超年下男子に恋をする⑲(童貞クライシス。車内マッサージの混乱とパニック)
「キスしたい」
酔って勢いでせがむキスじゃなく、自然な流れの車内キス。
そうなればいいのにと思うようになったのも、車内マッサージがもう恒例になってきた頃だった。
そして姑息な手段に出た。
「いつもマッサージしてもらってばかりだから、今度は私がしてあげる」
そう言って、彼の手をマッサージ。
彼は肩をもむとかベタなのもダメ。すぐくすぐったいというし、やたら防御力が高い。
今思えば、あれは性感帯が未発達な証拠だろう。
その時の手のマッサージでも、最初は「変な感じがする」とずっと言っていた。
私は彼の大きな手が大好きだった。お餅みたいで弾力性もあって……。
そして腕が太い。腕の方までマッサージすると、初めて「気持ちいいですね」と言ってきた。
でもそこまで。
なぜか彼は胸に手を当て落ち着かない様子。
「え、胸痛いの?」と胸に触れると、なぜか胸を撫でさする。
あれも今思えば防御の体勢。
それを私はドキドキしているのかもなんて都合よく解釈したものだから、警戒センサーが振り切れてしまった彼は、うっかり人間に遭遇してしまった野ウサギのように、あわてて車を降りて逃げてしまった。
そしてさらに別の夜。
もう夜中1時ぐらいだったと思う。
二人きりの車内でいつものマッサージ。
「五分だけ」
そうねだったけれど、
「あなたいつも五分で終わらないでしょ!」
と彼は言う。
それでも
「しょうがないなー」
となるから、私の要求はさらにエスカレート。
ふくらはぎから太ももの方までマッサージをねだる。
その日は私はスカートだった。
彼は黙々とマッサージをしていたけれど、車内の沈黙は微妙な空気を作っていく。
「僕……こんな夜中に女の人の太ももさわって……へ、変態だ!」
動揺し始める彼に、私は腰が痛いと言って腰へのマッサージを要求。
彼は私の腰に手を回す。
運転席の私の左足は彼の膝に乗っていて、助手席の彼が私の腰に手を回すと、自然と胸に顔をうずめるような体勢になる。
息がかかるほど密着し始めたその時、彼の動揺が限界に達した。
「僕、もう……やだ!!!!」
そう言って、彼は車を降りたかと思うと、運転席側に立ち、後部席の荷物を取りながら、私に向かって言い放つ。
「僕、僕……大学の課題だってあるのに! 門限もあって、早く帰らなきゃないのに! 明日も早いのに!」
私に怒りをぶつけてくる。
どうして僕をこんな目に合わせるんだ!とでもいうように、彼は激しく動揺し、どこか混乱状態だった。
(そんなに嫌だったのか……)
私もショックを受けていて、もうその時何を言ったか覚えてないけど、彼があまりにも混乱状態なので、どこか冷静だった気がする。
「ごめんね」
彼に謝って車を発進して去った。
次のバイトの時、彼は、私のそばに来て気まずそうな顔をした。
「ひどいこと言ってごめんなさい……」
なぜ彼が謝るのかわからなかった。
実は今もよくわからない。
私に嫌なことさせられて、童貞喪失の危機にさらされて、不快感と混乱で攻撃してきたのかと思った。
彼はこの日を境に私に対してよくわからない態度をとってくるようになった。
私は今でもわからない。
あの時、あの夜、一体彼がどういう心理だったのか……。
答えは今もあの夜の闇に置き去りのまま。
あの時逃げた彼の心理、私に怒りをぶつけた心理、そのくせ私に謝って、またそばに寄ってくる心理。
本当に本当にわからない……。
ただただ今でもあの時の拒絶を思うと悲しくなる。
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