かがんで、靴を脱がせて足の裏をマッサージし始めた。
二人きりとはいえさすがに驚いた。でもパッとそういう行動ができる彼が頼もしかったし、少なくとも嫌いな相手の足の裏なんて、潔癖な彼はさわりたくないはずだから、嫌われてはない、むしろ好かれてる?なんて思って、彼の心配そうな顔もうれしかった。
「足がつりやすいのは水分不足ですよ!」
そう言って、私に水を飲ませたり、世話を焼こうとする彼に、甘えるのも悪くなかった。
「本当にあなたって人は……」
そう言いながらも、しょうがないなーと甘えさせてくれる彼のことが大好きだった。「あなた」って言われるのが好きだった。私以外の人に「あなた」と言うことはないのも知ってる。なんだろう、むず痒い感じ。誰かわかってくれる人はいるだろうか……。
尾てい骨はまだ痛いわ足はつるわで、帰るころにはもうボロボロ。休憩室で横になったらもう動けない。
「ほら、帰りますよ」
と彼に言われて
「起こしてよ」
なんて介護を求める。
付き合っているわけでもない私たちはお互いに触れるには理由がいる。
私は尾てい骨強打や足がつる状況を利用していたけれど、彼も彼でそんな私のあざとさを許してくれていたようにも思う。
そのうちどんどん要求がエスカレートしていって、足のマッサージも人前ではできなくなってきた。
ある夜、バイト後、夕夏を降ろした後、私は足がつってしまった。
車をすぐに発進もできない。
その時助手席の彼がとった行動。
「僕の膝に足をのせてください」
私はつった左足を彼の膝の上にのばした。
「もっとこっちですよ」
彼はわたしの足をしっかり自分の上にのせて、足の裏をマッサージする。
「だいじょうぶですか?」
足の裏だけじゃなくふくらはぎもマッサージしてくれる彼。
お互い思っていたと思う。
(この状況はちょっと……)
私は夕夏が窓から見ないかを気にしていたし、彼は彼で人通りを気にしていた。誰もいないけれど、そこはお互い気にしていた。
ただでさえ彼は、夜中、彼の家の前で車の中で二人の時、そばを通り過ぎる人を気にして
「僕ら、一体どう思われてるんだろう」
なんて言ってくる。
ましてやこんな状況じゃ、車内の空気が微妙な感じになってもしかたない。
それでも私は彼のやさしさを利用して、「ありがとう」とか「だいぶよくなってきたよ」と言いながらも「もうだいじょうぶ」とか「もういいよ」は言わない。
彼に密着していたかった。
そしてこのマッサージはさらにエスカレートしていった。